今回ご紹介する言葉は、ことわざの「一事(いちじ)が万事(ばんじ)」です。
言葉の意味や使い方・由来・類義語・対義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「一事が万事」をざっくり言うと……
読み方 | 一事(いちじ)が万事(ばんじ) |
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意味 | 一つの事柄を見れば、他のすべての事柄まで推測できるということ |
由来 | 見た目などの一つの要素から、他のすべてのことを判断する傾向が強くある中で生まれた言葉 |
類義語 | 一事をもって万端を知る、一を以て万を知る、一斑を見て全豹を卜すなど |
対義語 | 木を見て森を見ず、鹿を追う者は山を見ず、金を攫むものは人を見ずなど |
英語訳 | False with one can be false with two.(一つのことを偽る人は二つのことについても偽る。) |
このページの目次
「一事が万事」の意味をスッキリ理解!
「一事が万事」の意味を詳しく
「一事が万事」とは、一つの事柄を見れば、他のすべての事柄まで推測できるということを意味することわざです。言い方を変えると、「一つの小さなことに見られる傾向が、他のすべてのことにおいても現れる」ということです。
このことわざは、よい意味でも悪い意味でも使われることわざですが、実際に使用されている例を見ると否定的な意味で使われることがほとんどです。また、多くの場面において、人間に対して使われることわざです。
人間は、私生活の面から仕事の面までさまざまな側面を持っています。さらに、その人の私生活を構成する要素も細かく分けることができます。例えば、言葉遣いや服装などです。
その人間のことを知りたいと思う時、その人が持つあらゆる面を総合的に判断することが最も理想的です。たとえば、その人の挨拶(あいさつ)から言葉遣い、服装、性格、仕事に対して取り組む姿勢などです。
これらを総合的に判断すれば、その人のことをある程度深くまで知ることはできるはずです。しかし、あらゆる面を見ることは非常に時間も手間もかかることは容易に想像がつくと思います。
「一事が万事」は、その人を総合的に判断しようとする姿勢を否定することわざです。人間が持つあらゆる面の一つだけでも見れば、他の全てのことまで推測することができるという意味であるのが「一事が万事」です。
たとえば、その人が挨拶をしない人であったら、常識が無い人間だと判断し、あらゆる面において否定的に捉えるというイメージです。他によくある例としては、服装がだらしない人や、髪に寝ぐせがついたままの人を否定的に捉えることなどがあります。
前述したように、人間に対して使われることが多いですが、人以外のあらゆるものに対しても使われます。
たとえば、ある商品の包装の丁寧さから、その商品を製造する企業全体のことを推測したり、道路にごみが散乱しているか否かから、その町の風紀を推測したりです。
以上のように、人の性格や生活態度の悪い点、ある物の欠点が目についた時に、他の面も同様に悪いはずだと推測する際に使うことわざです。そして基本的に、批判や皮肉の意味が込められています。
ただ、冒頭で述べたように、よい意味として使われることもあるという点は押さえておくべきです。
「一事が万事」の誤用例
「一事が万事」を、以下の例文のように「全てのことを知っている」という意味で使うのは誤りです。
- 彼は歩く辞書とも言われるほど博識で、一事が万事、スポーツのことから哲学のことまで詳しい。
この誤用は多く見られるため、注意が必要です。
「一事が万事」の使い方
- 彼女の部屋の汚さを見れば一事が万事、彼女の性格や仕事のできなさもよくわかる。
- 社員がだらしないあの企業は一事が万事で、よく問題を起こす。
- 一事が万事と言うので、服装からしっかり気をつけるようにしている。
- 一事が万事と言うように、時間を守る彼女は、仕事もかなり優秀だ。
➃の例文では、肯定的な意味で「一事が万事」が使われています。
「一事が万事」の由来
「一事が万事」は、人が何か物事に対して判断を下す際の判断傾向を表す言葉として生まれたものです。
昔から、日本や中国においては、人を見た目で判断する慣習が強くありました。豊臣秀吉(とよとみひでよし)も、見た目からはあまり威厳のあるようには見えず、そのことを強く気にしていたといわれています。
見た目などの一つの要素から、他のすべてのことを判断する傾向が強くある中で生まれたのが「一事が万事」ということわざです。
現在では、見た目で判断することを良しとしない価値観、考えもたしかに見られますが、日本にはまだ「一事が万事」の傾向は根強くあるといえます。
「一事が万事」の類義語
「一事が万事」には以下のような類義語があります。
- 一事を以(もっ)て万端(ばんたん)を知る:物事の一部分を知るだけで、全部のことが分かるということ
- 一を以て万を知る:物事の一部分を知るだけで、全部のことが分かるということ
- 一斑(いっぱん)を見て全豹(ぜんぴょう)を卜(ぼく)す:物事の一部を知れば、その全体を知ることができるということ
- 一を聞いて十を知る:物事の一部を聞けば、全てのことを理解できるということ
- 一行失(いっこうしっ)すれば百行(はっこう)共に傾く:一つでも行いに過ちがあると、今までの多くの善行もすべてだめになるということ
- 一滴舌上(いってきぜつじょう)に通じて、大海(たいかい)の塩味(えんみ)を知る:物事の一部を知れば、その全体を知ることができるということ
「一事が万事」の対義語
「一事が万事」には以下のような対義語があります。
- 木を見て森を見ず:細かい部分にこだわりすぎて、全体や本質をつかまないこと
- 鹿を追う者は山を見ず:ある特定のものに夢中になり、他のことが見えていないこと
- 金(きん)を攫(つか)む者は人を見ず:一つのことに集中するあまり、他のことが全く目に入らないこと
- 木を数えて林を忘れる:細かい部分にとらわれて、全体を見ることを忘れること
- 獣(じゅう)を逐(お)う者は目に太山(たいざん)を見ず:目の前の利益だけを考えているようでは、周りの状況に気づかないということ
- 木(こ)っ端(ぱ)を拾うて材木を流す:小さい物事に熱中して、肝心なことで失敗をすること
「一事が万事」の英語訳
「一事が万事」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- False with one can be false with two.
(一つを偽る人は二つのことについても偽る。) - One instance shows all the rest.
(一つの物事によって、他の全てのことが分かる。)
まとめ
以上、この記事では「一事が万事」について解説しました。
読み方 | 一事(いちじ)が万事(ばんじ) |
---|---|
意味 | 一つの事柄を見れば、他のすべての事柄まで推測できるということ |
由来 | 見た目などの一つの要素から、他のすべてのことを判断する傾向が強くある中で生まれた言葉 |
類義語 | 一事をもって万端を知る、一を以て万を知る、一斑を見て全豹を卜すなど |
対義語 | 木を見て森を見ず、鹿を追う者は山を見ず、金を攫むものは人を見ずなど |
英語訳 | False with one can be false with two.(一つのことを偽る人は二つのことについても偽る。) |
「一事が万事」の意味や使い方などを理解することはできたでしょうか。「人間や物の一つの面から、全てのことを判断する」という意味を持つ言葉です。
その意味で、ある人に対して批判や皮肉を込めて使うことが多く、人を傷つける可能性のある言葉であると言えます。また、何か一つの失敗、欠点を切り取って、その人のことを判断したり、批判したりすることは必ずしも賢明なことであるとはいえないでしょう。
「一事が万事」ということわざを自分の戒めとして使う際は特に問題はありません。しかし、誰か他人に対して使う際には注意が必要な言葉であることは押さえておくべきでしょう。