「小選挙区制」と「比例代表制」の違いとは?メリットとデメリットを解説

違いのギモン

選挙権が18歳以上に引き下げられてから2年が経ちました。高校3年生でも投票できるようになり、より政治を身近に感じるようになったことと思います。

しかし、その投票の仕組みである「小選挙区制」と「比例代表制」の違いについて知らない人も実は結構いるのではないでしょうか。

今回はそんな、今更聞けない「小選挙区制」と「比例代表制」の違いについて解説していきたいと思います。

結論:「何」に投票するかの差

「小選挙区制」は「人」に投票し、「比例代表制」は(基本的には)「政党」に投票する。

「小選挙区制」をもっと詳しく

まず、「小選挙区制」とは「選挙区制」という選挙制度の中の種類の1つを指す言葉です。

初めに、この「選挙区制」の説明をしようと思います。

「選挙区制」とは

  • 対象となる地域を1つ以上の選挙区に分ける
  • 個人が立候補する
  • 有権者は自分の選挙区の候補者に投票する
  • 各選挙区で得票数の多い候補者が当選する

そして、1つの選挙区で当選する人数(定数)が1人だと「小選挙区制」、2人以上だと「大選挙区制」と呼ばれます。

「大選挙区制」は学術的には1つの選挙区当たりの当選人数(定数)が2人以上のものを指しますが、日本では一般的に8~10人のものを指します。それに対し1つの選挙区当たりの当選人数(定数)が2~6人のものを「中選挙区制」と呼ばれることもありますが、これは学術的にはあまり正しくありません。

なぜなら、定数が2人以上なら全て「大選挙区制」です。上記の「中選挙区制」と「大選挙区制」の使い分けは日本でのみ一般的に用いられるものです。

 

ちなみに、日本では1994年まで中選挙区制を採用していました。汚職や党内部の対立などが相次ぎ、それらを防ぐために小選挙区制が採用され現在に至ります。

まとめると、小選挙区制の定義はこのようになります。

  • 1つの選挙区で当選するのは1人
  • 有権者は自分の選挙区の候補者1人の名前を書き、投票する

それでは「小選挙区制」のメリットとデメリットについて解説していきます。

「小選挙区制」のメリット

有権者と候補者の結びつきが親密になる

小選挙区制の区分けは地域ごとになされるので、候補者は自分が立候補する地域の住民から支持を受ける必要があります。そのため、候補者は講演会や演説を行うので、必然的に候補者と有権者の距離が縮まることとなります。距離が縮まれば、有権者は自らの意見を候補者に伝えることが容易になります。

つまり、より国民の意見を反映した政治ができるようになる、というわけです。

選挙費用が少なくて済む

「候補者は自分が立候補する地域の住民から支持される必要がある」とすでに説明しましたが、逆の言い方をすれば、「候補者は自分の立候補する地域以外の住民から支持される必要はない」というわけです。

つまり、演説や講演会などの選挙活動を立候補する地域の外でする必要がないということになります。全国を飛び回る必要がなくなるので、必然的に選挙費用は少なくて済みます。

「二大政党制」を導き、政治の効率性上がる

「二大政党制」とは議席の大半を2つの政党が占め、その2つの政党が拮抗した力を持っている状況のことを指します。なぜ「小選挙区制」が「二大政党制」を導くのか。

それは「小選挙区制」が「1つの選挙区で当選するのは1人」だからです。

その選挙区で1番人気の候補者しか当選できないということは、それなりの力を持った候補者しか当選できないということです。そして、選挙は候補者の所属政党の強さが物を言いますから、弱い党の候補者はなかなか当選しにくく、強い党の候補者が当選しやすくなるという状況が出来上がります。

強い党の候補者が当選しやすいということとなると、議席は必然的に1つか2つの政党に割り振られることとなります。これが「小選挙区制」が「二大政党制」を導く理由です。

 

では、なぜ「二大政党制」となると政治の効率性が上がるのか。それは議論が円滑に進むようになるからです。

同じ政党のメンバーであるならば、ある程度は政治的な思想やスタンスを共有しています。つまり、議論が行われるのは政党内よりも政党間でのものがメインになります。

政党の数が少なくなれば少ないほど、政党間での議論が少なくなり、何かを決定するのに必要な時間が短縮されます。これが「二大政党制」になると政治の効率が上がるということの理由です。

「小選挙区制」のデメリット

「死票」が多い

「小選挙区制」は再三、記しているように「1つの選挙区で当選するのは1人」です。つまり、当選者以外の候補者に入っていた票は無かったことになってしまいます。落選者に何票入っていようが、当選しなければその票はノーカウントです。このノーカウントになってしまう票のことを「死票」と呼びます。

有権者が投じた票はただの紙切れではありません。その票には有権者の意思が託されています。しかし、その票は当選者に投じられたものでなければノーカウントにされてしまいます。文字通り、民意が反映されずに、死んでしまうわけです。

「民意の反映」は民主主義の基本理念とされています。

 

「死票」が多く「民意の反映」がきちんとなされていないという点で小選挙区制は問題視されることが多々あります。

日本も例外ではありません。2017年に行われた衆議院選挙において自民党は大勝を果たし、小選挙区制ぶんの議席の実に76%を獲得しました。

 

しかし、実際に自民党の議員が得た票は全体の48%ほどでした。つまり、2人に1人しか自民党から出馬した議員に投票していないのにも関わらず、4分の3以上の議席を獲得しているというわけです。

ここまで数字の乖離が大きいと「民意の反映」がしっかりとなされているとは言い難く、制度上問題があるという指摘も少なくありません。

「二大政党制」が導かれ、政策の多様性が損なわれる

「小選挙区制」が「二大政党制」を導くということがすでに説明しました。

では、「多様性が損なわれる」とはどういうことでしょうか。

 

2つの大きな政党、A党とB党があったとします。

まず、はじめの選挙でA党が勝利したとします。すると、B党の人々は考えます。「いまの世論はA党のような政策を求めているのか。ならば我々の政策に少しA党的な考え方を取り入れよう」と。

政策を変化させたB党は前回の選挙でA党に投票した人々の支持を得て、見事勝利します。するとA党の人々はこう考えるでしょう。「いまの世論はB党のような政策を求めているのか。ならば我々の政策に少しB党的な考え方を取り入れよう」と。

 

これが何回か繰り返されるうちに、A党とB党の間の政治的な差は少なくなっていきます。

例えるならば、ファミリーレストランに行ってメニューを開いたらチキンカレーとポークカレーしかないようなものです。世の中にはスパゲッティを食べたい人も、ステーキを食べたい人も、ラーメンを食べたい人もいるのにチキンカレーとポークカレーしかないのです。

「自分が食べたいものがメニューにない」と「自分と主義主張が合う政党がない」は同じようなものです。本当に選びたいものを選ぶことができない状況は、「民意の反映」がなされているとは言い難いでしょう。

 

「小選挙区制」のメリット・デメリットに触れたところで、次は「比例代表制」について見ていきましょう。

「比例代表制」をもっと詳しく

「小選挙区制」が「人」に投票する制度であるのに対し、「比例代表制」は(基本的には)政党に投票する制度です。

「比例代表制」は以下のような仕組みになっています。

  • 対象となる地域を1つ以上のブロックに分け、各ブロックに定数(当選する人数)を割り当てる。
  • 有権者は自分のブロックで候補者が擁立している政党に投票する。
  • 各ブロックの定数をそのブロックでの各政党の割合に比例するように分配する。
「各ブロックの定数をそのブロックでの各政党の割合に比例するように分配する」とはどういうことか。

 

例えば、ブロックの定数が50人のところでX党が30%、Y党が40%、Z党が30%の票を獲得したとします。各政党の得票率をそのまま獲得議席に反映させるので、それぞれの党の議席は15議席、20議席、15議席となります。

また、政党は事前に各ブロックごとに候補者名簿を作成し、それを公表します。その名簿には各政党の候補者の名前が記されており、獲得した議席の数だけ上から順に当選となります。この名前の順番は政党が決定することができます。

基本的な「比例代表制」の説明が終わったので、次はメリットとデメリットについて解説していきます。

「比例代表制」のメリット

有権者の選好・意思が「小選挙区制」に比べ、厳格に議席数に反映される

「1つの選挙区で当選するのは1人」であり、落選者への票は無かったこととなる「小選挙区制」と比べ、「比例代表制」は得票率がそのまま議席数に反映されるため「死票」が基本的には存在しません。

「死票」が無いということは、「民意の反映」がしっかりとなされるということになり、「比例代表制」は民主主義の理念に即した制度であると言えます。

政党本位、政策本位の選挙が期待できる

「比例代表制」は「政党」に票を投じるので、候補者と有権者との繋がりがないので、政党のスタンスを乱されることなく活動することが期待できる。

「比例代表制」のデメリット

有権者と候補者との結びつきが疎遠

「小選挙区制」では候補者と有権者が結びつくことによって、有権者が直接声を候補者に届けられるようになり、より民意を政治に反映させることは可能になっていました。しかし、「比例代表制」は「政党」に投票するのでそのような結びつきを期待することはできません。

当選する候補者を決定するのは政党

上記の候補者名簿を作成するのは政党で、そこに有権者の意見を反映さえることができません。「この候補者を当選させたい」という有権者の意見を反映させることができないということはそれは「民意の反映」が不完全ということとなります。

選挙費用が小選挙区制に比べ多く掛かる

選挙範囲が小選挙区制に比べ広いので、そのぶん多くの費用が掛かります。

多党制を導き、政治の効率性が落ちる

「比例代表制」は有権者の投票がそのまま反映されるので必然的に政党数が多くなります。政党数が増えれ増えるほど議会内での合意形成が困難になり、政治の効率性が下がります。

最低得票規制

ドイツの制度。得票率が5%以上で初めて議席を獲得できるようになっており、過度な多党制を防ぐ働きがある。

「拘束名簿式」と「非拘束名簿式」

「比例代表制」は「政党」に投票するものですが、そこには例外があります。それは「非拘束名簿式」で行われる「比例代表制」の選挙です。

「比例代表制」選挙において、各政党は候補者を当選順に並べた「候補者名簿」というものを作成するということは先述した通りですが、この「当選順」を政党が事前に決定しない場合があります。その「当選順」を政党が事前に決定しないやり方を「非拘束名簿式」といい、決定するものを「拘束名簿式」といいます。

この「非拘束名簿式」で比例代表制の選挙が行われるとき、有権者は「政党」もしくは「候補者」の名前を書いて投票することができます。

 

そして、「候補者」として得た票の数の多さがそのまま政党内での当選順位となります。

ちなみに、日本では衆議院が「拘束名簿式」(政党が当選順位を決定する)、参議院が「非拘束名簿式」(「候補者」として得た表の数が当選順位を決定する)の方式を取っています。

まとめ

以上、「小選挙区制」と「比例代表制」の違いについて解説しました。

  • 小選挙区制:「人」に投票し、1つの選挙区から上位1人だけ当選する。
  • 比例代表制:(基本的に)「政党」に投票し、各政党がの得票率に比例して議席を配分する。

「小選挙区制」にも「比例代表制」にもそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらの制度が優れている、劣っているというものではありません。

この2つの制度を組み合わせることで、それぞれの国はそれぞれの国の状況にあった制度を作り上げています。