今回ご紹介する言葉は、カタカナ語の「ノスタルジー」です。
「ノスタルジーに浸る」などの表現を聞いたことのある方は多いでしょう。そんな「ノスタルジー」は、もとは病名であったことをご存知ですか?
以下では、「ノスタルジー」の意味・使い方・語源・類義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「ノスタルジー」をざっくり言うと……
英語表記 | ノスタルジー(nostalgie) |
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意味 | 過ぎ去った時間や、遠く離れた場所のことを思い、懐かしく思う気持ち |
語源 | ギリシャ語の“nostos”と“algos” |
類義語 | レトロスペクティブ、旧懐、物懐かしい |
英語 | nostalgia |
「ノスタルジー」とは?
「ノスタルジー」の意味を詳しく
「ノスタルジー」とは、過ぎ去った時間や、遠く離れた場所のことを考え、懐かしく思う気持ちのことです。つまり、今は失われてしまったものに対して、寂しく思う感情です。
「ノスタルジー」を抱く対象は、「過ぎ去った時代」か「遠く離れた場所」のどちらかです。前者は「郷愁」「望郷」、後者は「懐古」「追憶」と言い換えることが出来ます。後者の「遠く離れた場所」は、多くの場合「ふるさと」を指します。
未来やすぐに行くことができる場所に対してノスタルジーを感じることはありません。
「ノスタルジー」のもととなる名詞 “nostalgie” は、フランス語です。発音が似ている「ノスタルジア」は、アメリカでの言い方(“nostalgia”)です。
ちなみに、「ノスタルジー」は、自分の実体験に基づいて故郷や過去を懐かしむことだけを意味しません。今日では、自身が過ごしていない空間や時間に対しても「ノスタルジー」を感じることがあるとされています。
たとえば、昔ながらの風景などを見た時に、つい過去に思いを馳せてしまったという方はいるのではないでしょうか。このように、自身の想像も加えて過去を懐かしむことも「ノスタルジー」とされています。
「ノスタルジック」とは?
派生表現として「ノスタルジック」(nostalgic)があります。「ノスタルジック」は、過ぎ去った時間や、遠く離れた場所のことを思い、懐かしさを感じるさまを表す形容詞です。
「ノスタルジック」は、主観的な記憶や思い出と密接に結びついた自身の「懐かしさ」を表現します。
「レトロ」と意味が近いですが、同義語ではありません。「レトロ」は単に「懐かしさを感じさせる」という意味しかありません。
「レトロ」は、客観的に見て古いものを修飾する時に使われることが多いです。たとえば、「レトロな時計」「レトロな雰囲気の喫茶店」などです。
「卒業アルバムを見て、レトロな気持ちになる」というような使い方は不自然であるため、注意しましょう。
「ノスタルジー」の使い方
- フランスの田舎で、偶然にも日本料理店を見つけた。店内に入るとノスタルジーを感じ、遠いふるさとを思いだした。
- 始めて失恋した17歳の春、この曲ばかりを聞いていた。40歳になった今になって聞くと、ノスタルジーに浸ってしまう。
- 30年ぶりに卒業アルバムを開いた。もう当時のクラスメイト全員が集まることはないのだと思うと、ノスタルジーを覚えた
一方、➁と➂の例文は、「過ぎ去った時間のことを考え、懐かしく思う気持ち」という意味で、「ノスタルジー」を使っています。②の「ノスタルジーに浸る」という表現はよく使われます。
「ノスタルジー」の語源
「ノスタルジー」の語源はギリシャ語の“nostos”と“algia”です。
「ノスタルジー」は、スイスの医者であったヨハネス・ホーファー(Johannes Hofer)が、ギリシャ語の“nostos”(ふるさとに帰ること)と“algos”(痛み)をつなげて作った造語です。
17世紀末、スイスを離れていった兵士の中には、故郷を恋しく思う気持ちと、帰還が叶わないかもしれないという恐怖を持ち合わせている者が多くいました。
抑うつ状態になったり、食欲不振さえ招いたこの症状を、ホーファーは1つの病気とみなしました。その際に、”nostos” と “algos” を用いた造語「ノスタルジー」と名付けたのです。
1688年にホーファーのよって発表された論文『Medical Dissertation on Nostalgia』では、「ノスタルジー」が精神医学の概念として提案されました。当時は、「ノスタルジー」が心の病気の1つとして扱われていたのです。
「ノスタルジー」の類義語
「ノスタルジー」には以下のような類義語があります。
- レトロスペクティブ(retrospective):懐かしさを感じさせるさま
- 旧懐(きゅうかい):昔を懐かしむこと
- 物懐かしい:懐かしく、心が引かれるさま
「レトロスペクティブ」は、「レトロ」のもとになった言葉です。「ノスタルジー」と異なり、客観的に過去を振り返ることを指します。
「レトロスペクティブ」は、回顧展のことを指す場合があります。回顧展とは、ある作家について、全生涯における作品や活動の跡を振り返る目的で開かれる展覧会のことです。事実として作家の人生を振り返ることを指している点が、「レトロ」ですよね。
ちなみに、「回顧」は、客観的に過去を振り返ることを指す動詞です。同音異義語として、「懐古」があります。「懐古」は、過去を懐かしみ、心が動かされる様子を意味します。
「回顧」と「懐古」の違いを、「レトロ」と「ノスタルジー」の違いと置き換えて差し支えありません。
「ノスタルジー」の英語訳
「ノスタルジー」の英語訳は、”nostalgia” です。「ノスタルジア」という発音します。英語では「ノスタルジー」という言葉は存在しません。
例文は以下の通りです。
(久々に旧友と会った時、当時の日々を懐かしく感じた。)
まとめ
以上、この記事では「ノスタルジー」について解説しました。
英語表記 | ノスタルジー(nostalgie) |
---|---|
意味 | 過ぎ去った時間や、遠く離れた場所のことを思い、懐かしく思う気持ち |
語源 | ギリシャ語の“nostos”と“algos” |
類義語 | レトロスペクティブ、旧懐、物懐かしい |
英語 | nostalgia |
もとは、故郷へ帰れないかもしれない恐怖から来る症状が「ノスタルジー」でしたが、現在では、思い出すと心が温かくなるような状況で使われる言葉です。
幼少期に読んだ本や昔の写真、小学生の時に通った駄菓子屋など、「懐かしい」と感じる場所は誰しもあるでしょう。その「懐かしい」という感情こそが、「ノスタルジー」です。
たまには昔のことを思い返し、「ノスタルジー」に浸る日があってもよいのではないでしょうか。