今回ご紹介する言葉は、ことわざの「敵に塩を送る」です。
言葉の意味・使い方・由来・類義語・対義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「敵に塩を送る」をざっくり言うと……
読み方 | 敵に塩を送る |
---|---|
意味 | 敵が苦しんでいるときに、弱みにつけ込もうとするのではなく、逆に苦しみから救う行為をすること |
由来 | 上杉謙信が、対立する武田信玄に塩を送ったという逸話 |
類義語 | 呉越同舟、正々堂々、相手を利する、など |
対義語 | 不意打ち、傷口に塩を塗る、痛いところをつく、など |
英語訳 | show humanity even to one’s enemy (敵に思いやりを見せる)など |
このページの目次
「敵に塩を送る」の意味をスッキリ理解!
「敵に塩を送る」の意味を詳しく
「敵に塩を送る」は、敵が苦しんでいるときに、弱みにつけ込もうとするのではなく、逆に苦しみから救う行為をすることを意味することわざです。
「正々堂々」「真っ向勝負」と意味的に通じる部分があり、相手と自分が最善の状態で戦いたい、というニュアンスが含まれています。
敵というと戦争の相手方をイメージしがちですが、スポーツの対戦相手や競合企業の社員など、立場上競争をしている相手であれば該当します。
また、苦しみというと普通は肉体的苦痛・精神的苦痛を意味しますが、単純に相手が困っている場合などにも使います。
「敵に塩を送る」と「傷口に塩を塗る」は響きが似ていますが、意味は正反対なので注意が必要です。
「傷口に塩を塗る」は悪いことの上に悪いことが重なるという意味です。
「窮地に陥っている人をさらに追い込む行為をする」というニュアンスで使われることもあります。
「敵に塩を送る」の「敵が苦しんでいる時に敵を助ける行為をすること」という意味とは正反対です。
「敵に塩を送る」の使い方
- 長年敵対している国が、大規模災害で甚大な被害を受けている。敵に塩を送ることになるが、国際的な自国評価を上げるために、寄付金を送ろう。
- 昨日の卓球大会で、決勝戦を前に対戦相手はラケットを無くしていた。敵に塩を送るようなことになるため、一瞬ためらったが、正々堂々勝負するために予備のラケットを手渡した。
- 彼は敵に塩を送る行為をした結果、試合に負けてしまったが後悔はしてないそうだ。
「敵に塩を送る」の由来
「敵に塩を送る」は、戦国時代の武将である上杉謙信の以下のような逸話から出来たことわざです。
1567年に、甲斐(現在の山梨県)を領地とする、戦国武将の武田信玄は、駿河(現在の長野県)の今川氏と相模(現在の神奈川県)の北条氏から、「塩止め」を受けていました。
「塩止め」とは、ある地域(甲斐)へ塩を売ることを禁止する行為です。
甲斐は海に面してないため、塩は他国から輸入する必要がありました。
「塩止め」により塩が手に入らない甲斐の人々塩不足に陥りました。
当時、塩は調味料としてのみではなく、食べ物の保存に必要不可欠なものでした。
また、体を激しく動かす戦争では、塩は武士たちの生命維持には不可欠なものでした。
そんなとき、武田信玄と対立しているはずの上杉謙信は「今川氏から塩止めに協力するように頼まれたが、それでは甲斐の人々が苦しむことなる。信玄とは弓矢で戦うのであり、米や塩で戦うことはない」と手紙を送り、塩を送らせたと言われています。
武田信玄はそんな上杉謙信の行動に感謝し、現在では重要文化財に指定されている「弘口」と銘打たれた福岡一文字の太刀を送りました。
この太刀は通称「塩留めの太刀」と呼ばれています。
この敵国であるはずの甲斐を助けた行動から、「敵に塩を送る」という言葉が生まれました。
「敵に塩を送る」は本当にあったのか?
実は、上杉謙信が武田信玄に塩を送った決定的な証拠はなく、「後から創作された話だ」という説もあります。
上杉謙信が塩を送った根拠の1つとなったのは、『謙信公御年譜(けんしんこうごねんぷ)』の記述です。
しかし、『謙信公御年譜』の内容には、間違いがあることが指摘されています。
ただ、「塩留めの太刀」は実在するため、「敵に塩を送った」のは本当だったという説のほうが有力です。
また、甲斐に塩を送ったのは本当であるものの、塩不足の地域で、商人が相場より高く塩を売りさばいただけであったという説もあります。
決して、無料で塩をプレゼントしたわけではありません。
上杉謙信は優秀なビジネスマンでもあったため、塩がなくて困っている武田信玄に塩を売れば大きな利益が得られると考えたのです。
ただ、ビジネスが目的だったとしても、塩が手に入るのは武田信玄と甲斐の民によって大変ありがたい話です。
「敵に塩を送る」の由来の正確な真偽は不明ですが、「塩を送ったのは事実だが、無料ではなく有料であった」という説が有力です。
「敵に塩を送る」の類義語
「敵に塩を送る」には以下のような類義語があります。
- 呉越同舟(ごえつどうしゅう):仲が悪いもの同士が共通の目的で協力すること
- 正々堂々(せいせいどうどう):正しいやり方に則っていること
- 相手を利する:相手に利益を与えること
- 敵に味方する:敵を援助すること
- ハンデを与える:技量に差がある者同士が良い勝負ができるように強者に与える不利な条件
- フェアプレー:ルールを守り、敵も尊重すること
「敵に塩を送る」の対義語
「敵に塩を送る」には以下のような対義語があります。
「敵に塩を送る」の英語訳
「敵に塩を送る」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- show humanity even to one’s enemy
(敵に思いやりを見せる) - help someone in difficulty even though they’re one’s enemy
(たとえ敵であっても、窮地にある誰かを助ける) - help an enemy in difficulty
(窮地にある敵を助ける)
“humanity” は、「人類」という意味の他に、「人間性、人間らしさ」「思いやり」という意味があります。
まとめ
以上、この記事では「敵に塩を送る」について解説しました。
読み方 | 敵に塩を送る |
---|---|
意味 | 敵が苦しんでいるときに、弱みにつけ込もうとするのではなく、逆に苦しみから救う行為をすること |
由来 | 上杉謙信が、対立する武田信玄に塩を送ったという逸話 |
類義語 | 呉越同舟、正々堂々、相手を利する、など |
対義語 | 不意打ち、傷口に塩を塗る、痛いところをつく、など |
英語訳 | show humanity even to one’s enemy (敵に思いやりを見せる)など |
敵に塩を送ったというエピソードが本当であれば、非常にかっこいいですね。
しかし、当時は戦国時代であり、日本が未だ1つになっていませんでした。
争いや裏切りも絶えなかった時代です。理想的で人道的な行動ばかりでは、武将として生き残れなかったのかもしれません。