「行う」と「行なう」の違いは、「行う」のほうが「行なう」よりも一般的な表記であるという点です。
文章を書く際に、「どちらを使えばいいのだろう」と迷っている人が多いのではないでしょうか。
「行う」のほうが正式な書き方であるものの、実は、「行なう」を使ったほうがいい場面もあるのです。
この記事では、「行う」と「行なう」の違いだけでなく、使い分けの方法などについても詳しく解説します。
- 「行う」は「行なう」よりも「一般的な表記」
- 「行う」「行なう」はどちらも「物事を実施する」という意味
- 「行う」は「『行く』との混同を防ぐ場面で用いる」
- 「行う」と「行なう」の類義語は「実行する」「遂行する」「履行する」など
- 「行う」と「行なう」の英語訳は「do」「conduct」「carry out」など
このページの目次
「行う」と「行なう」の違い
- どちらも「物事を実施する」という意味
- 「行う」は「行なう」よりも一般的な表記
「行う」と「行なう」は、両方とも「物事を実施する」という意味をもちます。
現代においては、「行なう」を使っても誤用ではないものの、「行う」という表記がより正しいということになっています。
昔は「行なう」が正しいとされていましたが、1973年以降、国の取り決めのなかで、「行う」という表記に統一されたのです。
詳しい経緯は、以下のようにまとめることができます。
日付 | ルール名 | 決まったこと |
---|---|---|
1959年 7月11日 | 内閣告示第一号「送りがなのつけ方」 | 「おこなう」の表記が「行なう」に定められる |
1973年 6月18日 | 内閣告示第二号「送り仮名の付け方」 | 「おこなう」の表記が「行う」に変更される ↓ 「行なう」は、「使っても間違いではない」という扱いになる |
自分や相手の行動を指すときに「行う」を使い、物事を進行させるという全体像を指すときに「行なう」を使う人もいます。
しかし、この使い分けに明確な根拠はありません。
「行う」と「行なう」の使い方
「行う」と「行なう」は、おもに以下のようなかたちで使います。
- 〜を行う(行なう)
- 〜を行います(行ないます)
- 〜を行った(行なった)
- 〜を行って(行なって)
- 行う(行なう)にあたって
- 行う(行なう)うえで
- 行う(行なう)〇〇
- 行った(行なった)〇〇
「行う」と「行なう」は、どちらも物事を実施することを表します。
ですから、両者は同じ使い方をすることができるのです。
「行う」と「行なう」の使い分け
現代では、「行う」と「行なう」のどちらを使っても大きな問題はありません。
「行う」のほうが一般的な表記であるものの、「行なう」という表記も間違いではないからです。
しかし、シチュエーションによっては、「行う」と「行なう」を使い分けたほうがいいこともあります。
そこで、この見出しでは、「行う」と「行なう」の使い分けについて解説します。
「行う」を使ったほうがいい場面
以下のような場面では、「行う」を使うといいでしょう。
- ビジネスシーン
- 履歴書を書く場合
- 新聞記事を書く場合
- 論文を書く場合
- その他、公的な書類を書く場合
上記のようなあらたまった場面では、現代の日本語において、より正式な「行う」を使うべきだからです。
特に、法令や新聞では、必ず「行う」としなければなりません。
なぜなら、法令の文章や新聞記事を書く際には、「文化庁が定める送り仮名に従う」というルールになっているからです。
具体的な例文を見てみましょう。
- このたび、会社説明会を行うことになった。
- 私は、事務作業を行う仕事に就きたいと考えます。
- 来月の上旬に、統計調査を行う。
- A新聞による世論調査が行われた。
- 記念式典を行いました。
「行なう」を使ったほうがいい場面
「行く」という言葉の混同を防ぎたい場面では、「行なう」を使うと便利です。
たとえば、「行う」のほうを選んで、「行った(おこなった)のは、AさんとBさんです」と書いたとします。
「行った」は「いった」とも読めるため、この文は二通りの解釈が生まれてしまいますね。
- 「おこなった」と呼んだ場合
物事を実施した人物は、AさんとBさんだった。 - 「いった」と呼んだ場合
ある場所を訪れた人物は、AさんとBさんだった。
このように、「行う」は、「行く」という言葉の変化形と混同される場合があるのです。
その点、「行なう」を使えば、混乱を防ぐことができます。
具体的な例文を見てみましょう。
- 行なったのは、AさんとBさんです。
- これから急いで行なってまいります。
1973年まで、「おこなう」の正しい書き方は「行なう」と定められていました。
そのため、70年代までに教育を受けた世代と関わる場面では、「行う」ではなく「行なう」を使ったほうが親切になることがあります。
ただし、「行う」が一般的な書き方になってから、すでに50年近く経とうとしています。
つまり、どの年代の人も「行う」に慣れていると考えられるため、基本的には、世代ごとの区別を気にする必要はありません。
「行う」と「行なう」の類義語
「行う」と「行なう」には、以下のような類義語があります。
- 実行(じっこう)する
実際に行動に移す - 遂行(すいこう)する
計画通り成し遂げる - 履行(りこう)する
約束で決まったことなどを行動に移す - 果たす(はたす)
物事を最後まで終わらせる - やる
行動する、何かに取り組む - 為す(なす)
行為をする - 営む(いとなむ)
物事をする
「行う」と「行なう」の英語訳
「行う」と「行なう」を英語に訳すと、以下のようになります。
- do
(行う) - conduct
(行う) - carry out
(行う) - hold
(行う) - accomplish
(成し遂げる) - make〜
(〜をする)
二通りの送り仮名がある言葉
「行う」と「行なう」のほかにも、「一般的な送り仮名」と「一般的ではないが許容されている送り仮名」の両方をもつ言葉はたくさんあります。
この機会に、覚えておきましょう。
行う | 行なう |
表す(あらわす) | 表わす |
現れる(あらわれる) | 現われる |
向かう(むかう) | 向う |
断る(ことわる) | 断わる |
伴う(ともなう) | 伴なう |
賜る(たまわる) | 賜わる |
群がる(むらがる) | 群らがる |
落とす(おとす) | 落す |
変わる(かわる) | 変る |
暮らし(くらし) | 暮し |
癒やす(いやす) | 癒す |
送り仮名を間違えやすい言葉
以下の言葉は、送り仮名を間違えやすい言葉です。
赤字は完全に誤った送り仮名であり、許容されていません。
補う(おぎなう) | 補なう |
幼い(おさない) | 幼ない |
危ない(あぶない) | 危い |
費やす(ついやす) | 費す |
従う(したがう) | 従がう |
哀れむ(あわれむ) | 哀む |
誤る(あやまる) | 誤まる |
快い(こころよい) | 快よい |
潔い(いさぎよい) | 潔よい |
志す(こころざす) | 志ざす |
妨げる(さまたげる) | 妨る |
試みる(こころみる) | 試る |
確かめる(たしかめる) | 確める |
恥ずかしい(はずかしい) | 恥かしい |
陥る(おちいる) | 陥いる |
被る(こうむる) | 被むる |
必ず(かならず) | 必らず |
甚だしい(はなはだしい) | 甚しい |
「行」を用いた言葉
「行う」「行なう」のほかにも、「行」という字を用いた言葉はたくさんあります。
参考までに、代表的なものを覚えておきましょう。
- 行進(こうしん)
大勢の人が列をなして進むこと - 行為(こうい)
ふるまい - 行楽(こうらく)
山野などに行って、楽しむこと - 行儀(ぎょうぎ)
礼儀や作法 - 流行(りゅうこう)
はやること - 横行(おうこう)
よくないことが広まること - 刊行(かんこう)
出版物が世にでること など
「行う」と「行なう」の違いのまとめ
以上、この記事では、「行う」「行なう」の違いについて解説しました。
- どちらも「物事を実施する」という意味
- 「行う」は「行なう」よりも一般的な表記
「行う」と「行なう」の使い分けに迷ったら、正式とされている「行う」を使うのが無難です。
ただし、「行く」との混同を避けたい場合は「行なう」を使うと、文章がわかりやすくなります。
時と場合に合わせて、「行う」と「行なう」を上手に使いこなしましょう。