今回ご紹介する言葉は、熟語の「確信犯(かくしんはん)」です。
言葉の意味・使い方・類義語・対義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「確信犯」をざっくり言うと……
読み方 | 確信犯(かくしんはん) |
---|---|
意味 | 宗教的や思想的な理由から、本人が「悪いことではない」と確信して行う犯罪 |
類義語 | 思想犯、政治犯、故意犯など |
対義語 | 愉快犯、過失犯 |
英語訳 | crime of conscience(道義心に基づく犯罪) |
「確信犯」の意味をスッキリ理解!
「確信犯」の意味を詳しく
「確信犯」とは、本人が「悪いことではない」と確信して行う犯罪のことです。主に、法的には悪事である行為について、宗教的や思想的な理由により正当化している場合に使われます。
「本人が悪いことだと自覚しながら、わざと行われる悪事」という意味で使われる場合がありますが、これは誤用です。
ただし、平成14年度と平成27年度に文化庁が行った「国語に関する世論調査」では、誤用の意味で使う人が圧倒的に多いという結果が得られています。
誤用とされてきた意味が一般化してきていることもあり、「悪いことだと自覚して悪事を行うこと」を新たな意味として正しいものとする国語辞書もあります。
「国語に関する世論調査」による「確信犯」の定義
「国語に関する世論調査」とは、日本人が持つ国語に関する意識や、理解の現状について調査をしたものです。文化庁が平成7年度から年に一回実施しているものになり、国語に関する施策の立案に役立てられます。
また、国語に対する国民の意識を高める目的もあります。
「確信犯」がどのような意味で使用されているのか、ということについては、平成14年度と平成27年度の二回調査されています。
調査の結果は以下の通りです。
意味 | 平成14年度 | 平成27年度 |
---|---|---|
①政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 | 16.4% | 17.0% |
②悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 | 57.6% | 69.4% |
①と②の両方の意味がある | 3.9% | 5.1% |
①と②のどちらでもない | 3.3% | 2.7% |
わからない | 18.8% | 5.7% |
①の意味が本来の使い方になりますが、どちらの年も、①②両方の意味で使う人を含め約二割に留まっています。
一方で、誤用とされた②の使い方のみで使う人は、平成14年度には約六割、平成27年度には約七割に上っています。
平成14年度と平成27年度を比較すると、①の意味で使う人の割合も微増していますが、それ以上に②の意味で使う人の割合が増えています。また、高齢になるほど①の意味で使う人が多いことも明らかになっています。
このことから、もともと正しい意味で使っていた層が誤用の意味で使うようになったのではなく、誤用の②の意味がより浸透してきたのだとわかります。
年月を経て誤用が一般化した結果、誤用が正しい意味として採用されるようになる場合もあります。②の意味は、誤用から正しい意味に変わる過渡期にある可能性があるのです。
「確信犯」の使い方
- 自爆したA教徒のテロリストがいたが、きっと確信犯だったのだろう。
- 彼は現在の政治のあり方に武力で対抗しようとしており、完全に確信犯であった。
- 黒板消しが落ちてくるように仕掛けをしたなんて、確信犯以外の何者でもないでしょう。
上記の例文のように、「確信犯」は、犯罪や悪事がどのような動機であったかを説明する場面で使われます。
①の例文では、「自爆したA教徒のテロリスト」という表現から、「自爆」が「宗教的には正しいことだと本人が信じているが、法的には犯罪であること」であったとわかります。
②の例文では、政治的な信念に基づいて「確信犯」が行われていることがわかります。「武力で対抗する」という行為は犯罪ですが、そもそも世の中の仕組み自体に疑いを持っている「彼」にとっては、悪いことではない行為になってしまいます。
これらは、「確信犯」を本来の意味である、「本人が悪いことだと思わずに犯す行為」という意味で使った例文です。
一方、③の例文では、「確信犯」をもう一方の意味で使っています。
例文のような仕掛けは、特に宗教的・政治的信念とは関係なく行われるいたずらです。そのため、仕掛けた本人が悪いことであると自覚して行ったのは明らかです。
この「確信犯」は、一般的に意味は通じますが、正しい使い方であるかは意見が分かれる表現です。フォーマルな場では使わない方がよいでしょう。
「確信犯」の類義語
確信犯には以下のような類義語があります。
- 思想犯:国家体制に反発する思想に基づく犯罪
- 政治犯:政治的な動機に基づいて犯される罪
- 国事犯:国家の政治的な秩序を乱す罪
- 故意犯:故意に起こした犯罪
「思想犯」「政治犯」「国事犯」はどれも、国家の政治体制を侵害する犯罪のことです。これらは、「確信犯」の「本人が正しいと確信して行う犯罪」という意味の類義語です。
「思想犯」とは、国家体制と相容れない思想に基づく犯罪です。もともとは、特に「治安維持法」に違反する行為のことを指していました。
- 治安維持法:国体の変革や、私有財産制度の否認を目的とする結社などの処罰を目的とした法律
「治安維持法」は1925年に制定され、1945年に廃止されました。
制定当時は、日ソ基本条約の締結が背景にあり、共産主義の国家体制を敷いていたソ連の影響が強くなった時代でした。「治安維持法」は、特に共産主義思想の弾圧を目的に乱用され、思想の弾圧につながりました。
「国体」とは、この場合には制定当時の天皇制のことを指します。
天皇制や私有財産制度を廃止しようとしたり、変えようとしたりした場合に、処罰の対象となるのが「治安維持法」だったのです。
「政治犯」は政治的な動機に基づいて犯される罪のことです。
「国事犯」は特に、国家転覆を謀る内乱罪や、政治的な秩序を乱す騒乱罪などの政治犯の総称です。
「思想犯」「政治犯」「国事犯」は政治的な側面に限定した犯罪です。一方で、「確信犯」は政治的思想だけでなく、宗教や信条に従っている場合も含まれます。
「確信犯」の「悪いことだと自覚して行った犯罪」という意味での類義語には、「故意犯」というものがあります。
「故意犯」は、故意に行ったことが条件となる犯罪のことです。
犯罪には、故意に行った結果の罪である「故意犯」と、過失によって結果的に犯罪となってしまった「過失犯」の二種類があります。
罪に問われるという事実を認識しており、行為の結果起こることを意図していたり認容したりしている場合、「故意犯」となります。殺人や窃盗などがこれに該当します。
- 故意:わざと行うこと
「故意」とは、どのような結果になるかを理解したうえで、わざと行為に及ぶことです。
一般に、悪いことを悪いことだとわかっていながら行う場合を指します。
「確信犯」の対義語
確信犯には以下のような対義語があります。
- 愉快犯:快感を得るために、世間を騒がせて起こした犯罪
- 過失犯:過失によって起こった犯罪
「愉快犯」とは、注目されて快感を得る目的で、世間を騒がせる犯罪を犯すことです。
「確信犯」のもともとの意味に対応します。
一方、「悪いことだと自覚して行った犯罪」という意味に対応する対義語には、「過失犯」が該当します。
罪を犯してしまった本人が、その結果を意図していなかった場合には、「過失犯」になります。
たとえば、本人に殺人の意思がなかったのにもかかわらず結果的に人を死なせてしまった場合には、「過失致死罪」に問われます。一方、最初から殺すつもりで殺人を行った場合には「殺人罪」に問われます。
「過失致死罪」は「過失犯」、「殺人罪」は「故意犯」になるのです。
- 過失:不注意が原因で起こった過ち
「過失」とは、不注意が原因で過ちを犯すことです。
刑法上は、不注意によって、加害者本人が犯罪の発生を防ぐことができなかった場合を指します。
「確信犯」の英語訳
確信犯を英語に訳すと、次のような表現になります。
- crime of conscience
(道義心に基づく犯罪)
conscienceとは「良心」「道義心」という意味の英単語です。「確信犯」は、本人にとっての道義心に基づいた犯罪であるためconscienceが使われます。
「犯罪」という意味のcrimeをconscienceで修飾することにより、ただに犯罪ではなく「確信犯」であるというニュアンスが伝わるようになります。
「罪」という意味の英単語にはsinもありますが、こちらは宗教上や道徳上の罪の意味です。そのため、「確信犯」と表現したい場合にはcrimeと置き換えることができないので注意しましょう。
まとめ
以上、この記事では「確信犯」について解説しました。
読み方 | 確信犯(かくしんはん) |
---|---|
意味 | 宗教的や思想的な理由から、本人が「悪いことではない」と確信して行う犯罪 |
類義語 | 思想犯、政治犯、故意犯など |
対義語 | 愉快犯、過失犯 |
英語訳 | crime of conscience(道義心に基づく犯罪) |
誤用の意味が一般化した言葉ではありますが、本来の意味で使われることもあります。しっかりと正しい意味も押さえるようにしましょう。