「傷害」と「過失傷害」の違いとは?法律用語をわかりやすく解説

違いのギモン

刑法に規定されている犯罪の中には、「傷害」と「過失傷害」があります。どちらも同じ「傷害」に関する罪ですが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。

今回は、いつかあなたも関係するかもしれない、「傷害」と「過失傷害」の違いを解説していきます。

結論:「過失傷害」は、悪気がない「傷害」

「傷害」とは、相手を傷つける意図をもって、相手を傷つけることです。

一方、「過失傷害」とは、自分の落ち度により、相手を傷つけることです。

「傷害」の罪は刑法204条、「過失傷害」の罪は刑法209条に規定されています。

そもそも刑法は何のためにあるのか?

刑法は、国家による刑罰の対象となる行為をまとめたものです。国家による刑罰の存在意義としては、基本的に2つの考え方があります。1つが過去の行為に対する仕返し、もう1つが未来の犯罪予防です。

一般的に、刑法の役割は後者であると考えられています。なぜなら、凶悪な連続殺人犯に仕返しとして死刑を執行したところで、死んでしまった人は戻ってこないからです。過去の行為に対する仕返しをしたところで、社会的に利益はありません。

それよりも殺人犯に相当の刑罰を与え、未来の犯罪者予備軍の人を思いとどまらせる方が、将来被害者を救うという点において公益的に意味があります。

 

そのため、刑法は、未来の犯罪予防という考え方を軸にして構成されています。

刑法における刑罰の重さに、「故意」と「過失」という個人の内面的な要素が深くかかわっているのはこのことが関係しています。

 

つまり、未来の予防とは、どこかにいるであろう「犯罪行為をしてやろう」と思っている人を思いとどまらせることになります。そのため、刑法は、「犯罪をしてやろう」という故意を持って行った犯罪を重く処罰します。

一方、「過失」は人間である以上どうしようもない側面があるため、比較的軽く処罰します。

「傷害」をもっと詳しく

「傷害」とは、人を傷つけ、怪我をさせることです。

傷害罪は、刑法204条に規定されています。「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」という条文です。この場合の「傷害」は、「傷害しよう」という意思をもってした傷害行為、つまり故意によるものに限定されます。

傷害罪の典型的な事例としては、暴力によって相手に身体的な「傷害」を与えることがあります。しかし、身体的な外傷がなくても、精神的なストレスがあれば傷害罪が適用される可能性があります。具体的には、次のようなケースで傷害罪が認められた判例があります。

  • いやがらせ電話により精神的ストレスを与える
  • 性病を隠し、相手に感染させる
  • キスマークをつける

つまり、人の生理的機能に、意図的に何らかの害を与えた場合に傷害罪が適用されます。

似ている罪として、刑法208条の暴行罪があります。「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」という条文です。

傷害罪と暴行罪の違いは、暴行を加えた結果、相手が怪我をするか否かです。つまり、同じように相手を殴ったといても、相手が無傷の場合は暴行罪、相手が怪我をした場合は傷害罪になります。

 

基本的に204条の傷害罪が認められるためには、故意が必要です。しかし、暴行の故意はあったものの、傷害の故意はなく、結果的に傷害罪と同じような状況になった場合は、204条の傷害罪が成立します。

このように、ある犯罪行為の結果、予想を超える重い罪を犯してしまった場合、重い罪の方が成立することがあります。これを結果的加重犯(けっかてきかちょうはん)といいます。

 

結果的加重犯の他の例としては、刑法210条の傷害致死罪があります。これは、人を傷つける意図をもって、傷害行為をした結果、思いがけず相手が死亡してしまった場合に適用される罪です。

つまり、友達の背中をふざけて押したところ(暴行の意思あり)、友達が予想以上に体制を崩し、その結果崖から転落し、死亡したというケースがあったとします。

この場合、加害者が当初予定していたのは、軽い暴行罪でしたが、そこから二重の結果的加重犯が重なった結果、過失致死罪となってしまします。

「過失傷害」をもっと詳しく

「過失傷害」とは、過失による「傷害」のことです。つまり、相手に「傷害」を与える意図がなかったものの、自分の落ち度により、結果的に「傷害」を与えてしまうことです。刑法209条に規定されています。

条文は、「過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。」というものです。通常の傷害罪である刑法204条と比較すると、刑罰が非常に軽いです。

 

過失とは、自分の落ち度のことです。客観的に見て、「傷害」となる結果がある程度予見することができ、それを避けることができたと判断される場合に「過失傷害」となります。

例えば、なんとなく窓の外に石を投げ、それが偶然道を歩いていた人の頭に当たり、怪我をした場合、「過失傷害」となります。

ちなみに暴行罪には過失による罪はありません。つまり、「殴るつもりはなかったのに、間違って殴ってしまった」という場合、相手が怪我をしなければ無罪となります。

まとめ

以上、この記事では、「傷害」と「過失傷害」の違いについて解説しました。

  • 傷害:相手を傷つける意図をもって、相手を傷つけること
  • 過失傷害:うっかり相手を傷つけること

人間であれば、誰しもカッとなって手をあげてしまうこともあるでしょう。あるいは、ふと気が抜けて、不注意な行動をとってしまうこともあるでしょう。

「傷害」も「過失傷害」も、刑法の中では、かなり起こる頻度が高い犯罪です。万が一罪に問われることもあるかもしれないので、しっかり覚えておきましょう。