今回ご紹介する言葉は、ことわざの「先見の明(せんけんのめい)」です。
言葉の意味・使い方・由来・類義語・対義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「先見の明」をざっくり言うと……
読み方 | 先見の明(せんけんのめい) |
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意味 | 将来起こることをあらかじめ見通す力 |
由来 | 『後漢書』の「楊彪伝」より |
類義語 | 知慮、遠慮 |
対義語 | 後知恵 |
英語訳 | foresight(先見の明) |
このページの目次
「先見の明」の意味をスッキリ理解!
「先見の明」の意味を詳しく
「先見の明」とは、将来起こることをあらかじめ見通す力のことです。「先見の識(しき)」とも言います。
「先見の明」の意味は、「先見」と「明」に分けて考えることができます。
- 先見
未来で起こることをあらかじめ見通すこと - 明
物事を見分けたり見通したりする力。「賢明」「聡明」などに使われる「明」
「先見」と「明」は、「物事を見通す」という意味が共通しています。
「先見の明」の形で使うときは「先見の明がある」と表現します。
一方で、「先見」のみで使うときは「先見する」と表現し、「先見がある」とは言いません。
「先を見通す力がある」という場合には「先見の明」、「実際に先を見通した」という場合には「先見する」としましょう。
「先見の明」の誤用
「先見の明」には、以下のような誤表記が見られる場合があります。どちらも誤用なので、気をつけましょう。
- 先見の目
- 先見の妙
また、「先見の明」は「せんけんのめい」が正しい読み方です。
「せんけんのみょう」「せんけんのめ」「さきみのめい」は誤った読み方ですから、注意しましょう。
柊の葉は、樹齢にしたがって、葉のギザギザした部分が丸くなっていきます。
将来的に葉の形が変わるという点が、「先のことを見通す見識」に派生して、「先見の明」という花言葉になったと言われています。
「先見の明」の使い方
- 百年に一度の大不況を予測していた彼には、先見の明があると言うべきだろう。
- 彼女には先見の明があって、いつでも先を見通している姿は、まるで予言者のようだ。
上記の例文のように、「先見の明」は「先見の明がある」という形で使われます。
①の例文では、「彼」が大不況を事前に予測しており、「先見の明がある」と評価されています。
②の例文では、「彼女」が日常的に未来のことを見通している様子を「先見の明がある」「予言者のようだ」と評価しています。
「先見の明」があったかどうかがわかるのは、実際に予期していた未来が実現した場合だけです。つまり、まだ結果が出ていない事柄に対しては使えないのです。
そのため、「先見の明」は「不況を予測していた」「いつでも先を見通す」など、なにかしらの根拠があるという文脈で使われがちです。
「先見の明」の表現方法
「先見の明」は、以下のような表現でよく使われます。
- 先見の明がある
- 先見の明を鍛える
- 先見の明を養う
- 先見の明に優れている
- 先見の明を身につける
- 先見の明を持っている
- 先見の明に長ける
「先見の明があるので、〜」などと文頭で使われる「先見の明」は、文の後半に説明される内容の “理由” の役割をもつ傾向にあります。
一方で、「〜するためには先見の明が必要だ」「〜するなんて、彼には先見の明がある」などと、文末に先見の明が使われる場合には、理由ではなく “資質” としての「先見の明」が強調されます。
「先見の明」の由来
「先見の明」の由来は、中国の歴史書『後漢書(ごかんじょ)』に収録されている、「楊彪伝(ようひょうでん)」にあります。
政治家・学者の楊彪(ようひょう)には、子どもがいました。
この子どもは、曹操(そうそう)という人物に仕えていましたが、ある日、主君の曹操を怒らせて処刑され、亡くなりました。
この知らせを受けて、楊彪が曹操に会いに行くと、曹操は、楊彪に「なぜそんなにも痩せているのか」と聞きました。
すると、楊彪は「金日磾のような先見の明がなく、恥ずかしく思うからです」と答えました。
金日磾の「先見の明」とは
楊彪が言った「金日磾(きんじつてい)のような先見の明」は、中国の故事にあるエピソードを指しています。
昔、金日磾という人物の二人の子どもが、武帝の寵童(ちょうどう)に選ばれました。子どもたちは、自分たちの立場はに慢心してしまい、遊んでばかりいました。父親である金日磾は、子どもの将来を見込めないと判断し、二人の子どもを殺してしまったのです。
つまり、楊彪は曹操に対して、「自分は、金日磾のように先を見通して自ら子どもを罰することができなかった」という反省を伝えたのです。
これが、「先見の明」の由来とされています。
「先見の明」の類義語
先見の明には以下のような類義語があります。
- 知慮:賢い考え方
- 遠慮:遠い未来のことまで考慮したうえで考えをめぐらすこと
- 先見性:先のことを見極める力
- 見通す:先の方まで見ること
- 予見力:先のことを知る力
- 洞察力:物事を深く観察する能力
- 先読み:これから起こることを予想すること
- 後先(あとさき)踏まえる:周囲のことをよく見通す力
- 予知能力:未来のことがわかる力
- 識見:物事を正しく判断する力
- 深慮遠謀(しんしょえんぼう):考えをめぐらせ、未来を見通すこと
- 遠謀深慮(えんぼうしんりょ):考えをめぐらせ、未来を見通すこと
- 慧眼(けいがん):物事の本質を見抜く力
- 一を聞いて十を知る:一部を聞いて全て理解すること
- 見通しがきく:物事のなりゆきを考えること
- 卓識(たくしき):すぐれた判断力
- 達見(たっけん):先々のことまで見通す力
「知慮」の意味
「知慮」とは、賢い考えのことです。
未来を見通せるというニュアンスはなく、単に賢いという場合に使います。
「先見の明」と「遠慮」の違い
「遠慮」とは、考えるとき、遠い未来のことも視野にいれることです。「先見の明」との共通点は、「考える」という部分です。
ただし、「遠慮」は、日常生活では「行動を慎むこと」や「辞退すること」といった意味で使われることがほとんどです。
「先見の明」の対義語
先見には以下のような対義語があります。
- 後知恵(あとぢえ):物事がすべて終わってから出てくる知恵
- 後手(ごて)に回る:相手に先を越され、相手の対応をする立場になってしまうこと
- 浅慮(せんりょ):浅はかな考え方
「後知恵」とは、物事がすべて終わってしまってからあれこれ言うことです。
「やっぱりそう言うと思った」「なんとなくそうなる気がしたんだよね」などという発言が後知恵の例です。
なにか物事が起こった後には、そうなるのが必然だったように感じてしまうものです。実際には予感も予測もしていなかったのにもかかわらず、「後から考えてみれば」と、もっともらしく思えてしまうのです。
「先見」はないのに「後知恵」が出てくるのは、「後から考えればそんな気がしていたかもしれない」という脳の錯覚なのです。
「先見の明」の英語訳
先見を英語に訳すと、次のような表現になります。
- foresight
(先見の明) - vision
(洞察力、先見の明)
“foresight” の意味
「先見の明」にあたる英単語は “foresight” です。
“foresight” は、 “sight” に接頭辞 “fore” がついた形の言葉です。
“sight” には「眺め」「見ること」などの意味があります。また、接頭辞の “fore” には「前もって」という意味があります。
“foresight” は、これらの意味が合わさって、「前もって見ること」という意味になるのです。
“vision” の意味
“vision” には、「洞察力」「先見の明」といった意味だけでなく、以下のような単純な意味もあります。
- 視力
- 視覚
- 未来像
- 夢
- 幻(まぼろし)
まとめ
以上、この記事では「先見の明」について解説しました。
読み方 | 先見の明(せんけんのめい) |
---|---|
意味 | 将来起こることをあらかじめ見通す力 |
由来 | 『後漢書』の「楊彪伝」より |
類義語 | 知慮、遠慮 |
対義語 | 後知恵 |
英語訳 | foresight(先見の明) |
「先見の明」は、先を見通す人を表現できる便利な言葉です。
「先見」との違いと一緒に覚えましょう。