注意!「充分」と「十分」の違いとは?使い分けや英語表現も解説

違いのギモン

充分と十分は「主観的か客観的か」という点が異なります。

みなさんは、「じゅうぶん満足です」という書くとき、充分と十分のどちらを使用するか悩んだことはありませんか?

改めて考えると、どちらが正しい使い方か分かりづらい言葉ではないでしょうか。

この記事では、充分と十分の違いや使い分け、英語表現について分かりやすく解説しています。

「充分」と「十分」の違い

主観的か客観的か
充分と十分は、「不足なく満たされていること」という意味が共通しています。

一方で、それぞれには以下のような違いがあります。

充分十分
意味感覚的に満たされること数量的(数値的、物理的)に満たされること
違い主観的客観的

多くの場合、充分と十分のどちらを使用しても大きな違いはありません。

しかし、充分が「精神的な満足感」という主観的なニュアンスを含むのに対し、十分は「数値的に満たされていること」という客観的なニュアンスを含みます。

「充分」よりも「十分」の使用を推奨

文化庁からは、充分よりも十分の使用が推奨されています。

その理由は以下のようなものです。

  • 十分は画数が少なく学習必須の漢字であること
  • 充分は、もともと十分の当て字であること
こうした理由から、公用文や文部科学省の刊行物などでは、十分が用いられています。

一方で、日本国憲法では充分が用いられており、必ず十分でなければならないわけではありません。

「充分」の意味


充分は、「不足なく満たされていること」「精神的・感覚的に満たされいること」という意味です。

充分の「充」には、「満ち足りている」という意味があります。

「満ち足りている」の基準として、「その人の感覚や価値観による、主観的な基準」という意味があります。

そのため、充分にも「精神的に満たされているという意味が含まれるようになりました。

「充分」の使い方

充分を使用した具体的例文をいくつか確認しておきましょう。

  1. 充分努力したことで、なんとか優勝することができた。
  2. まだ腹八分目だが、充分満足した。
  3. お気持ちだけで充分です、お心遣い感謝いたします。
①は、「(精神的に)満足いくほどおこなった」という意味で使用されており、最も一般的な使い方です。

一方で、②の例文は「腹八分目」という指標に対して「不足なく満たされた」という意味で使用されています。

また、③のように充分は感謝を表す場合にも使用されます。

十分は、儀礼的な印象を与えることから、気持ちを込めたい場合には、「精神的に満足している」という意味の充分が使用されます。

「十分」の意味

十分は、「不足なく満たされていること」「数量的(数値的・物理的)に満たされた状態」という意味です。

十分の語源は、「十等分したものがすべてそろう」というものです。

そのため、十分は数値的・客観的な観点で分量、回数、程度などが不足なく満たされていることを表します。

もともとは「十分」しか使用されていなかった
「じゅうぶん」は、もともと十分しか使用されていませんでした。

しかし、あるときから当て字として、充分が使用されるようになりました。

当初は、同じ言葉として使用されていましたが、次第に使い分けられるようになりました。

「十分」の使い方

十分を使用した具体的な例文をいくつか確認しておきましょう。

  1. 買い物かごは十分満たされている。
  2. 満点ではないが、試験通過のためには十分な点数だった。
  3. 今期の売上目標には十分な成績だ。
すべての例文で、数値で測れる事象に対して、十分が使用されています。

十分は、必要最低ラインが決まっているものや、基準値が決まっている場合などでよく使用されます。

「十分」の関連語

十分と同様に、漢数字を使用した言葉には以下のようなものがあります。

  • 腹八分目
    まだ少し余裕がある状態
  • 十二分
    十分以上であること。たっぷりであること。
  • 十人十色
    考えや好みは人によってころなること
  • 二枚舌
    矛盾やウソを言うこと
  • 年百年中
    同じ状態がずっと続く様

この他にも、日本語には漢数字を用いた言葉が多数あります。

「充分」と「十分」の使い分け

充分と十分は、場面によって適切に使い分ける必要があります。

それぞれの使い分けについて、具体的な事例をいくつか紹介します。

「充分」を使う場合

充分を使用する事例には、以下のようなものがあります。

  • 主観的な満足感を表す場合
    例:充分睡眠をとった
  • 感謝を伝える場合
    例:その言葉だけで充分です。
  • 十分が10分と混同される場合
    例:九時頃に充分な量の材料が届く。
主観的な感情や、充足感を示す場合には、充分を使用しましょう。

また、漢数字を多用する際などに十分が10分と混同されることがあります。

その場合は、十分の代わりに充分を使用する場合があります。

「十分」を使う場合

十分を使用する事例には、以下のようなものがあります。

  • 公文書
    例:あなたは、さきの大会において十分な成績を修めました。
  • 公用文・調査
    例:そのことについて、十分な対策を講じるよう要請します。
  • 教科書
    例:まわりに人と十分な距離をとりましょう。
  • 新聞・テレビ
    例:〇〇知事は、「十分な議論がされていない」と政府の対策を批判しました。
公文書や公用文、調査、教科書などでは、十分か「じゅうぶん」を使用するというルールがあります。

しかし、日本国憲法第37条は公文書ですが、「充分」が使用されているため、絶対のルールとは言えません。

日本国憲法第三十七条

すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

また、新聞やテレビの用語は、十分で統一されています。

どちらも使用できる場合

充分と十分のどちらも使用できる事例には以下のようなものがあります。

  • 「注意する」「気を付ける」など
  • 小説
  • 履歴書
  • 論文
「じゅうぶん注意する」「じゅうぶん気をつける」などは、充分と十分によってニュアンスが異なります。

充分の場合は「問題ない程度」というニュアンスになりますが、十分の場合は「基準を満たすように」というニュアンスになります。

また、小説や履歴書、論文では、場面によって充分と十分のどちらも使用されています。

「充分」と「十分」の英語表現


英語表現には、充分と十分のニュアンスに違いを表す言葉はありません。

そのため、充分と十分はどちらも同じ単語を使用します。

  • enough
    例:He studied enough.
    (彼は充分勉強した)
  • sufficient
    例:I make a sufficient money.
    (私は十分に稼いでいる。)

“sufficient” は “enough” に比べやや固い表現です。

「充分」と「十分」の違いのまとめ

以上、この記事では、充分と十分の違いについて解説しました。

  • 充分
    感覚的に満たされること
  • 十分
    数量的(数値的、物理的)に満たされること
充分と十分は使い分けが難しい日本語の一つです。

「じゅうぶん満足する」という場合には、「感情的に満たされた」か「数量的に満たされた」かに注目して使い分けるようにしましょう。