今回ご紹介する言葉は、心理学用語の「初頭効果(しょとうこうか)」です。
言葉の意味・具体例・提唱者・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「初頭効果」をざっくり言うと……
読み方 | 初頭効果(しょとうこうか) |
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意味 | 最初に抱いた印象が、相手のイメージとして記憶に残りやすい効果 |
提唱者 | ソロモン・エリオット・アッシュ |
英語訳 | Primacy effect(初頭効果) |
「初頭効果」の意味をスッキリ理解!
「初頭効果」の意味を詳しく
「初頭効果」とは、一番始めに得た印象によって、相手の人物像への全体的なイメージが大きく左右される効果のことです。
人間は、出会って数秒の間に相手の印象を決定します。最初の印象はインパクトが強く、なかなか上書きできないのです。
主に人間に対する印象形成を指す言葉ですが、ものについても似たような効果が得られる場合があります。
たとえば、「高品質だが少し値が張る商品」と「質はよくないが安い商品」の2つの商品があったとします。実際には品質重視の人がいる一方で、価格重視の人もそれなりにいるはずですが、つい値段が高い方の商品を選びたくなりませんか?
これは、「初頭効果」によって「高品質」と「低品質」という2つの印象が残り、「高い」「安い」という情報の、判断材料としての優先度が落ちるために起こるのです。
同様に、「何かを覚える」という場面においても「初頭効果」が影響することがあります。
「〇〇について全部覚えよう」と思ったとき、最初の何個かは覚えられるのになかなか後が続かない、という場面に心当たりのある人もいるはずです。「江戸幕府の三代将軍まではわかるのに、その先がなかなか覚えられない」という経験も、実は「初頭効果」によるものかもしれません。
このように、「初頭効果」は知らず知らずのうちに私たちの判断や記憶に影響を与えるのです。
「初頭効果」の具体例
「初頭効果」は、対人関係全般に影響を及ぼします。ビジネスシーンなど、初対面の相手から見た、自分の印象をよくしたい場合に利用できます。
たとえば、自信なさげに話しかけた場合には、相手は「気の弱そうな人だ」と判断し、不安を感じてしまいます。
それに対し、ハキハキと自信ありげに話を始めれば、相手は「しっかりしている人」と判断し、頼もしさを感じます。
そのため、実際の本人の性格に関わらず、自信を持った印象のよい態度で話を始めることで、相手の信頼を得ることができるのです。
同じように、商品の説明をするときなどに、メリットを先に上げて話を始めるのも効果的です。最初に「欲しい」と思わせるような情報を与えることで、「いい商品である」という印象を与えられるのです。
「初頭効果」の提唱者
「初頭効果」は、ポーランド出身の心理学者ソロモン・エリオット・アッシュによって提唱されました。
アッシュは「同調実験」によって、「個人の意思決定は、周囲の人間の意見によって左右される」ということを明らかにしたことでも有名です。
この「同調実験」では、「明らかに正しい答えのわかる問題でも、周囲が間違った特定の選択肢を選ぶと、合わせて同じ選択肢を選んでしまう」ということが明らかになっています。
初頭効果を証明した実験では、次の2つの特徴を被験者に示し、それぞれの人物についてどのような印象を感じるか回答させました。
- 知的、勤勉、衝動的、批判的、頑固、嫉妬深い(intelligent, industrious, impulsive, critical, stubborn, and envious)
- 嫉妬深い、頑固、批判的、衝動的、勤勉、知的(envious, stubborn, critical, impulsive, industrious and intelligent)
この2つは、並べられている言葉自体に違いがありませんが、その順番は違います。1つめはポジティブな言葉を先に、2つめはネガティブな言葉を先に示しています。
この実験結果によると、1つめの文章を与えられた被験者は、比較的ポジティブな印象を持ちました。一方で、2つめの文章を与えられた被験者は反対に、比較的ネガティブな印象を感じています。
1つめの文章では、「多少の欠点はあるが能力のある人」というイメージを持たせ、2つめの文章では「能力はあるが、欠点もあるためにその能力が発揮できない人」というイメージを持たせるのです。
このように、先に与えられた情報によって相手の印象が変わってしまうのが「初頭効果」の特徴です。
「初頭効果」の英語訳
初頭効果を英語に訳すと、次のような表現になります。
- Primacy effect
(初頭効果)
「初頭効果」は英語で”Primacy effect”と表現するのが一般的です。
“a primacy effect”で十分意味が通じますが、特に「アッシュの提唱した初頭効果」と強調したい場合は”the primacy effect”という形で使うとよいでしょう。
「初頭効果」と「親近効果」
「初頭効果」とペアになる概念に、「親近効果」というものがあります。
「親近効果」とは、初頭効果とは反対に、最後に得た情報によって全体の印象が変わるというものです。
一見、「初頭効果」と「親近効果」は矛盾するように思えますが、どちらが優勢というよりは、どちらも相互に影響を及ぼしていると考えられます。ただし、より対象に関心を持っている場合ほど親近効果が強くなり、反対に関心の薄い場合には初頭効果が強く影響します。
初頭効果は長期記憶に働きかけ、長期間相手の印象を決定します。一方で、親近効果は、より最新の情報が短期記憶に残り、その場での相手の印象を決定すると考えられています。
つまり、人物の特徴など、長期間続く印象については長期記憶が優勢となり、初頭効果が強く影響するのです。
このように、一番最後に得た情報は「親近効果」により、他の情報と比較して長期間覚えていられるのです。
人物についても、話などの内容についても、記憶の中で直近の出来事ほどはっきりと思い出せるというのは当然のことではあります。しかし、同じ日の出来事であっても、「去り際に話した話題は思い出せるが、中盤の話題は印象に残っていない」という経験はよくあることではないでしょうか。
同じように、印象に残った映画の場面を思い出そうとすると、案外結末しか思い浮かばないものです。つまり、単純な内容の記憶についても「親近効果」が働きます。
暗記テストで多くの単語が並べられているとします。すると、真ん中の単語は思い出しづらい一方で、最後に見た単語は思い出しやすい傾向にあります。これを利用し、勉強中、暗記したいことをその日の最後に残しておくと、より記憶に残りやすくなります。
まとめ
以上、この記事では「初頭効果」について解説しました。
読み方 | 初頭効果(しょとうこうか) |
---|---|
意味 | 最初に抱いた印象が、相手のイメージとして記憶に残りやすい効果 |
提唱者 | ソロモン・エリオット・アッシュ |
英語訳 | Primacy effect(初頭効果) |
初対面の相手にいい印象を持ってもらうには、出会ってすぐの時間が大切です。「初頭効果」でいい人間関係が築けるといいですね。