「自由貿易」と「保護貿易」の違いとは?わかりやすく解説

違いのギモン

「自由貿易」と「保護貿易」。この2つの違いをあなたは知っていますか。現代社会の授業や、日々のニュース番組で聞いたことがある人も多いでしょう。特に日本がTPPを締結するか否かが議論されていた時期には、頻繁に取り上げられた単語です。

しかし「自由貿易」と「保護貿易」がもつそれぞれのメリットやデメリット、さらには現在の日本やアメリカがどちらの貿易なのか、などまでを詳しく説明できる人はなかなかいないでしょう。

今回はそんな人のために、これからも世界中で議論され続けるであろう2つの貿易、「自由貿易」と「保護貿易」について解説していきます。

結論:「自由貿易」は、自由な貿易。「保護貿易」は、国が制限をかけた貿易。

「自由貿易」とは、国が制限をしない自由な貿易です。国際分業が進み、関係国全体で見ると大きな利益となります。

一方「保護貿易」とは、国が関税などの制限をかけることで、国際取引がしづらくなった状態の貿易です。自国産業の保護という点にメリットがあります。

「自由貿易」をもっと詳しく


異なる国家間で行われる、商品の売買・取引を「貿易」といいます。その中で、関税(外国から商品が入るときにかかる税)などの国家による制限・介入がなく、自由に取引ができる「貿易」のことを「自由貿易」といいます。

各国が「自由貿易」を行うと、他国との売買・取引が活発化し、世界的に国際分業が広がります。すると、全体としての労働力に対する生産性が上がり、利益を産みます。また、消費者はより安い製品を買うことができるようになります。詳しくは後ほど説明します。

最近では、環太平洋パートナーシップ協定、通称TPPが締結され、現在オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11カ国が参加しています。これは環太平洋の国家間における「自由貿易」を推し進めた協定でした。

 

当初参加を予定していたアメリカは、2017年に離脱を表明しました。しかし、現在の11カ国の協定もGDP(国内総生産)を合計すると世界経済の13%ほどになる大規模なものです。

また2017年には安倍首相とトゥスクEU大統領は、日本とEUの貿易において多くの品目の関税を撤廃する旨の大枠合意をしました。以上のことから、日本を含めた世界の多くの国々は「自由貿易」に向かっている傾向にあります。

 

しかし、「自由貿易」には欠点があります。それは、他国の安い製品が大量に国内市場に出回ることにより、国内で今まで売れていた製品が売れなくなるということです。

例えば、「自由貿易」により、中国産キャベツが大量に輸入され、今までは150円で売れていた日本産キャベツが売れなくなったとします。その場合、日本産キャベツは高品質なキャベツで差別化を図る、価格を下げるなどの対策が考えられますが、売り上げが下がることは避けられないでしょう。

 

すると、キャベツを生産していた農家は儲けがなくなり、困ってしまいます。その時、下記の「比較生産費説」によれば、キャベツ農家をやめて自動車会社で働けばいい、ということになりますが、現実にはそれほど労働力のスムーズな移動・転換は出来ません。

長年キャベツ農家を営んできたおじいさんの想いもあります。そのため、弱い産業には国が何らかの保護政策をとる必要があります。その時に出てくるのが「保護貿易」となります。

「自由貿易」の何が良いの?「比較生産費説」

世界の多くの国々が「自由貿易」を推進している理由は、簡単にいうと「世界規模でみると、自由貿易を行い、国際的に分業をしたほうが得をする」からです。

「自由貿易」「保護貿易」がどちらが良いのか、については昔から活発に議論がなされてきましたが、「自由貿易」を強く推奨したのがイギリスのD・リカードです。彼は「比較生産費説」と呼ばれる理論により「自由貿易」の良さを主張しました。

「比較生産費説」は、同じ労働量でも、「各国が得意な産業に特化して、貿易で足りない分を補い合う」方が、「国内で全産業を平均的にまかなう」よりも、総生産量は増える、とした説です。

 

そもそも国は、それぞれ文化や気候、技術や人口など、異なる条件を持っています。そのため、それぞれの国で得意な産業や適した産業があります。ここで少し極端な例で説明していきたいと思います。

例えば、100人の労働力で米1000食、あるいは車50台を作れる農業国のAと、100人の労働力で米500食、あるいは車100台をつくれる工業国のB国があるとします。米も車も、国にとって必要なものなので、A国もB国も何らかの手段で手に入れる必要があります。

Aはこのような場合に、A国とB国の行動としては、以下のような2通りが考えられます。

  1. 貿易をせず、お互いに米も車も自国生産をする。(保護貿易)
  2. 貿易をして、A国は米だけ、B国は車だけ生産をする。(自由貿易)

 

A国の必要数を米1000食と車50台、B国の必要資源数を米500食と車100台であると仮定します。すると、①で「保護貿易」を行った場合に必要な労働力は次のようになります。

A国B国
米の労働人数100100
車の労働人数100100
合計労働人数200200

 

上と同じ条件であると仮定します。②の「自由貿易」の場合に必要な労働力は次のようになります。

A国B国
米の労働人数1500
車の労働人数0150
合計労働人数150150

 

このように、A国もB国も「自由貿易」をした方が少ない労働人数で同じだけの商品を生産することができます。現実にはここに輸送費が加わりますが、輸送技術の進歩・一度の大量輸送により、「自由貿易」による儲け分は確保することができます。

現在、世界的に「グローバル化」が広がる中、「自由貿易」への移行が進んでいます。その背景には以上のような考え方があります。

「保護貿易」をもっと詳しく


「保護貿易」とは、外国との売買・取引に対して国が制限をしている状態のことです。制限の方法としては、関税や非関税障壁( “non-tariff barrier” 、略してNTB)があります。

非関税障壁には、様々なものがあり、輸入数量制限(一定数量以上の輸入を禁止する)や衛生・安全基準の厳格化、輸入ライセンスの義務化などがそれに当たります。

「保護貿易」が極限まで進行すると、国内のみで全ての食糧・資源をまかない、国内のみで全て消費する経済になります。このように、1国あるいは1つの経済圏のみで完結した状況のことをアウタルキー経済、または自給自足経済といいます。

 

歴史をさかのぼると、1930年頃には世界恐慌が起こり、先進国は自国経済を守るために、植民地と自国のみで固まって取引するようになりました。この時の経済をブロック経済と呼びますが、アウタルキー経済であるともいえます。

「保護貿易」を行う主な目的は、国際的な競争力がない国内産業(幼稚産業)を守ることです。例えば、海外製品が無制限に流入した場合に、売れなくなってしまうであろう国内製品などがそれに当たります。国内生産者からすると、倒産や失業から守られていることになります。

 

このような説を最初に主張したのは、ドイツの経済学者のF・リストです。リストは、現在国際的な競争力はないものの、将来的に成長が見込まれる産業については、「保護貿易」をすることで一時的に守るべきであることを主張しました。

一方、「自由貿易」に比べると、消費者は高い商品を買わざるを得なくなります。また、世界全体で見ると、「自由貿易」により国際分業を行った方が効率的であるため、損していることになります。そのため、「保護貿易」政策は、一時的なものであるべきと考えられます。

「米国第一」を掲げるアメリカの大統領、ドナルド・トランプは2018年3月1日に、鉄鋼製品に25%、アルミニウム製品に10%の関税を課す方針を表明しました。これが実現すれば、アメリカは「保護貿易」の傾向が強まり、各国からアメリカに対する鉄鋼製品・アルミニウム製品の輸出は少なくなります。

まとめ

以上、この記事では、「自由貿易」と「保護貿易」の違いについて解説しました。

  • 自由貿易:国による制限のない自由な貿易。国際分業が進む。
  • 保護貿易:関税などにより、自由に取引できない貿易。自国産業を保護。

「自由貿易」を推進するか、「保護貿易」を行うか、という選択は各国の未来を決める重要な決断であり、非常に難しい問題です。必ずしもどちらかに振り切るのではなく、例えば「基本的には自由貿易だけど、農業に関してだけは保護貿易しよう」というような決断も考えられます。

そのため、単純に「日本は自由貿易」「アメリカは保護貿易」と言い切ることはできません。

 

さらに単なる経済的な利益だけではなく、各国の力関係や仲の良さなど、国交の要素も多く絡んできます。そのため、現実は非常に複雑です。

これからも日本という国は「自由貿易」と「保護貿易」に対してどのように向き合っていくかが問われ続けるでしょう。