今回ご紹介する言葉は、カタカナ語の「パラドックス」です。
「パラドックス」の意味・使い方・語源・類義語などについて分かりやすく解説します。
「パラドックス」とは?
「パラドックス」の意味を詳しく
「パラドックス」には、2つの意味があります。
1つは、一般に正しいと思われていることに矛盾することがらです。また、一見正しくないようでも、実際にはある意味で真理をついていることも意味します。
もう1つは、正しそうに見える前提に、妥当に見える推論を重ねた結果、受け入れがたい結論になることです。
前者の意味は、日本語では「逆説」「背理」「逆理」といいます。また、後者の意味は、日本語では「二律背反」といいます。
「パラドックス」とは、簡単に言うと「正しそうにも、正しくなさそうにも見えること」です。
「パラドックス」は、結論が「論理的矛盾であるもの」と「直観的には受け入れがたいが、論理的矛盾ではないもの」の2つに分けることができます。前者を狭義の「パラドックス」、後者を広義の「パラドックス」や「擬似パラドックス(pseudoparadox)」といいます。
また、「パラドックス」は「パラドクス」と表記する事もあります。
狭義の「パラドックス」の例
狭義の「パラドックス」の例としては、「ベリーのパラドックス」が挙げられます。
「ベリーのパラドックス」は、「19文字以内で記述できない最小の自然数」というような文によって生じるパラドックスです。
自然数はほぼ無限に存在するのに対し、19字の日本語で記述できる内容は有限です。そのため、「19文字以内で記述できない最小の自然数」に当てはまる数は、必ず存在するはずです。
しかし、そのような数も、実際には「19文字以内で記述できない最小の自然数」という19字によって記述されてしまいます。
そのため、「19文字以内で記述できない最小の自然数」という定義通りの数は、絶対にあるということも、ないということもできます。
「擬似パラドックス」の例
「疑似パラドックス」の例としては、「モンティ・ホール問題」が挙げられます。
これはアメリカの長寿番組「Let’s Make a Deal」の中で行われたゲームが元となり、有名になった問題です。番組司会者モンティ・ホールの名前をとって、名前がつけられました。
まず、あなたが3つのうち1つのドアを選びます。
その後、あなたがドアを開くまえに、モンティは、あなたに選ばれていないドアのうち、はずれのドアを1つ開きます。すると、残っている2つのドアのうち、1つがあたり、もう1つがはずれということになります。
ここで、モンティはいいます。
「選ぶドアを変えてもいいですよ」
さて、ここで最初に選んだドアを開けることも、ドアを変えて開けることもできます。どちらのドアを選ぶと、当たる確率が高いでしょうか?
結局、後半は2つのドアのうち、片方があたりという状況になっています。そのため、「どちらのドアを選んでも同じ確率である」と考える人が多いです。
しかし、実際にはドアを変えた方が、当たる確率は2倍になります。
「パラドックス」の使い方
- 「急がば回れ」は、「急いでいる時こそ安全に遠回りすべき」という意味のことわざだ。これもパラドックスの一例といえるだろう。
- パラドックスについて考えることが、結果的に数学や哲学の発展につながった。
「パラドックス」の語源
「パラドックス」の語源はギリシャ語の “para” と “doxa” です。
“para” には「反対」、 “doxa” には「通念」「意見」という意味があります。
「パラドックス」の類義語
「パラドックス」には以下のような類義語があります。
- 逆説
- 背理
- 逆理
- 二律背反
有名な「パラドックス」の例
アキレスとカメのパラドックス
足が速いアキレスが、足の遅いカメを追いかけても、永遠にカメに追いつくことができないというパラドックスです。
アキレスがカメが元いた地点に着いたとしても、カメは必ず前進しています。そのため、両者の距離は徐々に縮まっていきますが、常にカメが前を歩いていることになります。
エピメニデスのパラドックス
「クレタ人は嘘つきであると、あるクレタ人はいった」というような文におけるパラドックスです。
仮にクレタ人が嘘つきである場合、「クレタ人は嘘つきである」という内容が嘘であるはずです。つまり、「クレタ人は正直者」ということになります。
しかし、これは「クレタ人が嘘つき」という前提と矛盾しています。
一方、仮にクレタ人が正直者である場合、「クレタ人は嘘つきである」という内容が真実であるはずです。つまり、「クレタ人は嘘つき」ということになります。
しかし、これは「クレタ人が正直者」という前提と矛盾しています。
つまり、クレタ人が嘘つきであろうと、正直者であろうと、矛盾が生じます。
このような文章自体の否定を利用したパラドックスを、「自己言及のパラドックス」や「嘘つきのパラドックス」といいます。
ハゲ頭のパラドックス
ハゲ頭に毛を1本足したとしても、ハゲ頭です。また、2本、3本と足したとしても、やはりハゲ頭です。
これを繰り返すと徐々に毛の量は増えていきますが、ハゲ頭とそうでない頭の明確な境界線はありません。そのため、「どれだけ髪の毛があろうと、ハゲである」ということになります。
古代ギリシャの哲学者、エウブリデスが考えたとされています。
テセウスのパラドックス
「テセウスの船」を修理し、使用されていた木材を一部新しくしたとします。修理後は、多少木材が変わっていますが、当然「テセウスの船」のままです。
その後、船の修理を繰り返した結果、元々使われていた部品は、すべて新しいものに変えられてしまったとします。これでもまた「テセウスの船」であるといえるのかというのが、「テセウスのパラドックス」です。
また、元々船に使われていた古い木材を組み立て直し、船をつくったとします。これは「テセウスの船」といえるのかという派生問題もあります。
親殺しのパラドックス
「ある人が過去の時間に移動し、自身の祖父を祖母と出会う前に殺したらどうなるのか」という問題です。
以下のような論理が無限にループします。
- 祖父を殺す
- その人の両親のどちらかは生まれてこない
- その人自身も生まれてこない
- 祖父が殺される理由がなくなるため、祖父と祖母が出会う
- その人の両親は生まれて来る
- その人が生まれる
➅の後は、➀に戻ります。
このような「過去の出来事の改変によって矛盾が生じること」のことを、「タイムパラドックス」といいます。
抜き打ちテストのパラドックス
先生が次のように言ったとします。
「来週の月曜日から金曜日のどこかで抜き打ちテストを行います。テストをやるかどうかは、当日になってはじめてわかります。」
しかし、仮に抜き打ちテストが金曜日だった場合、木曜日の放課後の時点で「抜き打ちテストが金曜日であること」がわかってしまいます。
すると、「テストをやるかどうかは、当日になってはじめてわかる」という抜き打ちテストの前提が崩れてしまいます。
つまり、金曜日に抜き打ちテストをやることは不可能であるといえます。
また、仮に抜き打ちテストが木曜日だった場合、水曜日の放課後の時点で「抜き打ちテストが木曜日か金曜日であること」がわかってしまいます。
しかし、金曜日に抜き打ちテストをやることは不可能であるはずなので、水曜日の放課後の時点で「抜き打ちテストが木曜日であること」が確定します。
すると、「テストをやるかどうかは、当日になってはじめてわかる」という抜き打ちテストの前提が崩れてしまいます。
つまり、木曜日に抜き打ちテストをやることは不可能であるといえます。
同じ理由で、水曜日、火曜日、月曜日の順番で遡ると、抜き打ちテストは実施不可能ということになってしまいます。
まとめ
以上、この記事では「パラドックス」について解説しました。
英語表記 | パラドックス(paradox) |
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意味 | 一般に正しいと思われていることに矛盾することがら |
語源 | ギリシャ語の “para” と “doxa” |
類義語 | 逆説、背理、逆理、二律背反 |
「有名なパラドックス」の例 | アキレウスとカメのパラドックス、エピメニデスのパラドックスなど |
「パラドックス」は、哲学者や数学者でない限り、日常生活の中で頻繁に向き合うものではありません。
しかし、「なぜそのような矛盾が生じるのか」ということを考えるのは、頭の体操になります。たまには、難解なパラドックスについて、腰をすえて考えてみるのもよいかもしれません。