今回ご紹介する言葉は、カタカナ語の「モラトリアム」です。
「モラトリアム」の意味・使い方・語源についてわかりやすく解説します。
「モラトリアム」とは?
「モラトリアム」の意味を詳しく
「モラトリアム」とは、社会的責任・義務が猶予されている青年の時期のことです。心理学者E.H.エリクソン(Erik Homburger Erikson)の提案した精神分析学の用語です。
また、以下のような意味もあります。
- 天災・恐慌・戦争などの非常事態の際に、債務の支払いを一定期間猶予すること
- 実施・実行を停止すること
「モラトリアム」は、元々は「天災・恐慌・戦争などの非常事態の際に、債務の支払いを一定期間猶予すること」という意味の経済用語でした。日本では、実際に1923年の関東大震災直後や、1927年の金融恐慌後に「モラトリアム」を実施しています。
また、1931年には、アメリカのフーバー大統領がフランス・イギリス等のヨーロッパ諸国に対し、第一次世界大戦による債務の支払いを1年間猶予する措置をとりました。このことを、フーバー・モラトリアムといいます。
また、「実施・実行を停止すること」という意味もあります。これは、主に核実験や戦争、死刑執行などに対して使います。
この経済用語としての意味が転じて、「社会的責任・義務が猶予されている青年の時期」という意味を持つようになりました。
この意味の「モラトリアム」は、簡単に言うと「青年が社会人になるために認められた見習い期間」のことです。
青年期になると、多くの人は身体的・知能的には大人と同等の能力を持ちます。しかし、親に育てられてきた「子供」から、自立して働く「大人」へ切り替わる時期であり、大きな人生の決断を迫られます。
「モラトリアム」は、そんな青年期の若者が、多様な経験を通じ、「自分がどのような人間なのか」「社会とどのように関わっていくのか」といったことを模索する時期であるといえます。
「モラトリアム」の青年は、自分を半人前であると自覚しています。それゆえ、自分を知った上で努力を重ね 、一人前の人間へと成長していきます。
一方、精神科医の小此木啓吾(おこのぎけいご)は、現代の若者の気質を表す新しい形の「モラトリアム」として「モラトリアム人間(moratorium personality)」という概念を提唱しました。
「モラトリアム人間」とは、社会人としての当事者意識がなく、大人社会に適応できない人間のことです。具体的には、大人になろうとしない人・大人になりたくないと思っている人のことを指します。
言い換えると、「モラトリアム人間」とは「大人になるための心理的葛藤や人生の選択を拒否し、逃げている若者」のことです。例としては、大学を卒業してもやりたいことが定まらず、親に金銭的に依存しながら好き勝手に生きている若者が挙げられます。
1978年に出版された小此木啓吾の著書『モラトリアム人間の時代』はベストセラーになり、「モラトリアム」という言葉が日本で広まるきっかけとなりました。
「モラトリアム人間」にあたる若者が出てきた背景には、さまざまな要因があります。代表的なものとしては、以下の3つが挙げられます。
- 急激な社会の変化
- 高学歴化
- 経済的余裕
現代に近づくにつれ、「急激な社会の変化」が起こりました。これにより、将来の選択肢は多様化し、選択が難しくなりました。
また、「高学歴化」によって、よい会社に就職するためには、高い学歴が求められるようになりました。すると、昔よりも多くの勉強をする必要があります。その結果、自分自身を見つめなおす時間がなくなり、「モラトリアム」が遅れるようになりました。
さらに、日本の暮らしは、高度経済成長により生活が豊かになり、「経済的余裕」ができました。そのため、生き抜くために、無理やり働く必要性がなくなりました。
「モラトリアム人間」の類義語・関連語
「モラトリアム人間」には以下のような類義語・関連語があります。
- ピーターパン症候群(Peter Pan Syndrome):年齢的には大人だが、精神的に成熟していない男性
- パラサイト・シングル(Parasite single):社会人になってからも、基本的な生活面で親に依存する未婚者
「モラトリアム」の使い方
- せっかくの大学生活だし、モラトリアムを満喫することにするよ。
- 大学卒業後、家に引きこもっていたら、父親から「モラトリアムもいい加減にしろ」と言われた。いい加減自分と向き合い、やりたいことを定めなければ。
- 会社勤めが辛い。自由にやりたいことをできた大学生のモラトリアムに戻りたい。
上の例文のように、大学生の時期を「モラトリアム」と位置づけることが多いです。
また、以下は「実施・実行を停止すること」という意味で「モラトリアム」を使用した例文です。
- 商業捕鯨を一時停止する商業捕鯨モラトリアムが採択された
- 国際的な批判を背景にし、核実験のモラトリアムが決定された
「モラトリアム法」とは?
2009年12月に、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」が施工されました。この法律は、多くの場合は略して「中小企業円滑化法」と呼ばれますが、別名「モラトリアム法」ともいいます。
この法律の目的は、リーマンショックで経営が悪化した中小企業や個人を救済することです。中小企業や個人が債務返済の猶予や軽減を求めた場合、金融機関はそれに応じるよう努めることが明記されています。
「モラトリアム」が「天災・恐慌・戦争などの非常事態の際に、債務の支払いを一定期間猶予すること」という意味で使われた一例です。
「モラトリアム」の語源
「モラトリアム」の語源はラテン語の “morari” です。“morari”には、「遅延する」という意味があります。
ちなみに、“morari” 「遅延」という意味のラテン語 “mora” から派生した表現です。
ちなみに、「モラトリアム」は「モラル」という言葉とは無関係です。
まとめ
以上、この記事では「モラトリアム」について解説しました。
英語表記 | モラトリアム(moratorium) |
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意味 | 社会的責任・義務が猶予されている青年の時期 |
語源 | ラテン語の “morari” |
「モラトリアム」は、「大人への猶予期間」という意味は比較的知られています。しかし、元は「債務の支払いを一定期間猶予すること」という経済用語であったということは知らない人も多いのではないでしょうか。
両方の意味をあわせて覚えておきましょう。