今回ご紹介する言葉は、四字熟語の「鎧袖一触(がいしゅういっしょく)」です。
言葉の意味・使い方・由来・対義語・英語訳について分かりやすく解説します。
☆「鎧袖一触」をざっくり言うと……
読み方 | 鎧袖一触(がいしゅういっしょく) |
---|---|
意味 | 簡単に相手を打ち負かすこと。 |
由来 | 頼山陽『日本外史』の、源為朝の言葉 |
対義語 | 悪戦苦闘 |
英語訳 | a piece of cake(朝飯前), it is easy as pie(朝飯前、お手の物), walk in the park(ちょちょいのちょい), taking candy from a baby(赤子の手をひねるくらい簡単である), shooting fish in a barrel(極めて簡単に) |
「鎧袖一触」の意味をスッキリ理解!
「鎧袖一触」の意味を詳しく
鎧袖一触は、本来「自分の鎧(よろい)の袖が敵に少し触れるだけで、簡単に倒してしまう」ことを意味します。
「鎧袖」とは、鎧の袖の部分のことを指します。鎧の袖とは、鎧の左右の肩についてる、盾状の防具のことです。腕の部分を守る役割をもちます。
また、「一触」とは「軽く触れること」を示す言葉です。
つまり、「鎧袖一触」は、「鎧の袖に軽く触れるだけのこと」を表すのです。
「鎧の袖に触れるだけ」ということは、鎧を着用して戦争を行う場合において、「武器を用いるまでもない」ということです。つまり、鎧袖一触は「武力を用いることなく、簡単に勝つ」ということを指します。
この意味が転じて、現代的な意味としては「楽勝で勝つ」「余裕で勝つ」となります。
「鎧袖一触」の使い方
- 鎧袖一触、一瞬にして敵を退治してしまった。
- あの剣道家は実力がないから、私の手にかかれば鎧袖一触だ。
「鎧袖一触」の由来
鎧袖一触は、『日本外史(にほんがいし)』に由来をもちます。江戸時代に、頼山陽(らいさんよう)という人物によって執筆されました。
『日本外史』のなかに、保元(ほうげん)の乱を描いたシーンが収録されています。この記述で、「鎧袖一触」という言葉が登場したのです。
保元の乱は、平安時代末期の1156年に、皇族の後白河上皇(ごしらかわじょうこう)と崇徳天皇(すとくてんのう)によって引き起こされた内乱です。
保元の乱ではそれまでの戦争とは異なり、平氏や源氏などの武家が参戦したことが大きな特徴です。
そのなかで、崇徳天皇は源為朝(みなもとのためとも)によって擁護(ようご)されます。一方で、後白河上皇の側には平清盛(たいらのきよもり)と源義朝(みなもとのよしとも)がつきました。なお、源為朝は源義朝の弟です。
崇徳天皇は、平清盛が勇敢であるという評判を聞き、恐れていました。そこで、為朝は、崇徳天皇に対して、「平清盛輩の如きに至りては、臣の鎧袖一度触るれば、皆自ら倒れんのみ」と言いました。
これは、「平清盛とその部下たちは、自分の鎧に少し触れただけで、皆自然に倒れてしまう」ということです。つまり、「為朝にとって平清盛は簡単に倒せる相手であるから、心配無用である」ということを意味していました。
この為朝の言葉が、鎧袖一触の由来とされています。
なお、この話には続きがあります。
平清盛と源義朝は崇徳天皇や源為朝を恐れ、奇襲攻撃をかけました。その結果、為朝は簡単に倒されてしまいます。
つまり、「鎧袖一触」と言っていた源為朝が、清盛や頼朝に簡単に破られてしまったのです。皮肉なことに、実際には「鎧袖一触だ」と言うべき立場が逆だったのです。
「鎧袖一触」の対義語
鎧袖一触には以下のような対義語があります。
- 悪戦苦闘(あくせんくとう):困難の中で、もがきながら苦労すること
「悪戦」とは、困難な戦況のなかで、強敵を相手に苦戦することを指します。
「鎧袖一触」の英語訳
鎧袖一触を英語に訳すと、次のような表現になります。
- a piece of cake
(朝飯前) - it is easy as pie
(朝飯前、お手の物) - walk in the park
(とても簡単である) - taking candy from a baby
(非常に簡単である) - shooting fish in a barrel
(極めて簡単に)
どの英語訳も、「イディオム」と呼ばれる言い回しです。直訳すると全く異なる意味であるものの、文化や風習によって特定の意味を持つものが「イディオム」です。主に文章ではなく、口語表現で用いられます。
a piece of cake は、直訳すると「一切れのケーキ」という意味になります。「ケーキの一切れなんて、一口で簡単に食べることができる」という意味から転じて、「朝飯前」「楽勝」ということを示します。
なお、cake は数えることのできない「不可算名詞」と呼ばれる言葉です。そのため、 piece は複数形にならないことに注意が必要です。
it is easy as pie を直訳すると、「パイくらい簡単」という意味です。これを意訳すると、「パイを食べることと同等に簡単である。」ということです。 なお、 as easy as pie でも同じ意味になります。
walk in the park は、「公園を散歩する」ということが元々の意味です。つまり、「公園を散歩することと同じように簡単で、何の心配も要らない」ということから、「とても簡単に」という意味に派生した言葉です。
taking candy from a baby は、「赤ちゃんからキャンディーを取り上げる」が原義です。このように、「赤ちゃんの弱い手からキャンディを取り上げることと同じほどに、簡単にできてしまう」という意味から転じて、「非常に簡単である」という意味のイディオムになります。
なお、 candy も基本的には不可算名詞であるため、複数形にはならないということに注意が必要です。
shooting fish in a barrel を直訳すると「樽(たる)の中の魚を銃で撃つ」という意味になります。狭い樽の中を泳いでいる魚は、的が絞りやすいため簡単に撃つことができます。この意味から転じて、「極めて簡単に」という意味で用いられています。
このように、どのの表現も「極めて簡単である」ということを意味しています。
まとめ
以上、この記事では「鎧袖一触」について解説しました。
読み方 | 鎧袖一触(がいしゅういっしょく) |
---|---|
意味 | 簡単に相手を打ち負かすこと。 |
由来 | 頼山陽『日本外史』の、源為朝の言葉 |
対義語 | 悪戦苦闘 |
英語訳 | a piece of cake(朝飯前), it is easy as pie(朝飯前、お手の物), walk in the park(ちょちょいのちょい), taking candy from a baby(赤子の手をひねるくらい簡単である), shooting fish in a barrel(極めて簡単に) |
「簡単に勝つことができる」という感覚をもっていると、ときには相手を力量を見誤り、かえって痛い目にあいます。まさに、『日本外史』の源為朝のように、返り討ちにされてしまうこともあるのです。
だからこそ、「楽勝だ」と相手を見くびり、気を緩めてはいけません。油断をせず、常に全力投球で勝負に臨むことで、初めて勝利を勝ち取ることができるのです。