「もとい」は「言い間違いを訂正する語」「もとに戻すことを命令する語」という意味です。
目上の人との会話で言い間違えたとき、「じゃなくて…」「いや…」など砕けた言葉を使っていませんか?
できれば慌てることなく、失礼のない言葉で持ち直したいですよね。
「もとい」は、さまざまな場面で言い間違いを簡潔に訂正できるので、使いこなせると便利な言葉です。
この記事では、「もとい」の意味や使い方をわかりやすく解説します。
☆「もとい」をざっくり言うと……
読み方 | もとい |
---|---|
意味 | 言い間違いを訂正する語 もとに戻すことを命令する語 |
語源 | 軍隊の号令から変化した説 元結の別名説 |
類義語 | AではなくB、AならぬB、AというよりBなど |
英語訳 | I mean, 〜.(そうじゃなくて、~っていう意味)、correct(訂正する)、or even better(もっと良い)など |
「もとい」の意味
もとい
- 言い間違いを訂正する語
- もとに戻すことを命令する語
「もとい」は、一般的にひらがなで表記します。
漢字では「元い」と表記しますが、あまり使われません。
それぞれの意味を解説します。
意味①:言い間違いを訂正する語
「もとい」は、「間違いを訂正するためにもとへ戻る」という意味で、言い間違いをしたときに、直前の言葉を訂正することができる語です。
そのため、基本的に話し言葉であり、会話や台詞の中で使います。
書き言葉は何度でも書き直すことができるので、「もとい」は使いません。
自分や相手の立場に関係なく使えるので、日常会話などさまざまな場面でよく使われます。
主に、年齢層の高い人が使うことが多いです。
意味②:もとに戻すことを命令する語
「もとい」は、体操などで、もとの状態や姿勢に戻すことを命令する語です。
ひとりが複数人に対して命令することが多いので、全員に聞こえるように大きな声で発せられます。
「なおれ」も同じ意味の語です。
「基」という表記は誤り
「元い」と表記する「もとい」と、「基」と表記する「もとい」はまったく異なる意味なので、混同しないように注意しましょう。
「基」と表記する「もとい」は、「物事の一番下で支えているもの」や「土台」という意味です。
「もとえ」と発音するのは誤り
「もとい」を「もとえ」と発音するのは誤りです。
「もとい」を「元へ」だと思って「もとえ」と発音してしまう人もいるようですが、「もとえ」という言葉はありません。
「い」と「え」の発音は似ていますが、言い間違えないように注意しましょう。
「もとい」をよく使うということは、言い間違いをよくするということです。
あまりに多くの言い間違いは、信用を失ったり相手を怒らせたりすることにつながってしまいます。
「もとい」を使わずに済むように、なるべく言い間違いをしないことを心がけましょう。
「もとい」の使い方
「もとい」は、以下のようなときに使います。
- 言い間違えを訂正するとき使う
- 皮肉として使う
- ジョークとして使う
それぞれの使い方について、例文と一緒に見ていきましょう。
使い方①:言い間違えを訂正する
「もとい」は、言い間違えを訂正するときによく使われます。
言い間違えはなるべく早く訂正した方が良いものなので、簡潔さが重視されます。
「もとい」を使わずに言い間違えを訂正しようとすると、「あ、すみません、間違えました。正しくは〜」などと、かなり長い言葉で説明しなくてはなりません。
そのため、一言で簡潔に表現できる「もとい」がよく使われるのです。
人によっては、「〇〇もといもとい△△」と、2回繰り返すこともあります。
年齢層が高い人の中には、口癖のようにおどけて使う人も多いです。
- 集合場所は八重洲中央口、もとい八重洲北口です。
- あなたは昨日も遅刻した、もとい、ちゃんと出席してたね、ごめんなさい。
- 菅野(すがの)さん、もとい、菅野(かんの)さん、お入りください。
- 日本語学、もといもとい、日本文学を学んでいます。
- こちらが私のパパ、もとい、父です。
- 隣の家がうるさい、もとい、賑やかだから。
①②③④は、単なる言い間違いを訂正するために使っています。
⑤は自分にとって恥ずかしい言い間違いなので、適切な言葉で言い直すために使っています。
⑥は自分の本心をつい言ってしまった言い間違いなので、なるべく良い言葉で言い直すために使っています。
使い方②:皮肉
「もとい」は、皮肉として使うこともあります。
わざと先に皮肉となることを言い、後にそれを否定することで、結果的に、先に言ったことを印象的にする効果があります。
- 彼は無神経…もといフレンドリーな性格だ。
- 彼女はとてもケチ…もとい倹約家だ。
- これは見事な愚民(ぐみん)の列、もとい、長蛇(ちょうだ)の列だ。
皮肉で使う場合は、「本当は言わない方が良い」とわかっていて、わざと言っています。
失礼な人だと思われてしまう可能性があるので気をつけましょう。
使い方③:ジョーク
「もとい」は、ジョークとして使うこともあります。
わざと先にジョークとなることを言い、「もとい」と冗談めかして、後に言いたかったことを言います。
- 田中さん、20回目の、もとい30回目の誕生日おめでとう!
- 我が家の天使、もとい、ペットのチョコちゃんです。
- こんな暑い日に差し入れとは!とってもアイス!もとい、ナイス。
相手を笑わせるためのジョークだとしても、ビジネスなどのフォーマルな場面では好まれません。
親しい友人や家族にのみ使うようにしましょう。
「もとい」の語源
「もとい」の語源とされている説は、以下の2つがあります。
どちらの説が正しいかは、定かではありません。
- 軍隊の号令から変化した説
- 元結(もとゆい)の別名説
①軍隊の号令から変化した説
「もとい」は、軍隊の号令「元(もと)へ」から変化した説があります。
軍隊では、指揮官や上官などが、ある号令がうまくいかなかった場合、「もとへ(元の姿勢に)戻れ」という意味で号令「もとへ」を使います。
この「元へ」が訛(なま)って「もとい」になり、会話の中で「言い間違いを訂正する」という意味で使われるようになったとされます。
「元へ」は、真相は定かではありませんが、オランダ語が語源かもしれないとされています。
幕末、オランダ式の西洋砲術(ほうじゅつ)の用語を日本語に翻訳した際、「モドセ」という用語があったことがわかっています。
もし、この「モドセ」が後の「元へ」の語源だとすれば、「もとい」の語源はオランダ語であることになります。
②元結の別名説
「もとい」は、「元結」の別名が語源だという説があります。
元結とは、髷(まげ)の一部である髻(もとどり)を結び束ねる紐(ひも)や糸のことで、別名「もとい」「もっとい」ともいいます。
[出典:乱志&流三の落語徘徊]
髷を結い直すときには、髻を結い直し、元結も締め直す必要があります。
そのため、元結の別名である「もとい」が「初めから言い直す」という意味になったとされます。
「もとい」は方言?
「もとい」にあまり馴染みがない方は、「もとい」がどこかの方言なのではないかと思うかもしれませんが、「もとい」は方言ではありません。
そのため、「もとい」は日本全国、どこの地域でも共通語として使うことができます。
「もとい」の類義語
「もとい」には以下のような類義語があります。
- AではなくB
Aを否定してB - AならぬB
AではないB - AというよりB
- よく言えば
- いや、いえ
- いえ
- ではなく
- ではなかった
- (そう)じゃない
- (そう)じゃなくて
- (そう)じゃなかった
- 違う
- ちゃうちゃう
- 訂正
「もとい」と「改め」
「もとい」と似た言葉に、「改め」があります。
改め
- 新しいものに替えること
「改め」は「改める」の連用形※で、「新しいものに替えること」を意味します。
「〇〇改め△△」といえば、「新しく〇〇から△△に替わった」という意味です。
歌舞伎や落語など、伝統芸能の襲名(しゅうめい)でよく使われます。
連用形とは、動詞の活用形で「文中で文を中止するときの形」です。
たとえば「書きます」の「書き」や、「速く走る」の「走る」が連用形です。
「もとい」と「改め」の違い
「もとい」と「改め」の違いは、「前に言ったことを否定するかどうか」です。
「もとい」は、前に言ったことを否定して、訂正する意味があります。
一方、「改め」は前に言ったことを否定する意味はありません。
「もとい」の英語訳
「もとい」を英語に訳すと、以下のような表現になります。
- I mean, 〜.
(そうじゃなくて、~っていう意味) - correct
(訂正する) - or even better
(もっと良い) - or to put it better
(もっと良く言えば) - but
(ではなくて)
「もとい」のまとめ
以上、この記事では「もとい」について解説しました。
読み方 | もとい |
---|---|
意味 | 言い間違いを訂正する語 もとに戻すことを命令する語 |
語源 | 軍隊の号令から変化した説 元結の別名説 |
類義語 | AではなくB、AならぬB、AというよりBなど |
英語訳 | I mean, 〜.(そうじゃなくて、~っていう意味)、correct(訂正する)、or even better(もっと良い)など |
「もとい」は、言い間違いを訂正するだけではなく、皮肉やジョークとしてユニークな使い方もできる言葉です。
今度言い間違いをしたときには、「もとい」を使ってみてはいかがでしょうか。