夏炉冬扇とは「季節外れや時期外れで、役に立たないもの」という意味です。
ただ単に、「役に立たないもの」という意味で使ってる人も多いのではないでしょうか。
「季節や時期が外れている」という部分を含まないと、誤用になってしまうのです。
この記事では夏炉冬扇の意味や使い方を詳しく解説します。
☆「夏炉冬扇」をざっくり言うと……
読み方 | 夏炉冬扇(かろとうせん) |
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意味 | 季節外れや時期外れで、役に立たないもの |
語源 | 『論衡』の「逢遇」 |
類義語 | 六菖十菊 牛溲馬勃 寒に帷子、土用に布子 など |
対義語 | 時期尚早 |
英語訳 | summer fires and winter fans (夏の炎と冬のうちわ) useless things (役に立たないもの) a white elephant (厄介なもの。持て余してしまうもの) |
「夏」「冬」がつく語 | 夏雲奇峰 夏下冬上 冬夏青青 など |
このページの目次
「夏炉冬扇」の意味
季節外れや時期外れで、役に立たないもの
夏炉冬扇は、以下のように成り立っています。
- 夏:季節の夏
- 炉:火をつけて暖をとる場所
火鉢、暖炉など - 冬:季節の冬
- 扇:風を起こす道具
扇(おうぎ)、うちわなど
夏には「火をつけて暖をとる場所」は不要ですし、冬には「風を起こす道具」は必要ありません。
つまり、夏炉冬扇は「季節や時期が外れているため、役に立たないもの」を表します。
そこから転じて、以下のような意味ももちます。
- 今となっては役に立たない人物
- 寵愛(ちょうあい)を失った女性
- 恋人に捨てられた女性
ただし、現代では、上記の意味ではほとんど使いません。
「夏炉冬扇」の表記
夏炉冬扇は以下のように表記することもあります。
- 冬扇夏炉(とうせんかろ)
- 夏鑪冬扇(かろとうせん)
鑪は、火鉢やいろりを表します。
「夏炉冬扇」の使い方
夏炉冬扇は、名詞として使います。
例文を見てみましょう。
- こんなに暑いのに、こたつをまだ片付けないとは、まさに夏炉冬扇だ。
- 調味料の賞味期限が切れていたため、夏炉冬扇となってしまった。
- やっと手に入れたゲーム機も、新しいものが発売されてからは、もはや夏炉冬扇だ。
夏炉冬扇は、「単に役に立たずなもの」という意味ではなく、「季節や時期が外れているため、役に立たないもの」という意味です。
例えば、「どうせ使わないのに、健康グッズを買うのは夏炉冬扇だ。」という文があるとします。
これは、「季節や時期が外れている」という意味を含んでいないため、誤用です。
「夏炉冬扇」の語源
夏炉冬扇の語源は、『論衡(ろんこう)』の中の「逢遇(ほうぐう)」です。
これは、中国後漢時代の思想家である王充(おうじゅう)が自分の思想を書いたものです。
この文章の中に、以下のような一節があります。
作無益之能 納無補之説 以夏進鑪 以冬奏扇
(役に立たない才能やつまらない意見を皇帝に言うことは、夏にいろりに勧め、冬にうちわを差し上げるようなものだ。)
この文章の一部である夏鑪冬扇が、「季節外れや時期外れで、役に立たないもの」という意味になりました。
「夏炉冬扇」の類義語
夏炉冬扇には多くの類義語がありますが、以下の2パターンに分けることができます。
- 四字熟語
- 四字熟語ではないもの
それぞれ見ていきましょう。
類義語①四字熟語
- 六菖十菊(りくしょうじゅうぎく)
時期が遅れて役に立たないこと - 牛溲馬勃(ぎゅうしゅうばぼつ)
つまらないもの。役に立たないもの - 牛糞馬涎(ぎゅうふんばせん)
つまらないもの。役に立たないもの - 泥車瓦狗(でいしゃがこう)
役に立たないもの - 陶犬瓦鶏(とうけんがけい)
形ばかり立派で、実際には役に立たないもの - 屋上架屋(おくじょうかおく)
無駄なことを繰り返すこと - 牀上施牀(しょうじょうししょう)
無駄なことを繰り返すこと - 対牛弾琴(たいぎゅうだんきん)
何の効果もなく無駄なこと - 対驢撫琴(たいろぶきん)
何の効果もなく無駄なこと - 屠竜之技(とりょうのわざ、とりょうのぎ)
①立派な学問を学んでも、実際に役に立たなくては無意味であること
②優れてはいるが、学んでも役に立たない無駄な技術のこと - 画蛇添足(がだてんそく)
余計なものをつけ足すこと
「六菖十菊」を詳しく
六菖十菊は、「時期が遅れて役に立たないこと」という意味です。
六菖十菊は、以下のように成り立っています。
- 六
端午(たんご)の節句である5月5日に1日遅れることのたとえ - 菖
植物のショウブ
※端午(たんご)の節句に必要 - 十
重陽(ちょうよう)の節句である9月9日に1日遅れることのたとえ - 菊
植物のキク
※重陽(ちょうよう)の節句に必要
ショウブもキクも、それぞれの節句に一日でも遅れると、役に立たなくなってしまいます。
そのため、六菖十菊は「時期に過ぎてしまい、役に立たないこと」を表します。
類義語②四字熟語ではないもの
- 寒に帷子、土用に布子(かんにかたびら、どようにぬのこ)
季節外れで役に立たないこと - 喧嘩過ぎての棒乳切り(けんかすぎてのぼうちぎり)
時機に遅れて、役に立たないこと - 喧嘩果てての乳切木(ちぎりぎ)
時機に遅れて、役に立たないこと - 蛇足(だそく)
余計なもの - 月夜に提灯(つきよにちょうちん)
不要で、無駄なこと - 月夜に提灯夏火鉢(なつひばち)
不要で、無駄なこと - 無用の長物(むようのちょうぶつ)
あっても邪魔になるだけで、役に立たないもの - 昼行燈/昼行灯(ひるあんどん)
昼間に点灯している行灯のように、ぼんやりしている人
「夏炉冬扇」の対義語
夏炉冬扇には以下のような対義語があります。
- 時期尚早(じきしょうそう)
あることを行うにはまだ早過ぎること
「夏炉冬扇」の英語訳
夏炉冬扇を英語に訳すと、次のような表現になります。
- summer fires and winter fans
(夏の炎と冬のうちわ) - useless things
(役に立たないもの) - a white elephant
(厄介なもの。持て余してしまうもの)
“a white elephant” は、直訳すると白い象です。
以下のようなエピソードが由来になっています。
なぜなら、タイにおいて白い象は神聖な生き物であるものの、実際には何の役にも立たないからです。
また、象を育てるためには大量の餌が必要であるため、餌代がかかるだけになってしまうのです。
そのため、 “a white elephant” は「厄介で持て余してしまうもの」を表します。
関連:「夏」「冬」がつく語
夏炉冬扇のように、夏と冬がつく四字熟語は他にもあります。
- 「夏」がつく語
- 「冬」がつく語
それぞれ見ていきましょう。
「夏」がつく語
- 夏雲奇峰(かうんきほう)
夏の入道雲がつくるめずらしい峰 - 夏下冬上(かかとうじょう)
炭火を起こす時、夏は炭の下に火種を置いて、冬は炭の上に火種を置くと、よく火がおこるということ - 夏候拾芥(かこうしゅうかい)
学問をおさめるのことは大切であること - 夏癸殷辛(かきいんしん)
自分の欲のために人を苦しめる人 - 夏虫疑氷(かちゅうぎひょう)
世間知らずで物事をよく知らない人 - 九夏三伏(きゅうかさんぷく)
夏の最も暑い時期
「冬」がつく語
- 冬夏青青(とうかせいせい)
どんな時も変わらない固い信念 - 冬日之温(とうじつのおん)
君主から家臣への恩恵が優しくあたたかいこと - 曼倩三冬(まんせいさんとう)
優れた才能を持つ人は、短期間で教養を身につけることができる
「夏炉冬扇」のまとめ
以上、この記事では夏炉冬扇について解説しました。
読み方 | 夏炉冬扇(かろとうせん) |
---|---|
意味 | 季節外れや時期外れで、役に立たないもの |
語源 | 『論衡』の「逢遇」 |
類義語 | 六菖十菊 牛溲馬勃 寒に帷子、土用に布子 など |
対義語 | 時期尚早 |
英語訳 | summer fires and winter fans (夏の炎と冬のうちわ) useless things (役に立たないもの) a white elephant (厄介なもの。持て余してしまうもの) |
「夏」「冬」がつく語 | 夏雲奇峰 夏下冬上 冬夏青青 など |
夏炉冬扇の意味は「役に立たないもの」ですが、意味を知ることは役に立ちますよね。
夏炉冬扇であるかどうか、正しく見極める力を身につけていきましょう。