「今しがた」とは「つい先ほど」という意味です。
「今しがた」は芥川龍之介の小説『羅生門』にも登場する言葉です。
古めかしい響きであるため、「今は使わないのだろう」と誤解している方が多いのではないでしょうか。
しかし、実は「今しがた」は現代でもよく使う言葉なのです。
そこで、この記事では、「今しがた」の意味や使い方、由来などについて解説します。
☆「今しがた」をざっくり言うと……
読み方 | 今しがた(いましがた) |
---|---|
意味 | つい先ほど |
由来 | 日本古来の大和言葉 |
類義語 | 先ほど 先刻 さっき など |
対義語 | 後ほど 後刻 |
英語訳 | just now (つい先ほど) just a few moments ago (つい先ほど) |
このページの目次
「今しがた」の意味
つい先ほど
例:今しがたお電話いたしました、鈴木と申します。
「今しがた」とは、「つい先ほど」という意味です。
一定の時間が経った場合ではなく、ちょうど今終わったことに対して使います。
少し堅い印象であるため、あらたまった場面や、ビジネスシーンなどでよく使われます。
なお、「今しがた」を方言だと誤解する方が多いですが、方言ではありません。
「今しがた」の表記
「今しがた」は、下記のように表記することもあります。
- 今し方
- いましがた
しかし、「今しがた」と書くのが一般的です。
「今しがた」の使い方
「今しがた」は敬語と一緒に使われることが多いです。
また、あらたまった場面や、ビジネスシーンでよく使われます。
例文を見てみましょう。
- 今しがたお電話いたしました、鈴木と申します。
- 取引先から、今しがた連絡が届きました。
- 申し訳ありません、今しがたお伝えいただいた電話番号を、再度復唱してくださいますか。
- Aさんには、今しがた、メールを送信したばかりです。
- 今しがた飲んだばかりの薬が、すでに効いてきたようです。
- 今しがた資料を拝見しました。すぐに折り返しお電話します。
- つい今しがた、田中先生にお目にかかりました。
- つい今しがた、訪問先に到着したところです。
- 今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。
[出典:芥川龍之介『羅生門』]
「今しがた」は、例文⑦⑧のように、「つい今しがた」という言い回しで使うこともあります。
「つい今しがた」は、「今しがた」をさらに強調したかたちであるため、かなり直近の出来事に対して使います。
この場合の「つい」には、「時間・距離がごくわずかである」という意味があります。
「今しがた」を使う際には、以下のような点に気をつけましょう。
- 「今しがた」自体は敬語ではない
- 時間がかなり経過した場面では使えない
「今しがた」の由来
「今しがた」は、大和言葉として使われてきた言葉です。
大和言葉とは、「古くから使われている、日本固有の言葉遣い」です。
つまり、「今しがた」は古くから存在する言葉ですが、現代においても問題なく使うことができます。
日本的な、趣のある柔らかい印象を出すことができますが、一方で古めかしく堅い印象になる場合もあります。
そのため、現代において「今しがた」は、あらたまったシーンで用いることが多いのです。
「今しがた」の成り立ち
「今しがた」は、「今し」と「がた」の2語から成り立ってします。
それぞれ以下のような意味があります。
- 今し
現在を表す「今」+強調助詞の「し」 - がた(方)
時間帯
つまり、「今しがた」は、「ごく近い過去の時間帯」ということを表しているのです。
ここからは、「今し」と「がた」の意味について、詳しく解説します。
「今し」の意味
「今し」をさらに細かく分解すると、次のような構造になります。
- 今:現在
- し:強調を表す助詞
つまり、「今し」は、「ちょうど今」ということを表しているのです。
ちなみに、「今」はもともと「集める」という意味を表す漢字でしたが、次第に時間を表す言葉に変化していきました。
「がた」の意味
「がた」は、漢字の「方」をひらがなにしたかたちです。
この場合の「方」は、地理的な報告ではなく、時間の方向(=時間帯)を表しています。
「夕方」「明け方」などの「方」と同じ用法です。
ちなみに、「方」は以下のような経緯で「方向」という意味に変化していった漢字です。
↓
農作業ではたくさんの人が並んで働くため、「並ぶ」という意味で使われるようになる
↓
「並ぶ」という意味から派生して、「方向」「行き先」といった意味に変化
大和言葉に「大和」という名前がついているのは、飛鳥時代の大和国での言葉が中心となっているからです。
平安時代の『源氏物語』ではすでに、「やまとことのは」という表記で「大和言葉」について言及されています。
なお、大和言葉については文字の記録が残っていないため、それぞれの言葉の詳細な語源は不明です。
「今しがた」の類義語
「今しがた」には以下のような類義語があります。
- 先ほど
少し前
例:先ほどご連絡いただいた者です。
※漢字で「先程」と書くこともある - 先刻(せんこく)
少し前
例:先刻からお客様がお待ちです。 - さっき
少し前
例:さっき、先輩とばったり会ったよ。
※「先ほど」などよりもカジュアル - たった今
ちょうど今
例:たった今、自宅を出発した。 - 今ほど
つい先ほど
例:Aさんは、今ほどお帰りになりました。 - ちょうど〜したばかり
ちょうど先ほど〜した
例:ちょうど母に電話したばかりだ。
※「ちょうど」は漢字で「丁度」と書くこともある - ちょうど〜したところ
ちょうど先ほど〜した
例:部長をちょうどお見送りしたところです。 - 最前(さいぜん)
つい先ほど
例:この件について最前もご説明しましたが、もう一度繰り返します。
※ただし、「最前」は「列などの一番前に位置している」という意味で使うことの方が多い
これらの類義語はすべて、ほんの少し前の時間に起きたことに対して使います。
特に「今しがた」は、上記の類義語よりも、今にかなり近い出来事について用います。
「今しがた」の対義語
「今しがた」には以下のような対義語があります。
- 後ほど(のちほど)
少しあとで - 後刻(ごごく)
しばらく時間のたったあと
「今しがた」が「つい先ほど」という “近い過去” を表すのに対して、上記の二語は「少し後で」という “近い未来” を表しています。
「今しがた」の英語訳
「今しがた」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- just now
(つい先ほど)
例:She just now came here.
(彼女はついさっき来たところだ。) - just a few moments ago
(つい先ほど)
例:Mr.Bailey called me just a few minutes ago.
(つい先ほど、ベイリーさんから電話がありました。)
補足:その他の大和言葉
「今しがた」は日本古来の「大和言葉」であることを解説しました。
この見出しでは、「今しがた」と同様、大和言葉でありながら、現在でもビジネスシーンなどでよく使われる言葉を紹介します。
参考までにおさえておきましょう。
- 恐れ入る
恐縮だ、助かった
例:恐れ入りますが、私はこちらで失礼いたします。 - 折り合い
妥協点や頃合い
例:今回はどうにも折り合いがつかず、申し訳ありません。 - いたく
すごく、とても
例:今日はお客様の〇〇さまからいたく感謝され、私まで嬉しい気持ちになりました。 - このうえなく
すごく、とても
例:このうえなく素晴らしい案だと思います。 - つまるところ
結局は、つまり
例:つまるところ、新しい求人はしばらく出さないということです。 - 思いのほか
自分が思っていた以上に
例:思いのほか予算が膨らんでしまいました。 - おおむね
だいたい
例:お客様へのご説明は、おおむね完了しています。 - 幾久しく(いくひさしく)
いつまでもながく
例:息子を幾久しくよろしくお願いいたします。 - お含みおきください
ご理解ください
限定商品はなくなり次第、販売終了となります。あらかじめお含みおきください。 - お心置きなく
気兼ねなく
例:どうぞ、お心置きなくお過ごしください。
「今しがた」のまとめ
以上、この記事では「今しがた」について解説しました。
読み方 | 今しがた(いましがた) |
---|---|
意味 | つい先ほど |
由来 | 日本古来の大和言葉 |
類義語 | 先ほど 先刻 さっき など |
対義語 | 後ほど 後刻 |
英語訳 | just now (つい先ほど) just a few moments ago (つい先ほど) |
「今しがた」を正しく使いこなせるようになりましょう。