「行く」という言葉には、「いく」と「ゆく」という読み方があります。どちらを使うべきか迷ったことはありませんか。
今回はその違いについて解説していきます。
結論:「いく」は口語的、「ゆく」は文章的
「ゆく」は詩的な文脈で使われます。
また、昔は主に「ゆく」が使われ、現代は「いく」が使われることが多いです。
「いく」をもっと詳しく
「いく」は口語的・日常的な文脈において使われることが多いです。
とりわけ、日常会話における意志的な動作を表す時に使います。
たとえば、「いくね」「いくの?」とは言いますが、「ゆくね」「ゆくの?」のようにはあまり言いませんね。
また、「いく」と「ゆく」の違いの一つに、音便形の有無があります。
音便とはもとの音の一部が発音しやすいように変化することです。口語的に用いられる言葉ほど、音便形があることが多いです。
現代語において、「いく」には促音便(※)として「いって」「いった」がありますが、「ゆく」にはありません。
このことからも、「いく」は話し言葉としてより頻繁に使われていることがわかりますね。
また、音便というのは、時代の違いによっても種類が変わります。
「いく」と「ゆく」は、同じ種類の音便形を持たないことから、両者が異なる時代に用いられる傾向があったことがわかります。
歴史的には「いく」の方が新しい形であり、現在はこちらが一般的に用いられています。
「学校に行く」などと言う場合も、ほとんどの人が「いく」を使うのではないでしょうか。
しかし、昔に関しては「いく」「ゆく」どちらがよく使われていたかどうか様々な説があるため、はっきりしたことはわかっていません。
- 促音便(※):音便の一つ。発音の便宜のために、語中で、ある音が促音(「っ」の形)に転ずる現象のこと。
「ゆく」をもっと詳しく
「ゆく」は主に詩的な文脈において使われます。
「いく」は主に人の意志的な動作を表しますが、「ゆく」は自然な事象の動きをあらわすことが多いです。
また、中世ごろまでは「ゆく」が標準的な言い方とされていました。
日本最古の和歌集である万葉集の歌の中には、「いく」と「ゆく」の両方の形があるものもありますが、当時は趣のある言葉として、「ゆく」が和歌や書き言葉において多く用いられました。
現代でも、「過ぎゆく季節」、「散りゆく桜」など、文学的な表現においては、「ゆく」が使われることが多いです。
「行く」の読み方としては「いく」も「ゆく」もどちらも正しいですが、必ず「ゆく」を使う場合があります。
たとえば、「行方(ゆくえ)」「行く年(ゆくとし)」などの表現の時は必ず「ゆく」を使います。
「いくえ」「いくとし」とは読みませんね。
また、先ほどにも述べたように、「ゆく」には促音便がありません。
「ゆって」といった言葉は聞いたことがありませんよね。
促音便は言葉が口語的に用いられる中で変化した形ですので、促音便のない「ゆく」は、やはり口頭よりも文章の中で使われることが多い言葉だといえます。
まとめ
以上、この記事では、「いく」と「ゆく」の違いについて解説しました。
- いく:口語的・日常的に使用される
- ゆく:詩的な文脈で使用される
どちらも日本語的には正しい表現ですが、状況や場面により臨機応変に使い分けましょう。