今回ご紹介する言葉は、故事成語の「桃源郷」です。
意味や使い方、由来、モデル、類義語、対義語、英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「桃源郷」をざっくり言うと……
読み方 | 桃源郷(とうげんきょう) |
---|---|
意味 | 俗界を離れた他界・仙境のこと |
由来 | 『桃花源記』という中国の古書から |
類義語 | パラダイス、ユートピア、理想郷など |
対義語 | ディストピア、現実郷など |
英語訳 | an earthly paradise(地上の楽園) |
このページの目次
「桃源郷」の意味をスッキリ理解!
「桃源郷」の意味を詳しく
「桃源郷」とは、俗界を離れた理想郷のことです。
つまり、「世間一般の人が住む場所と離れた、理想的な別世界」のことです。
「桃源郷」の由来である『桃花源記(とうかげんき)』によると、「桃源郷」は桃林に囲まれた平和で豊かな場所で、戦争を避けて住み始めた人が何も知らずに住み続けているそうです。
「楽園」のようなものだと考えるとわかりやすいでしょう。
「桃源郷」は心の中にある
「桃源郷」は地上のどこかではなく、魂の奥底に存在する場所とされています。
そして、世俗的な目的であっても、崇高な目的であっても、何らかの目的を持っている人は「桃源郷」にたどり着けないとされています。
また、「桃源郷」は心の中にあるものなので、再訪しようと探すと、心の外に「桃源郷」を求めたことになり、訪れることはできません。
「桃源郷」はなぜ「桃」?
「桃源郷」には「桃」という漢字が使われていますが、これは「桃源郷」の由来になった中国で、「桃」が不老長寿・幸運の象徴とされているからです。
「桃」が不老長寿・幸運の象徴になっているのは、「西王母(せいおうぼ)」という、不老長寿を司る女神が関係しています。
「西王母」は不思議な力を持つ仙桃が三千年に一度実る桃園を管理しています。
三千年に一度実る桃は「三千年(みちとせ)の桃」と呼ばれ、非常に珍しく、めでたいもののたとえになっています。
「桃源郷」の表記
「桃源郷」には以下のような別表記もあります。
- 桃源境(とうげんきょう)
- 桃花源(とうかげん)
- 武陵桃源(ぶりょうとうげん)
「桃源郷」の使い方
- 新しい政治家がこの国を桃源郷に変えてくれると信じて投票した。
- 山頂からみる景色はまるで桃源郷のような絶景だった。
- 私の故郷は田舎ですが、私にとっては桃源郷です。
「桃源郷」は❶の例文のように、「現実には存在しない架空の場所」という意味で用いられます。
しかし、❷、❸の例文のように「現実に存在しないのではないかと思うほど素晴らしい場所」という意味で使われることも多いです。
「桃源郷」の由来
「桃源郷」の出典は、中国六朝(りくちょう)時代の詩人、陶淵明(とうえんめい)が記した『桃花源記(とうかげんき)』という書物です。
以下のようなエピソードが由来になっています。
晋の時代、漁師が、どこまでも続く渓谷を船で奥へ奥へと進んでいきました。
どこまで来たのか分からなくなった頃、突然桃の花が一面に咲き乱れる林が両岸に広がりました。
進んでいくと、林は川の水源で終わっており、その先には小さな穴がある山が見えました。
穴の中に入ってしばらく進むと、素晴らしい景色が広がる桃源郷が広がっていました。
そこにいた村人は漁師を歓迎し、酒や肉料理をふるいまいました。
村人は戦乱から逃れてこの地に移り住み、外界との交流は行っていないと言いました。
村人は「この土地のことは誰にも言わないでほしい」と言いました。
しかし、漁師は目印をつけながら帰宅し、役所の人を連れて行こうとしました。
しかし、目印は消えており、漁師は二度と桃源郷を訪れることはできませんでした。
陶淵明は中国六朝時代の文学者です。
若い頃は役人をしていましたが、40代からは故郷の田園で隠居生活を送りました。
その後は農作業を行いつつ、日常生活を題材にした詩文を多く残しています。
「桃源郷」のモデル
「桃源郷」のモデルだとされる地域はいくつかありますが、その中でも特に有名なのは以下の2つです。
- 桃花源
- 武陵源
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
モデル①:桃花源
中国湖南省常徳市の郊外にある農村「桃花源」は「桃源郷」のモデルとして有名です。
中国政府からの公認も受けており、観光地としても人気があります。
桃の木が多く立ち並び、毎年3月に「桃花フェスティバル」というイベントも行われます。
モデル②:武陵源
中国湖南省張家界市にある「武陵源」も「桃源郷」のモデルとして有力です。
独特な岩の柱が立ち並んでいることが特徴的で、ユネスコ世界遺産にも登録されています。
「桃源郷」の類義語
「桃源郷」には以下のような類義語があります。
- 楽園(らくえん):苦しみが無く、楽しさに満ちあふれた場所
- 極楽浄土(ごくらくじょうど):苦しみのない安楽の世界
- パラダイス:非常に楽しい世界
- ユートピア:現実の社会に不満をもつ人が夢想する理想的な楽土
- 理想郷(りそうきょう):想像上の、理想的で完全な社会
- オアシス:心に安らぎを与えてくれる場所
- ザナドゥ:桃源郷
- 別天地(べつてんち):俗世から離れた世界のこと
- 仙境(せんきょう):俗世を離れた場所のこと
- 仙郷(せんきょう):俗界を離れた場所
- 華胥の国(かしょのくに):理想的な国のたとえ
- 無何有の郷(むかうのさと):苦労がまったくない理想郷
「桃源郷」と「ユートピア」の違い
「ユートピア」とは、現実世界に不満を持つ人が憧れる理想的な場所のことです。
イギリスの思想家トマス・モアによる小説『ユートピア』に登場する架空の国が由来になっています。
「桃源郷」と「ユートピア」には以下のような違いがあります。
- 桃源郷:地上のどこかではなく、魂の奥底に存在する場所
- ユートピア:現実世界に存在するとされる場所
ただ、「ユートピア」も「存在するとされている」だけなので、実際は使い分ける必要はないでしょう。
「桃源郷」の対義語
「桃源郷」には以下のような対義語があります。
- ディストピア:否定的で反ユートピアの要素を持つ社会
- 現実郷(げんじつきょう):わずらわしく面倒な苦行の多い世界
- 地獄郷(じごくきょう):ディストピアの日本語訳
- 暗黒郷(あんこくきょう):ディストピアの日本語訳
「桃源郷」の英語訳
「桃源郷」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- an earthly paradise
(地上の楽園) - Shangri-La
(桃源郷) - hidden paradise
(隠された楽園)
“Shangri-La” はイギリスの作家ヒルトンによる小説「失われた地平線」に登場する不老不死の楽園が由来で、楽園を表す英単語として一般的に使われています。
まとめ
以上、この記事では「桃源郷」について解説しました。
読み方 | 桃源郷(とうげんきょう) |
---|---|
意味 | 俗界を離れた他界・仙境のこと |
由来 | 『桃花源記』という中国の古書から |
類義語 | パラダイス、ユートピア、理想郷など |
対義語 | ディストピア、現実郷など |
英語訳 | an earthly paradise(地上の楽園) |
「桃源郷」という言葉は、本や歌の歌詞にもよく登場する言葉です。
意味をしっかり理解して、使いこなせるようになりましょう。