今回ご紹介する言葉は、ことわざの「火中(かちゅう)の栗(くり)を拾う」です。
言葉の意味や使い方・由来・類義語・対義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「火中の栗を拾う」をざっくり言うと……
読み方 | 火中(かちゅう)の栗(くり)を拾う |
---|---|
意味 | 自分の利益のためではなく他人の利益のためにあえて危険を冒すこと |
由来 | フランスの詩人であるジャン・ド・ラ・フォンティーヌの寓話、『猿と猫』 |
類義語 | 火中取栗、危ない橋を渡る、手を出して火傷するなど |
対義語 | 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らずなど |
英語訳 | pull someone else’s chestnuts out of the fire.(火の外に他人の栗をつまみ取る)など |
このページの目次
「火中の栗を拾う」の意味をスッキリ理解!
「火中の栗を拾う」の意味を詳しく
「火中の栗を拾う」とは、自分の利益のためではなく他人の利益のためにあえて危険を冒すことという意味のことわざです。
このことわざを完全に理解するために押さえておくべきポイントは、その危険な行動を起こす目的が、「自分の利益のため」ではなく「他人の利益のため」ということです。
具体的には、「火中の栗を拾う」は以下のような人のために危険を冒すことを表すことわざです。
- まったく関係ない他人
- 友人
- 家族
- 会社・組織
自分の利益のためにあえて危険を冒して行動する場合、「火中の栗を拾う」ということわざを使うことはできないのです。
以上を踏まえると、「自分以外の利益が目的」「危険を冒して行動」の二点に合致した場合には、「火中の栗を拾う」ということわざが当てはまると考えることができます。
「危険性を理解した上で挑戦する」という意味もある
「火中の栗を拾う」には「危険を理解した上で挑戦する」という意味もあります。
これは厳密に言えば誤用なのですが、よく使われている意味です。
たとえば、会社で誰もやりがたらない厄介な案件にあえて挑戦することを指します。
この場合には自分に利益がある場合でも使われます。
「火中の栗を拾う」の使い方
- 重要な取引に失敗した部長のために、こんな危険な取引を担当するなど火中の栗を拾うようなものだ。
- これが火中の栗を拾うようなことであったとしても、私は親友を助けるために行動する。
- 今回のトラブルは会社の上層部の問題なのだから、君がわざわざ火中の栗を拾うことはない。
「火中の栗を拾う」の由来
「火中の栗を拾う」の由来は、ジャン・ド・ラ・フォンティーヌというフランスの詩人が書いた『猿と猫』という寓話です。
ジャン・ド・ラ・フォンティーヌは17世紀活躍したフランスの詩人で、『イソップ物語』を基にした寓話を書いたことで有名です。
由来となった寓話の内容は以下のとおりです。
あるところに、猿と猫がいました。
猿と猫が、暖炉の中で栗が焼けるのを見ていたところから始まります。
猿は、一緒に見ていた猫に「君なら火の中の栗もうまく取り出せるんだろうね」という風にそそのかしました。
おだてられた猫はその気になって、暖炉の中から何とか栗を3個取り出すことができました。
しかし、猫はひどいやけどを負ってしまったうえに、取り出した栗はすべて猿に食べられてしまいました。
猿にそそのかされて危険を冒した猫は結局、踏んだり蹴ったりの結果となってしまったのです。
この寓話が基となり、自分の利益にはならないのに他人の利益のために危険を冒して行動して、時にひどい目に遭ってしまうことを「火中の栗を拾う」ということわざで表現するようになりました。
ちなみに中国にもまったく同じ語源、意味を持つ「火中取栗(かちゅうしゅりつ)」という言葉があり、現在では日本でも四字熟語として使われています。
ちなみに、由来となったフランスや中国では、このような行為は「愚かなこと」として扱われています。
しかし、日本では「火中の栗を拾う」行為を「自己犠牲精神がある尊い行為」だと捉える傾向にあります。
- 寓話(※):擬人化した動物を主人公とした、教訓や風刺を含む物語のこと。
「火中の栗を拾う」の類義語
「火中の栗を拾う」には以下のような類義語があります。
- 火中取栗:自分の利益のためではなく他人の利益のためにあえて危険を冒すこと
- 危ない橋を渡る:危険だとわかっていながらあえて危険を冒すこと
- 手を出して火傷(やけど)する:余計なことに首を突っ込んで痛い目にあうこと
- 虎穴に入らずんば虎子を得ず(こけつにいらずんばこじをえず):危険を避けていては大きな成功もありえないこと
- 一髪千鈞を弾く(いっぱつせんきんをひく):非常に危険なことをすること
- 藪(やぶ)をつついて蛇(へび)を出す:しなくても良いことをして状況を悪化させること
- 犬も歩けば棒に当たる:余計なことをして思いがけない災難にあうこと
「火中の栗を拾う」と「危ない橋を渡る」の違い
「危ない橋を渡る」は「危険だとわかっていながらあえて危険を冒すこと」という意味です。
「火中の栗を拾う」と「危ない橋を渡る」には以下のような違いがあります。
- 火中の栗を拾う:他人のためにあえて危険を冒す
- 危ない橋を渡る:あえて危険なことを行う
「火中の栗を拾う」は「他人のために」危険を冒す行為を指しますが、「危ない橋を渡る」は「自分、もしくは他人のために」危険を冒す行為を指すのです。
「火中の栗を拾う」の対義語
「火中の栗を拾う」には以下のような対義語があります。
- 触らぬ神に祟りなし:面倒なことに関わらなければ災いを招くことはない
- 君子危うきに近寄らず:徳のある人間は危険な所には近づかない
- 危ないことは怪我のうち:危ないことにははじめから近寄ってはいけないということ
「火中の栗を拾う」の英語訳
「火中の栗を拾う」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- pull someone else’s chestnuts out of the fire.
(火の外に他人の栗をつまみ取る) - take a risk for someone.
(他人のために危険を冒す) - run risks for others.
(他人のために危険を犯す) - Take the chestnuts out of the fire with the cat’s paw.
(猫の足で人の中の栗を取り出せ)
まとめ
以上、この記事では「火中の栗を拾う」について解説しました。
読み方 | 火中(かちゅう)の栗(くり)を拾う |
---|---|
意味 | 自分の利益のためではなく他人の利益のためにあえて危険を冒すこと |
由来 | フランスの詩人であるジャン・ド・ラ・フォンティーヌの寓話、『猿と猫』 |
類義語 | 火中取栗、危ない橋を渡る、手を出して火傷するなど |
対義語 | 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らずなど |
英語訳 | pull someone else’s chestnuts out of the fire.(火の外に他人の栗をつまみ取る)など |
「火中の栗を拾う」の意味や使い方など理解するポイントは、自分の利益のためではなく他人の利益のためということでした。
「危ない橋を渡る」とも混同されやすいことわざですが、そのことわざとの違いも「火中の栗を拾う」が他人の利益のためという点にあります。そのポイントを押さえておけば混同も避けられるでしょう。
危険を冒すことも時に必要であるかもしれません。しかし、このことわざの由来が典型的であるように、他人の利益のために危険を冒した結果、散々な目に遭うこともしばしばです。
「火中の栗を拾う」ようなことはできるだけ避けていきたいところです。