今回ご紹介する言葉は、熟語の「謳歌(おうか)」です。
「青春を謳歌する」などの形でよく見かける言葉でしょう。意味はわかっても、なぜ「謳(うた)う歌」と書くのか等、不思議に思う方もいるかもしれません。
今回の記事では、「謳歌」の意味・使い方・類義語・対義語・英語訳について、文献も交えながらわかりやすく解説します。
☆「謳歌」をざっくり言うと……
読み方 | 謳歌(おうか) |
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意味 | 恵まれた環境を存分に楽しむこと。声をそろえて歌うこと。声をそろえて褒めること。 |
類義語 | 悦楽、満喫、享受、讃頌、讃美 |
英語訳 | (openly) enjoy, applaud |
「謳歌」の意味をスッキリ理解!
「謳歌」の意味を詳しく
「謳歌」には、以下3つの意味があります。
- 恵まれた環境を、精一杯楽しむこと
- 声をそろえて歌うこと
- 声をそろえて称賛すること
それぞれについて、以下で解説します。
①恵まれた環境を、精一杯楽しむこと
1つ目の「謳歌」の意味は、恵まれた境遇を存分に楽しむことです。こちらは、最もよく使われる「謳歌」の意味です。
「青春を謳歌する」や「人生を謳歌する」など、漠然とした期間や状況を指す言葉が「謳歌」の対象になります。
また、境遇を楽しむという意味で「謳歌」を用いる場合、楽しんでいる様子が外界に発信されているというニュアンスがあります。つまり、第三者から見て、当人が楽しんでいる様子がありありと感じられるということです。
上記のニュアンスについては、「謳う」という言葉の意味に着目すると見えてきます。
「謳う」には、「はっきりと示す」という意味があります。たとえば、「食後 30分以内にこの薬を飲むのが望ましいと、添付された文書で謳(うた)われている。」といった使い方があります。この文は、食後 30分以内に薬を飲むことが望ましい旨が、文書に明文化されているという意味です。
同じように、「謳歌」にも、はっきりと他者にわかるという意味合いが含まれているのです。
②声をそろえて歌うこと
「謳歌」には、声をそろえて歌うことを意味します。字面から想像しやすい意味ですが、現在ではあまり使われない用法です。
1518年に誕生した歌謡集である『閑吟集(かんぎんしゅう)』には、以下のような言葉が書かれています。
詩変(へん)じて謡(よう)となり、謳歌せらる。
詩が歌謡曲へと変わり、謳歌されるという意味です。
③声をそろえて称賛すること
「謳歌」の3つ目の意味は、声をそろえて称賛することです。こちらの意味も、現代ではあまり使われません。
「謳う」には、多くに人が高く評価するという意味合いがあります。たとえば、「あの監督は、映画界の巨匠と謳われている。」といった使い方があります。この場合、ある監督が、多くの人から映画界の巨匠だとして称賛されている様子が描かれています。
以上より、「謳歌」にも褒めるという意味が含まれているのです。
1907年に夏目漱石が書いた『野分(のわき)』では、以下のように「謳歌」が使われています。
世は名門を謳歌おうかする、世は富豪を謳歌する、世は博士、学士までをも謳歌する。
世の人は名門や富豪、そして博士や学士までもをこぞって褒めたたえるという意味です。
「謳歌」の使い方
- 我が世の春を謳歌している旨を、藤原道長は歌で詠(よ)んだ。
- みんなが平和を謳歌できる時代を願っている。
- 定年後、趣味のテニスに明け暮れる祖父は、第二の人生を謳歌しているように見える。
どの例文も、「恵まれた境遇を堪能する」という意味で「謳歌」を用いています。例文のように、「謳歌」は「謳歌する」の形で動詞として用いることが多いです。「謳歌」の対象は他人ではなく境遇であるため、受け身で用いることはありません。
①の「我が世の春」とは、何事も思い通りになる時期、人生の絶頂期を指します。「謳歌」の対象は恵まれた環境や状況であるため、「我が世の春」を目的語にとることは多いです。
「謳歌」の類義語
「謳歌」には以下のような類義語があります。
- 悦楽(えつらく):喜びで満ち足りること
- 満喫(まんきつ):存分に楽しむこと
- 享受(きょうじゅ):受け入れて、真価を味わうこと
- 讃頌(さんしょう):歌などを通じて、褒めたたえること
- 讃美(さんび):褒めたたえること
「悦楽」「満喫」「教授」は、「存分に楽しむ」という意味における類義語です。一方、「讃頌」と「讃美」は「褒めたたえる」という意味における類義語です。
「悦楽」は、「悦楽に浸る」のように、名詞形で用いることが多いです。「満喫」は、「映画を満喫する」など、「謳歌」に比べてより具体的な対象を取ることもあります。「享受」は、対象からの働きかけによって得た幸せを、自分の中で噛みしめることを指します。
また、「謳歌」は境遇を楽しむ様子が外に強く発信されていますが、「悦楽」「満喫」「享受」には、自分の内側に満足を秘めることも含まれています。
「謳歌」の英語訳
「謳歌」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- (openly) enjoy
((誰が見ても明らかなくらい)存分に楽しむ) - applaud
(誉めたたえる)
「存分に境遇を楽しむ」という意味における「謳歌」は、enjoy で表すことが多いです。楽しむ様子が外に強く発信されているというニュアンスを強調したい場合は、openly(あらわに、あからさまに)を付けることもあります。
それぞれを用いた例文は以下の通りです。
- Our hope as parents is that you openly enjoy your youth through what you like.
(親としての願いは、あなたが好きなことを通じて、青春を謳歌することです。) - The people applauded a courageous act by a politician.
(国民は、ある政治家の勇気ある行動を褒めたたえた。)
まとめ
以上、この記事では「謳歌」について解説しました。
読み方 | 謳歌(おうか) |
---|---|
意味 | 恵まれた環境を存分に楽しむこと。声をそろえて歌うこと。声をそろえて褒めること。 |
類義語 | 悦楽、満喫、享受、讃頌、讃美 |
英語訳 | (openly) enjoy, applaud |
何となく「楽しむこと」が「謳歌」であると理解していた方は多いかもしれません。ただ、その中でも、誰が見ても明らかなほど当人が境遇を堪能していることを「謳歌」と表現します。自分の生きざまを「謳歌」と表現できたら、素敵なことですね。
⦿参考文献
・浅野建二『閑吟集』(1989) 新訂 岩波文庫
・青空文庫,<https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/791_14959.html>,2019年4月27日アクセス