食品、出版社、コンビニエンスストア、車。身の回りにある物のほとんどは、何らかの会社によって作られています。おそらく、その中には電車の広告やテレビのコマーシャルで目にする大企業もあるでしょうし、あまり名の知られていない中小企業もあるでしょう。
私たちが知っている会社の多くは「株式会社」という種類の会社です。しかし、他にも「合同会社」や「有限会社」と言った言葉もあり、「株式会社」以外にも会社はあります。
今回は、「合同会社」「株式会社」「有限会社」の3つを解説していきます。将来起業したい人、就職活動で企業研究をする人は必見です。
☆「合同会社」「株式会社」「有限会社」の違いをざっくり言うと……
合同会社 | 株式会社 | 特例有限会社 | |
---|---|---|---|
会社類型 | 持分会社 | 株式会社 | 株式会社 |
出資者 | 株主 | 社員 | 社員 |
必要出資者 | 1 | 1 | 1 |
社員の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任 |
決算公告 | 必要 | 不要 | 不要 |
意思決定 | 株主総会 | 社員全員の同意 | 株主総会 |
設立金 | 約10万円 | 約24万円 | 設立不可 |
取締役任期 | なし | あり | なし |
結論:「合同会社」は出資者が経営。「有限会社」は「株式会社」と合体。
「株式会社」は、会社が株式を発行し、広く資金を募ることができる会社形態です。
「有限会社」は、2005年の会社法制定時に廃止となりました。小規模・閉鎖的な経営に適していました。
現在認められている会社
会社法は、平成17年に成立した法律です。それ以前の会社のルールは商法に定められていたため、商法から独立した形となりました。
現在の会社法では、4つの種類の会社を認めています。「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」です。「合名会社」「合資会社」「合同会社」は、「持分(もちぶん)会社」というグループになります。
会社法において、会社の出資者のことを社員といいます。ここでいう社員とは、会社で働く従業員のことではありません。「株式会社」の社員の地位のことを「株式」といい、株を所有する人のことを「株主」といいます。「持分会社」の社員の地位のことを「持分」といいます。
「株式会社」の特徴は、出資者である株主と経営者が基本的に一致しないことです。このことを「所有と経営の分離」といいます。ただし、株主が経営にまわることもあり得るので、出資者と経営者が一致することも考えられます。
「持分会社」は、会社の出資者が自ら会社を運営しており、「所有と経営の分離」はありません。この点で「株式会社」とは対照的であるといえます。
「有限会社」は、現在では「特例有限会社」となり残っていますが、これは「株式会社」の1種であるとされています。
下の表は、「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」の関係をまとめたものです。()内にあるのは、会社法の根拠条文です。
株式会社 | 合名会社 | 合資会社 | 合同会社 |
---|---|---|---|
株式会社 | 持分会社(575条1項) | ||
有限責任(104条) | 無限責任(576条2項・580条1項) | 無限責任/有限責任(576条3項・580条) | 有限責任(576条4項・580条) |
会社法6条2項により、会社はそれぞれの商号(会社名)に「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」のうち該当するものを使用しなければなりません。つまり、必ず正式な会社名には、この4つのどれかが入ることになります。
株式会社の社員は株主となります。「有限責任」「無限責任」とは、会社が事業破綻・倒産した際、社員がどれだけ責任を負うか、という点に違いがあります。
「有限責任」では、社員はあらかじめ設定された出資金額の範囲において責任を負います。例えば株式会社であれば、株主は株式の値段が下落した分だけ損をし、責任を負います。100万円の株式を持っていたとすれば、会社の負債に関わらず100万円以上の損害が出ることはありません。
一方「無限責任」では、社員は持分会社の債務を弁済する責任を負います。つまり、返しきれなくなった会社の借金を社員で分配し、それぞれが抱えることになります。「合資会社」は、「有限責任」の社員と「無限責任」の社員が混在する会社形態です。
「合同会社」をもっと詳しく
「合同会社」は、2005年の会社法成立時に新しく認められた会社です。「持分会社」の一種であり、社員全員が有限責任を負います。社員は基本的に自ら会社を運営します。
「合同会社」は「有限責任」であるため、同じ「持分会社」でも、「無限責任」の「合名会社」に比べると、個人で多額の債務を負うリスクが少ないです。
設立のためには1人以上いればよく、必要な資本金は1円以上です。設立費用は10万円程度です。また、経営に携わる役員の任期はありません。
会社は、1年に1回は、一定期間の収入や支出、利益などをまとめる義務があります。「株式会社」はさらにそれを公表する義務がありますが、「合同会社」はそれがありません。そのため公表するための経費を「株式会社」よりも削減することができます。
以上のような手軽さから、「合同会社」は導入後、年々数を増やしています。
「合同会社」に利益が出た場合、配当の割合は出資金額に関係なく定めることができます。配当に関する事項は定款(ていかん 会社の組織・活動に関する規則)に定められます。定款には、社員の名前や責任の性質(有限責任か無限責任か)、出資等について記載されます。
そのため、社員の持分を他人に譲渡する場合などには、定款の変更が必要になりあす。定款の変更のためには、社員全員の承諾が必要です。
自由に持分を譲渡できない代わりに、社員は事業年度の終わりに退社することができます。その場合、退社する社員は持分の払戻しを金銭で受けることができます。払戻し額の計算は、退社時の会社の財産状況に応じて決まります。
しかし、退社した社員はそれ以前に生じた会社の債務について、自分の範囲内で責任を負います。つまり、退社後は会社との関係がスッパリ切れるわけではなく、会社の債務に責任を持ち続けることになります。
一方、現在主流な会社は「株式会社」であるため、信用は比較的得づらいかもしれません。また、株式公開をすることができないため、資金を集めて事業を拡大していく、という点においては「株式会社」に劣ります。
「株式会社」をもっと詳しく
株式を発行し、資金を集め、利益を株主に分配する形態の会社のことを「株式会社」といいます。現在日本で最も多い会社です。社員、すなわち株主は出資した額に限り責任を持つ「有限責任」となります。
設立に必要な人数は一人以上で、1円の資本金から設立することができます。設立にかかる費用は24万程度です。
役員には任期があり、取締役2年、監査役4年です。しかし、定款により10年まで延長することができます。
「株式会社」の特徴は、出資者である株主と経営者が基本的に一致しないことです。このことを「所有と経営の分離」といいます。しかし、小規模の株式会社の場合、経営者が株式の大半を持っている場合も多いです。
株主は自分の持つ株式を譲渡することができます。これは、「株式会社」における株主が、「合同会社」の出資者のように直接の経営権を持つことが無いため、誰であろうと問題がないからであるといえます。
株式の投資家はこの性質を利用し、株式市場で株式を頻繁に取引します。その代わり、「持分会社」のように、退社し、払戻しを受けることはできません。
定款の変更については、株主総会の決議で行うことができます。通常の決議は過半数の賛成により可決されますが、定款の変更など、会社法309条で特別に定められた内容については3分の2以上の賛成が必要になります。
基本的に株式は自由に譲渡することができますが、「株式会社」が株式に譲渡制限をかけることもできます。譲渡制限とは、「株式会社」の承認がなければ株式を取得することができない状態のことです。
例えば、会社はA株、B株、C株のように複数の種類の株式を発行することがあります。この場合の各株式を「種類株式」といいます。通常「種類株式」は配当金や議決権などの条件が異なります。
このような場合に、会社はA株・B株・C株すべてに譲渡制限をかけることもができます。また、A株だけに譲渡制限をかけることもできます。
全ての株式を公開し、自由に譲渡できる会社、あるいは一部の株式の身に制限をかけている「株式会社」のことを「公開会社」といいます。一方、全ての株式に制限をかけている会社を「非公開会社」といいます。
「公開会社」であれば取締役会の設置が義務付けられています。取締役会であるためには、3人以上の取締役が必要です。一方「非公開会社」であれば、取締役会の設置義務はなく、取締役は1人以上となります。
「株式会社」は、社会的認知度を高めつつ、多くの資金を集めることにメリットがあります。最もポピュラーな形態の会社であるため、信用も得やすいといえます。
「有限会社」をもっと詳しく
「有限会社」は、1938年に制定された有限会社法で初めて導入されました。有限会社法は、ドイツ法を参考に作られました。大規模で積極的に事業を拡大していくのに適した「株式会社」に対し、「有限責任」でありながら小規模・閉鎖的な点に特徴がありました。
しかし、株式会社でも小規模・閉鎖的な経営は可能であることから、「有限責任」という点で共通していた両者を合体させる方針となりました。そして2005年の会社法制定後、会社の類型の中から「有限会社」がなくなりました。2006年には有限会社法が廃止となりました。
「有限会社」の制度が廃止になったことによる対処は、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」に定められています。それまであった「有限会社」は、特別な手続きなしに「株式会社」の中の「特例有限会社」として存続することになりました。
一方「有限会社」を通常の「株式会社」に切り替えることもできます。具体的には、商号を「有限会社」から「株式会社」へ変更した上で登記手続きを行い、定款の一部を変更することで「株式会社」になることができます。
「有限会社」の廃止前の最低資本金は300万円で、取締役の任期はありませんでした。また、決算を公表する義務もありませんでした。
「有限会社」制度が廃止になったことで、現在は新しく「有限会社」を設立することはできません。しかし、既にある「有限会社」で、廃業した会社を買い取ることで、実質的に新しく「有限会社」を始めることは可能です。
まとめ
以上、この記事では、「合同会社」「株式会社」「有限会社」の違いについて解説しました。
- 合同会社:出資者が経営する「持分会社」の1つ
- 株式会社:株式を発行して資金を集め、事業を展開する会社
- 有限会社:会社法制定により、「株式会社」と統合された会社
以上のことを表にすると、このようになります。
合同会社 | 株式会社 | 特例有限会社 | |
---|---|---|---|
会社類型 | 持分会社 | 株式会社 | 株式会社 |
出資者 | 株主 | 社員 | 社員 |
必要出資者 | 1 | 1 | 1 |
社員の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任 |
決算公告 | 必要 | 不要 | 不要 |
意思決定 | 株主総会 | 社員全員の同意 | 株主総会 |
設立金 | 約10万円 | 約24万円 | 設立不可 |
取締役任期 | なし | あり | なし |
これらの会社の設立・運営等に関する詳細な規定は、会社法に規定されています。正直ややこしい部分も多いですが、起業する上では、それぞれの会社のメリット・デメリットを知っておく必要があるでしょう。
特に、「合同会社」は導入後急激に数を増やしている会社形態です。今でこそ知名度は低いですが、今後より一層注目が集まると思います。名前だけでもしっかりと確認しておきましょう。