今回ご紹介する言葉は、四字熟語の「大義名分(たいぎめいぶん)」です。
言葉の意味・使い方・由来・類義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「大義名分」をざっくり言うと……
読み方 | 大義名分(たいぎめいぶん) |
---|---|
意味 | 人として、また臣下として守るべき道理や節義。もしくは自らの行為を正当化するための理由・道義。 |
由来 | 『資治通鑑(しじつがん)』 |
類義語 | 大義滅親、金科玉条、錦の御旗など |
英語訳 | good reason(正当な理由),in the cause of ~(~のために),on the pretext of ~(~という表向きで)など |
このページの目次
「大義名分」の意味をスッキリ理解!
「大義名分」の意味を詳しく
「大義名分」には以下のような2つの意味があります。
- 人として、また臣下として守るべき道理や節義
- 自らの行為を正当化するための理由・道義
それぞれの意味について詳しく見ていきましょう。
意味①:人として、また臣下として守るべき道理や節義
「大義名分」は「人として、また臣下として守るべき道理や節義」という意味の言葉です。
現在でもこの意味で用いられることがありますが、現在では②の意味のほうが使用頻度が高いです。
意味②:自らの行為を正当化するための理由・道義
「大義名分」は「自らの行為を正当化するための理由・道義」という意味です。
現在ではこの意味で使うことが多くなっています。
「大義名分」が「自らの行為を正当化するための理由・道義」として使われるようになった理由は、日本の幕末時代までさかのぼります。
幕末の時代、列強に対する日本人としての自覚や、国家の君主である天皇に対する忠誠心が、「大義名分」という熟語で表現されるようになりました。
そして、それが政治運動を支える理念として、明治維新を推進する役割を果たしました。
しかし、幕末の政治運動は、幕府によって規制されていました。
そのため、反幕派は自らが「正義」であると主張するために、天皇に対する忠誠という「大義名分」を持ち出し、自らの行動を正当化しました。
「大義名分」の使い方
「大義名分」は以下のような言い回しで用いられることが多いです。
- 大義名分が立つ
- 大義名分を掲げる
- 大義名分が必要
- 大義名分のもと
それぞれの言い回しの意味について、例文とともに詳しく見ていきましょう。
「大義名分が立つ」の使い方
「大義名分が立つ」とは、「良い口実になる」または「根拠として成り立つ」という意味の表現です。
上記の例文では「良い口実になる」という意味で用いられています。
「大義名分を掲げる」の使い方
「大義名分を掲げる」とは、「口実に過ぎないことを前面に押し出して主張する」もしくは「正当な理由を主張する」という表現です。
- 「球に慣れさせる」という大義名分を掲げてはいるものの、あの意地悪な先輩が押し付けてくるのは、ただの球拾いにすぎない。
- 「侵略国の打倒」という大義名分を掲げて、A国は反撃を開始した。
❶の例文では「口実に過ぎないことを前面に押し出して主張する」、❷の例文では「正当な理由を主張する」という意味で用いられています。
「大義名分が必要」の使い方
「大義名分が必要」とは、「口実・もしくは根拠が必要」という意味の表現です。
「大義名分のもと」の使い方
「大義名分のもと」とは、「ある口実・もしくは根拠を主張として」という意味です。
「大義名分を掲げる」と似たような意味です。
「大義名分」の由来
北宋(ほくそう)の儒学者である司馬光(しばこう)が表した書物『資治通鑑(しじつがん)』が由来となっています。
司馬光は、『資治通鑑』の冒頭で以下のように述べています。
君主が社会の秩序を維持するためには、大義と名分を尊重する必要がある。
この言葉が「大義名分」の由来となっています。
「大義」の意味
「大義」とは、「人として従うべき道徳」という意味の言葉です。
儒教の思想でよく出てくる言葉です。
「名分」の意味
「名分」とは、「主従関係や身分に応じて、守らなければいけない道徳上の身の丈」のことです。
「名」は、君臣・父子などの主従関係を表す漢字です。
「分」は、社会における個人の正しい身分や取り分を表します。
「名分」も儒教の思想でよく出てくる言葉です。
「大義名分論」とは?
「大義名分論」とは、「主従関係で、上下の秩序や礼節を重んじる思想」のことです。
儒教の中でも、特に朱子学が重視した理念のひとつです。
日本でも、江戸幕府が統治理念として採用しています。
ただ、幕末になると、「大義名分論」は天皇を尊び外敵を排除しようと主張する尊皇攘夷と結びつき、倒幕勢力に利用されるようになりました。
「大義名分」の類義語
大義名分には以下のような類義語があります。
- 大義滅親(たいぎめっしん):君主や国家に報いるために、親子の情を犠牲にすること
- 金科玉条(きんかぎょくじょう):人が絶対的な根拠として守るべき規則のこと
- 錦の御旗(にしきのみはた):自分の主張などを権威づけるために掲げる根拠のこと
- 名目(めいもく):表向きの理由
- 建前(たてまえ):表向きの考え
- 正義(せいぎ):人として実現されるべき究極的な価値
- 根拠(こんきょ):よりどころになる理由
- 口実(こうじつ):言い逃れるための言葉や言い訳のこと
- 道義(どうぎ):人として踏み行うべき道徳
- 盾(たて):自分の立場などを守るために使うもの
- モラル:倫理観・道徳意識
- 言い訳(いいわけ):都合が悪いことや過失を取り繕うための説明
- 免罪符(めんざいふ):罪や責めを逃れるためのもの
- よりどころ:ある物事が成り立つもとになるもの
「大義名分」の英語訳
大義名分を英語に訳すと、次のような表現になります。
- good reason
(正当な理由) - in the cause of ~
(~のために) - on the pretext of ~
(~という表向きで) - duty
(義務) - higher principle
(大義名分)
まとめ
以上、この記事では「大義名分」について解説しました。
読み方 | 大義名分(たいぎめいぶん) |
---|---|
意味 | 人として、また臣下として守るべき道理や節義。もしくは自らの行為を正当化するための理由・道義。 |
由来 | 『資治通鑑(しじつがん)』 |
類義語 | 大義滅親、金科玉条、錦の御旗など |
英語訳 | good reason(正当な理由),in the cause of ~(~のために),on the pretext of ~(~という表向きで)など |
「大義名分」は、幕末の時期に紛らわしい使われ方をされてしまったために、意味が大きく変化した四字熟語です。
以前は「身の丈、分限」のことを表していましたが、近年では「言い訳」というニュアンスで使われることが多い言葉です。
このように時代を経て、意味が変化した言葉に「潮時」があります。
今では「やめるべきタイミング」という意味で使われることの多い言葉ですが、本来の意味は「最も適したタイミング」です。
時代を経て意味が変わってしまった言葉は、その言葉を本来の意味で使うか、広く使われている意味で使うか迷うものです。
その意味の変化に「大義名分」があるならば、時代に合わせて新しい意味で言葉を用いていくのも ひとつの手でしょう。