「姓」と「苗字」と「名字」の違いとは?言葉の由来まで解説

違いのギモン

日本人なら誰でも「名字」を持っていると思います。みなさんの中にも、友達のことを「名字」で呼ぶ人が多くいるのではないでしょうか。

ところで、「名字」と似た表現として、「苗字」や「姓」などがありますよね。

この3つの言葉の違いは何なのでしょうか。意外と答えられない、という人も多いと思います。

そこで、今回は「姓」と「苗字」と「名字」の違いについて解説していきたいと思います。

結論:由来が違う

「姓」と「苗字」と「名字」では、由来が違います。

まず、「姓」とはもともとは天皇から与えられる世襲官職の名称でした。

次に、「苗字」は血族や血統に由来する家の名前のことです。

そして、「名字」は地域や所有地に由来する家の名前のことです。

ちなみに、現在ではこの3つの言葉に使い分けはありません

「姓」の詳細

姓とは天皇から与えられる世襲官職の名称のことです。そして、現在では一族や血族、家族に固有の名前を表しているため、名字や苗字と違いはありません。

ちなみに「姓」という漢字は今でこそ「せい」と読まれていますが、昔は「かばね」と読まれていました。

そんな「姓」の由来は大昔までさかのぼります。

 

もともと、日本では同じ祖先の人たちが集まって生活をしていました。これは親族集団と呼ばれ、親族集団のことを昔の日本では「氏」と呼んでいました。

そんな中、だんだん朝廷が力をつけてきて、氏族を支配するようになりました。

すると、氏族たちは天皇に仕えて朝廷の役職をもらい、身分の安定を図るようになりました。

そして、氏族の朝廷での位を表していたのが「姓(かばね)」です。これは天皇から与えられたものであるため、もちろん勝手に変更することはできませんでした。

 

ちなみに、「姓(かばね)」は階級が高いほうから公(きみ)、君(きみ)、臣(おみ)、連(むらじ)、直(あたい)、造(みやつこ)、首(おびと)、史(ふひと)、薬師(くすし)などです。

このほかにも1000種ほどの「姓(かばね)」がありました。そして、その中には制度改正などによりなくなってしまったものも多くあります。

 

ちなみに「かばね」という言葉の語源には諸説あります。

1説によると、女性の皮と男性の骨から生まれたという意味の「皮骨(かわぼね)」という言葉を縮めたのが「かばね」だと言われています。

「苗字」の詳細

苗字とは血族や血統に由来する家の名前のことです。

 

この言葉は江戸時代に入ってから使われるようになりました。

「苗」は子孫や末裔(まつえい)という意味ですが、この漢字はもともと中国の古典で使われている「苗裔(みょうえい)」という言葉から取られました。

苗裔とは遠い血統の子孫という意味です。

このことから、家の血統が代々続くようにという意味をこめてこの字が使われるようになったとも言われています。

 

そして、「苗字」という熟語は生まれてから現代まで広く使われていましたが、戦後になって当用漢字(※1)の「苗」の読みに「みょう」が加えられなかったことから徐々にすたれていきました。

最近ではあまり使われなくなった表現です。

また、個人的な文章などで用いるには問題ありませんが、当用漢字の読み方ではないため、公文書や教科書などでは用いることができません。

  • 当用漢字(※1):「当用漢字表」に記載された1850の日常的によく使われる漢字のこと。

「名字」の詳細

名字とは地域や所有地に由来する家の名前のことです。ちなみに、名字の9割は地名が由来だと言われています。

 

その歴史は長く、「名字」という言葉は平安時代から使われるようになりました。

その原因は、「姓」1つあたりの人口が増えすぎてしまったことにあります。「姓」は上でも解説した通り、氏族の位の違いで名づけられましたが、これが増えすぎてしまったため、「姓」だけでは個人の判別をすることが難しくなってしまったのです。

そのため、「名字」は同じ「姓」の人と人を呼びわけるための通り名として生まれました。

例えば、藤原という姓が当時は多くいたのですが、伊賀に住んでいる藤原さんは略して伊藤と呼ばれるようになりました。

 

これと同時に、このころ、土地を所有していた武士が土地を私物化するようになりました。そして、その土地は「名田(みょうでん)」と呼ばれるようになりました。そして、ものを指す名前のことを当時は「字(あざな)」と呼んでいましたが、武士は名田を指すための字を作るようになりました。

そう、名田の字を略した熟語が「名字」なのです。

ちなみに、大名とは、大きな名田を持っている人という意味です。

 

そして、その後、武士が台頭してくる時代になると、自分の領地を明らかにするために領地の字を名字として名乗るようになりました。ちなみに、名字が広まったのは、姓が天皇から与えられたものであり変更できないのに対して、名字は自分で名乗ることができるからです。

そして、分家して新たに地名を名字にしたり、土地を開拓して土地の名前をつけたりして名字は増えていきました。

しかし、徐々に増えていっていた名字は明治時代に入ると爆発的に増えることになります。

 

明治になると戸籍を整備する必要がでてきて、国民全員が名字を持つようになったのです。

特に、これまで平民には名字がないのが一般的で、名字を名乗ってはいけないと言われていた時代すらもありましたが、1875年2月13日に平民苗字必称義務例が発令され、平民でも名字を持つことが義務付けられるようになります。

すると、急に名字を決めなくてはいけなくなった平民は困ってしまい、周囲の寺に行って決めてもらおうとしました。

このことから寺には名字を決める依頼が殺到し、1件1件丁寧に処理しているととても追いつかないため、寺は適当に多くの新しい名字を生み出してしまったのです。

ちなみに、平民苗字必称義務例が発令された日にちなんで、2月13日は名字の日とされています。

まとめ

以上、この記事では、「姓」と「苗字」と「名字」の違いについて解説しました。

  • :もともとは天皇から与えられる世襲官職の名称
  • 苗字:血族や血統に由来する家の名前のこと
  • 名字:地域や所有地に由来する家の名前のこと

このように、由来には違いがある「姓」と「苗字」と「名字」ですが、現在での使われ方に違いはありません。この記事の知識は雑学程度に覚えておくので十分でしょう。

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和佐 崇史
文章を書くこと、読むことが大好きな大学生です。中学2年生で漢検2級を取得するなど、言葉については詳しい自信があります。Webライターとしてはこれまで累計1,000記事以上を執筆してきました。