最近よく耳にする「排他的経済水域」。なんとなく意味が分かっているつもりでも、ちゃんと説明できますか?
海にまつわる似た言葉として、「領海」「接続水域」も聞いたことがあるでしょう。
これらの違いは何でしょうか。
結論:陸地からの距離と権限が違う
「領海」をもっと詳しく
「領海」は、海岸線から12カイリまでの海のことをいいます。沿岸国(海域がぞくする国)は、領土と同じような権限を領海に対して持っています。
領土に対して国が持つ権限を「主権」と言います。ここでの主権とは、他の国に介入されないことを意味します。自国の領土で他の国の警察官がパトロールしていたらおかしいですよね。治安を守る仕事は、自分の国がやらなくてはいけません。
これと同様に、領海では、他の国が勝手なことをしてはいけません。たとえば、魚を取ったり軍事行動をしたりするのは禁止されています。
ただし、「無害通航」は認められています。無害通航とは、沿岸国に対して害をなさずに船が通ることです。また、トルコのボスポラス海峡などのさまざまな国の船の航路上にある海峡では、より広く外国船の航行が認められています。
なお、領土と領海の上空は「領空」と言います。領空では、国の許可なく飛行することが禁止されています。領海では無害通航が認められていますが、領土と領空を通る場合は必ず許可が必要という違いがあります。
「接続水域」をもっと詳しく
「接続水域」は、海岸線から24カイリまでの海をさします。接続水域では、領海で起こりうる犯罪行為を取り締まることができます。
具体的には、出入国の管理や衛生などです。これらに対する犯罪が起こりそうであれば、領海に入る前に取り調べることができます。たとえば、不法入国のおそれがある船を見つけたら、接続水域にいる間に船に立ち入って操作ができます。
「排他的経済水域」をもっと詳しく
「排他的経済水域」は、海岸線から200カイリまでの水域をさします。排他的経済水域では、沿岸国は経済開発や建設などの権限を持ちます。英語で “Exclusive Economic Zone” と言うため、EEZと省略されることもあります。
排他的経済水域でできること
排他的経済水域でできることを、表にしてみました。
- 天然資源開発の主権的権利:漁業、海底油田などの開発
- 自然エネルギー開発の主権的権利:風や波、海流を使ったエネルギーの開発
- 人工島の建設、環境保護、海洋科学調査などの管轄権
これだけでは少しわかりづらいので、それぞれ説明します。
天然資源の開発
ここで言う「天然資源」とは、水産資源と鉱物資源に分けられます。
例をあげて考えてみましょう。
まずは、水産資源についてです。A国とB国の間にいい漁場があったとしましょう。
A国の船は、B国の排他的経済水域のギリギリ手前までは漁をすることが認められています。しかし、B国の排他的経済水域に入って漁をするには、B国の許可を得る必要があります。多くの場合、入漁料を払うことになります。
そこで、A国の漁船は、B国の排他的経済水域に入らないように漁を続けたとします。ところが、うっかりB国の排他的経済水域に入ってしまうと、取り締まりの対象となるのです。
排他的経済水域に入ったかどうか、入っても漁はしていなかったのかどうかは、しばしば国の間でもめることがあります。特に、この例で説明したようなよい漁場がある場合は、お互いに相手国に対して厳しい態度を取ることが多いのです。
鉱物資源でも、同じことが言えます。2ヶ国の間によい海底油田や海底鉱床(かいていこうしょう;レアメタルなどが埋まっている海底)があれば、どちらの国も開発したくなるでしょう。
C国とD国の間に、海底油田があったとします。C国が油田を開発すれば、D国の海底にも埋まっている石油がC国に取られてしまうおそれがあります。
ふつう、このような場合は、公平に開発ができるようにC国とD国で話し合いを重ねます。
ところが、どちらかの国が先に開発してしまうと、国際問題になってしまうのです。
自然エネルギーの開発
自然エネルギーとは、水力、風力、波力、海流などのことを指します。
海上に発電用の風車が並んでいる様子を見たことがあると思います。そういった、自然にあるものを使ってエネルギーを取り出すことを「自然エネルギーの開発」と言うのです。
建設・環境保全・科学的調査の管轄
ここではいくつかの事がらを扱いますが、共通点は「管轄権」があるということです。他の国が排他的経済水域の中で以下のことをする場合は、沿岸国の許可を得る必要があります。
- 人工島などの建設
- 環境の保全・保護
- 海洋の科学的な調査
沿岸国が権利をもたないもの
これまで、沿岸国が権利をもつものを紹介しました。
しかし、沿岸国がすべての権利を持つわけではありません。
排他的経済水域の通航と、上空の飛行は、すべての国に認められています。これは、特に資源を使うものではないからです。
また、海底にパイプラインや電話線などを通すことも、沿岸国が拒否できるものではありません。これも特に資源を使うものではないからです。パイプラインや電話線は、沿岸国だけではなく他の多くの国にとって必要不可欠なものですよね。
排他的経済水域は伸び縮みする
排他的経済水域は200カイリまでと説明しました。しかし、延ばすことが認められている場合もあります。それは、「大陸棚(たいりくだな)」が広がっている場合です。
大陸棚とは、浅くて平らな海底が広がっている海のことです。大陸棚と認められると、最大で350カイリまで延ばすことができます。
一方で、排他的経済水域同士が重なってしまう場合もありますよね。その場合は、中間に境界を引くことが普通です。
補足:海にまつわる用語をもっと詳しく
1カイリって何メートル?
領海、接続水域、排他的経済水域の範囲をあらわす単位として、「カイリ」を使ってきました。なんとなく聞いたことがある人も多いでしょう。
1カイリは、1852mです。なぜこのような中途半端な長さになったのでしょうか。もともとは、地球の緯度1分(1°の60分の1)分の長さをもとに作られたようです。
ちなみに、船の速さの単位「ノット」は、1時間に1カイリ進む速さをさします。
排他的経済水域の外は?
排他的経済水域の外は、「公海」といいます。公海は、どこの国にも属さない海です。公海では、船の通航はもちろん、資源の開発なども自由に行うことができます。
海岸線はどこから?
海岸線は、潮の満ち引きによって変わりますよね。領海、接続水域、排他的経済水域を決めるときの海岸線は、どのように決めているのでしょうか。
基本的には、海岸線は最も潮が引いているときの「低潮線」をもとにしています。
その上で、海岸線が複雑に入り組んでいる場合や、島がたくさんある場合などは、外側の部分を結んだ線を海岸線とみなします。この線を「直線基線」「群島基線」といいます。
たとえば、ノルウェーではフィヨルドという非常に入り組んだ海岸線をもつため、直線基線が使われています。また、フィリピンは島がたくさんあるため、群島基線が使われています。
まとめ
以上、この記事では、「領海」「接続水域」「排他的経済水域」の違いについて解説しました。
- 領海:海岸線から12カイリ以内で、国の主権がおよぶ
- 接続水域:海岸線から24カイリ以内で、犯罪を未然に取り締まれる
- 排他的経済:海岸線から200カイリ以内で、資源開発などができる