「勝って兜の緒を締めよ」とは「敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ」という意味です。
なぜ兜の緒を締めるのか、気になりますよね。
戦国時代の武将・北条氏綱が遺した言葉で、軍人の東郷平八郎が言った言葉として有名です。
この記事では、「勝って兜の緒を締めよ」の意味や使い方を詳しく説明します。
☆「勝って兜の緒を締めよ」をざっくり言うと……
読み方 | 勝(か)って兜(かぶと)の緒(お)を締(し)めよ |
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意味 | 敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ |
由来 | 北条氏綱の『五箇条の御書置』 |
類義語 | 敵に勝ちて愈々戒む 油断大敵 好事魔多し など |
対義語 | 驕る平家は久しからず 蟻の穴から堤も崩れる 不覚を取る など |
英語訳 | Tighten the strings of a helmet.(敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ。) Don’t halloo till you are out of the wood.(森を出るまでは、喜びの叫びをあげるな。) You must keep up your guard even after a victory.(勝利した後も、警戒し続けなければいけない。) |
このページの目次
「勝って兜の緒を締めよ」の意味
敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ
「勝って兜の緒を締めよ」は、「勝ったからといって油断しないで、さらに用心しなければならない」という意味です。
物事が順調である時ほど、気を引き締めなければいけないという教訓です。
「兜の緒」の意味
兜は、主に戦国時代に用いられた頭を守るための被り物です。
兜の緒は、兜が頭からずれて落ちないように固定するためのひもです。
「緒」を「尾」と間違えて、「勝って兜の尾を締めよ」と表記しないように注意しましょう。
「勝って兜の緒を締めよ」の使い方
「勝って兜の緒を締めよ」は、日常会話やビジネスシーンなど、様々な場面で使います。
- 自分に向けて使う
- 目上の人が目下の人に使う
それぞれ例文と一緒に見ていきましょう。
使い方①自分に向けて使う
「勝って兜の緒を締めよ」は、自分に向けて使います。
- 初戦には勝ったけど、「勝って兜の緒を締めよ」で、2回戦も気を抜かずに頑張ろう。
- 出世できたとしても、「勝って兜の緒を締めよ」というから、調子に乗らないで努力を続けよう。
- 中間テストは良い結果だったけれど、「勝って兜の緒を締めよ」だ。期末テストに向けて勉強しよう。
- 勝ち続けるためには、「勝って兜の緒を締めよ」を意識することが大切だ。
使い方②目上の人が目下の人に使う
「勝って兜の緒を締めよ」は、目上の人が目下の人に使うこともあります。
「勝って兜の緒を締めよ」の由来
「勝って兜の緒を締めよ」の由来は、戦国時代の武将である北条氏綱(ほうじょう うじつな)が書いた『五箇条の御書置(かきおき)』です。
『五箇条の御書置』は、北条氏綱が息子の氏康に書いた遺言です。
5つある教訓の中のひとつに、以下のようなものがあります。
(合戦で見事な勝利が続いた後は、驕りの心が生まれる。)
敵を侮り、或は不行義(ふぎょうぎ)なる事、必(かならず)ある事也。可慎(つつしむべし)。
(敵を侮ったり、行儀が悪くなったりすることは、必ずあることだ。これは慎まなければならない。)
散々如斯候而(さんざんかくのごとくにそうらひて)、滅亡の家、古より多し。此心、万事にわたるそ。
(散々このようにして、滅亡した家は昔から多い。この精神は何事にも言えることだ。)
勝て甲(かぶと)の緒をしめよ、といふ事忘れ給ふへからす。
(勝って兜の緒を締めよ、ということを忘れてはいけない。)
この文章の一部である「勝て甲の緒をしめよ」が、「敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ」という意味になりました。
『五箇条の御書置』は、『五箇条の訓戒(くんかい)』ともいいます。
「勝って兜の緒を締めよ」が広まった理由
「勝って兜の緒を締めよ」が広まった理由は、東郷平八郎(とうごう へいはちろう)が使用したためだとされています。
東郷平八郎は、江戸末期から昭和初めの海軍軍人です。
1904年、日露戦争において、連合艦隊司令長官として海軍の指揮をとり、ロシアのバルチック艦隊に勝利しました。東郷は日露の調停条約の場で、日本海軍に向けて「古人曰く(いわく)、勝って兜の緒を締めよと」と語りました。
この「古人」は、北条氏綱のことです。
東郷の言葉は、日本国民の間で広く広まり、日露戦争の調停を務めたアメリカ大統領・セオドア・ルーズベルトも感動したと言われています。
「勝って兜の緒を締めよ」の類義語
「勝って兜の緒を締めよ」には以下のような類義語があります。
- 敵に勝ちて愈々戒(いよいよいまし)む
勝ったとしても気を緩めないで警戒すること - 油断大敵(ゆだんたいてき)
油断は失敗につながるため、恐ろしい敵であるということ - 好事魔多し(こうじまおおし)
良い時ほど邪魔が入りやすい - 褌(ふんどし)を締めてかかる
決心を固くして、気を引き締めて物事にあたること - 心に垣(かき)をせよ
油断しないで、用心すること
「敵に勝ちて愈々戒む」を詳しく
「敵に勝ちて愈々戒む」は、「勝ったとしても気を緩めないで警戒すること」という意味です。
愈々は、「より一層」という意味です。
敵に勝っても、より一層気を引き締めることを表します。
「好事魔多し」を詳しく
「好事魔多し」は、「良い時ほど邪魔が入りやすい」という意味です。
「好事魔多し」は、以下のように成り立っています。
- 好事:喜ばしいこと
- 魔:人を迷わせるもの
- 多し:数が多い
つまり、物事がうまくいっていたり、うまくいきそうだったりする喜ばしい時には、人を迷わせるような出来事が多いことを表しています。
「褌を締めてかかる」を詳しく
「褌を締めてかかる」は、「決心を固くして、気を引き締めて物事にあたること」という意味です。
褌は、日本の伝統的な下着です。
褌が緩んでいると、物事に本気で取り組むことができないため、褌を締めることで気を引き締ることを表します。「勝って兜の緒を締めよ」の対義語
「勝って兜の緒を締めよ」には以下のような対義語があります。
- 驕(おご)る平家(へいけ)は久(ひさ)しからず
地位や財力を誇って勝手な振る舞いをすると、長続きせずに滅びること - 蟻(あり)の穴から堤(つつみ)も崩れる
小さな油断が原因で崩壊すること - 不覚(ふかく)を取る
油断して失敗すること
「勝って兜の緒を締めよ」の英語訳
「勝って兜の緒を締めよ」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- Tighten the strings of a helmet.
(敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ。) - Don’t halloo till you are out of the wood.
(森を出るまでは、喜びの叫びをあげるな。) - You must keep up your guard even after a victory.
(勝利した後も、警戒し続けなければいけない。)
「勝って兜の緒を締めよ」を直訳すると、 “Tighten the strings of a helmet.” になります。
“Don’t halloo till you are out of the wood.” は、慣用句で、「安心できる状況になるまで、注意しなさい」という意味です。
「勝って兜の緒を締めよ」のまとめ
以上、この記事では「勝って兜の緒を締めよ」について解説しました。
読み方 | 勝(か)って兜(かぶと)の緒(お)を締(し)めよ |
---|---|
意味 | 敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ |
由来 | 北条氏綱の『五箇条の御書置』 |
類義語 | 敵に勝ちて愈々戒む 油断大敵 好事魔多し など |
対義語 | 驕る平家は久しからず 蟻の穴から堤も崩れる 不覚を取る など |
英語訳 | Tighten the strings of a helmet.(敵に勝っても油断せず、気を引き締めて物事にあたれ。) Don’t halloo till you are out of the wood.(森を出るまでは、喜びの叫びをあげるな。) You must keep up your guard even after a victory.(勝利した後も、警戒し続けなければいけない。) |
「勝って兜の緒を締めよ」は、戦国武将の北条氏康が遺して、海軍軍人の東郷平八郎が引用した言葉です。
彼らのように、何かと戦う場面では、この言葉を思い出して取り組むと良いでしょう。