「エンパワーメント」とは?ビジネスや福祉での意味を簡単に解説!

言葉

エンパワーメントとは「人の潜在能力を最大限に発揮させること」という意味です。

ビジネスや社会運動、福祉など、さまざまな場面で使われている言葉ですが、根底には「潜在能力を引き出す」という共通の概念があります。

ビジネスを初めとしたいろいろな分野で同じ用語が使われていることもあり、どういう意味なのか気になった方も多いのではないでしょうか。

この記事では、エンパワーメントの意味や分野ごとの意味の違い、由来、さらにはビジネスにおけるエンパワーメントの導入方法なども解説します。

「エンパワーメント」の意味

エンパワーメント

人の潜在能力を最大限に発揮させること

例:エンパワーメントを意識したら業績が伸びた。

エンパワーメントは「人の潜在能力を最大限に発揮させること」という意味です。

主にビジネス、社会運動、看護や介護、障がい者福祉、そして教育の分野で使われています。

それぞれの分野で使われる際に少しずつ意味が派生しました。以下の通りです。

分野意味
ビジネス社員の自立を促す(ために権限を委譲することを指すことが多い)
社会運動被差別者や社会的弱者などの自己の決定権を奪われている人が、社会構造や抑圧の要因に気がつき、自己決定権を取り戻すこと
看護や介護患者や家族が自ら自分の生活をコントロールできるようになること
障がい者福祉障がい者を保護すべき対象として扱うのではなく、自分で決定できる環境を整備していくこと
教育子どもを教えるのではなく、子ども自身が物事を発見できるように導くこと

それぞれ全然違うことを指しているように見えますが、根本にある「(現在抑圧されている弱者から選択の権利を奪うのではなく)自分自身でうまくいく方法を見つけられるように支援すること」という理念が共通しています。

「エンパワーメント」の具体例


エンパワーメントが重要となる場面の例には、以下のようなものがあります。

分野
ビジネス客の要望に関して、自由な裁量で対応してもらうように社員に権限を移譲する
社会運動女性差別によって不当に評価を下げられたことに気がつき抗議する
看護や介護患者に自分で治療方針を選んでもらう
障がい者福祉障がい者にも教育機会や就労機会を確保する
教育道徳教育などでただ答えを教えるのではなく、子ども自身に考えてもらう

それぞれ詳しく見ていきましょう。

分野①:ビジネス

ビジネス分野では、たとえば「客の要望に関して、自由な裁量で対応してもらうように社員に権限を移譲する」といった状況をエンパワーメントと呼びます。

マニュアル通りの接客のみが認められていた店で、マニュアル以外の点についても気がつき次第自由な裁量で対応してもらうように社員に権限を移譲するなどの経営判断をすることはエンパワーメントの一つです。

その他の業界や職種でも、エンパワーメントの概念を経営に取り入れる場合、多くのケースにおいて社員に権限を移譲するかどうかが論点になります。

分野②:社会運動

社会運動の分野では、たとえば「女性差別によって不当に評価を下げられたことに気がつき抗議する」といった状況をエンパワーメントと呼びます。

かつて女性であることを原因として評価を下げられていたことが発覚したことは多くあり、近年でも入試で点が下げられていたなどのケースが問題になっています。

このような差別が起きていることは発覚しづらく、発覚して問題として取り上げられることが解決への大きな一歩となることが多いです。

この「差別が起きている構造に気がつき、抗議し、自分が自由に決定できる権利を取り戻す」という一連の流れをエンパワーメントと呼びます。

分野③:看護や介護

看護や介護の分野では、たとえば「患者に自分で治療方針を選んでもらう」といった状況をエンパワーメントと呼びます。

医療においては「少しでも長く生きること」だけがイメージされてしまうことも多いです。しかし、特定の治療をすることのメリット/デメリットも踏まえて患者に治療方針を決定してもらえば、患者のエンパワーメントにつながります。

その他にも、看護/介護されている患者が、自らの望む生活を送れるように整備することもエンパワーメントの一種です。

「患者に治療方針をしっかり伝えて決定してもらう」という意味の概念である「インフォームド・コンセント」とも似通った概念ですが、エンパワーメントの手段としてインフォームド・コンセントがあるというイメージです。

「エンパワーメント」の提唱者


エンパワーメントを提唱したのは、教育思想家であるパウロ・フレイレと、作家/ジャーナリストのバーバラ・ソロモンです。

以下のような流れで、エンパワーメントという概念が広まっていきました。

  1. 古くは中世カトリック教会の法皇が権威などを授けることを意味していた
  2. 20世紀にパウロ・フレイレが先住民運動などの場面でエンパワーメントを提唱
    ラテンアメリカの非識字者に読み書きを教える中でエンパワーメントを実践し大きな効果を上げる
  3. 1950年代以降、米国で自由公民権運動やフェミニズム運動など社会変革が活発に
  4. 1970年代にバーバラ・ソロモンが介護におけるエンパワーメントを提唱
    「エンパワーメントとは、スティグマ化された集団の構成メンバーであることに基づくパワーの欠如状態を減らすこと」と定義した
  5. 1980年代からはフェミニズム運動で「社会的地位の向上」という文脈で使われるように
  6. 現在、さまざまな分野で用語として広まっている
このように、元は社会運動の文脈で登場した言葉でしたが、現在ではビジネスを含むさまざまな場面で使われています。

「エンパワーメント」が注目されている理由


エンパワーメントが現在注目されている理由は、以下の通りです。

  • 言葉にたくさんの意味が含まれており、使いやすい
  • 伝統的な心理療法や心理学のモデルへの反発として使われた
  • 社会変革のために必要な言葉だった
  • スピーディーな意思決定に必要
  • 若手人材の育成に必要
  • 中途社員を早く戦力化するために必要
このように、さまざまな場面で時代の流れに沿った使いやすい言葉であったため、エンパワーメントという単語が普及しました。

「エンパワーメント」の英語訳


エンパワーメントを英語に訳すと、次のような表現になります。

  • empowerment
    (エンパワーメント)
もともと英語の “empowerment” が由来となった言葉であるため、英訳はそのまま “empowerment” で通じます。

「エンパワーメント経営」の意味


エンパワーメント経営とは、「チームや部下、従業員などに権限を付与し、自律的に活動してもらう」という経営スタイルのことです。

これはビジネスにおける用語で、多くの場合は、現場のチームに以下のような権限を与えることを指しています。

  • 研修やシフト、出勤時間や休憩など、労働に関わることを決定する
  • 部品納入や営業活動など、現場における経営に関わることを決定する
  • 現場で個人やチームが気づいたことにその場で対応する

「エンパワーメント経営」のメリット

エンパワーメント経営には、以下のようなメリットがあります。

  1. 意思決定が早くなり、顧客満足度などが向上する
  2. 従業員の力が育ち、自分で考えられるようになる
  3. 従業員自身の能力を最大限生かせる
  4. 働く姿勢を見直し、モチベーションが向上する
要するに、従業員が自由に行動していい範囲を広げることによって、対応が早くなり、従業員育成にもつながるというのがエンパワーメント経営のメリットです。

「エンパワーメント経営」のデメリット

エンパワーメント経営には、以下のようなデメリットがあります。

  1. 個人と組織で方向性がずれることがある
  2. 権限を渡されると萎縮(いしゅく)してしまう従業員もいる
  3. 従業員が失敗することによる損失発生のリスクがある
それぞれ詳しく見ていきましょう。

デメリット①:個人と会社で方向性がずれることがある

デメリットの1つめは、「個人と会社で方向性がずれることがある」です。

現場の従業員が権限を持つことで、会社の目指す方向と個人個人の行動がずれることがあります。

たとえば、以下のような例があります。

  • 経営側はセールの回数を絞りたいけれど、食材を廃棄したくない従業員が勝手にタイムセールを実施してしまう。
  • 現場の判断で本屋大賞になった本の発注数を大幅に増やしたが、経営側は本屋大賞を大きく取り上げるつもりはなかった。
このように、現場や個人が権限を持つことにより、組織全体としてのスタンスや目指す方向がずれることがあります。
「個人と組織で方向性がずれることがある」への対処法

対処法としては、「基準を定めること」が挙げられます。

以下について、基準を定めておきましょう。

  • 個々で判断すべきラインやケース
  • 上司に相談すべきラインやケース

また、エンパワーメント経営について従業員にしっかり理解してもらうことも大切です。

デメリット②:権限を渡されると萎縮してしまう従業員もいる

デメリットの2つめは、「権限を渡されると萎縮してしまう従業員もいる」です。

人に従う方が得意な従業員や、自分で考えることに負担を感じる従業員もいます。

そういった従業員が多い場合、エンパワーメント経営に舵を切ると、かえって従業員が働きづらくなる可能性が高いです。

「権限を渡されると萎縮してしまう従業員もいる」への対処法

対処法としては、「従業員の様子を観察し、必要な対応を取る」が挙げられます。

以下のような流れで対応しましょう。

  • 従業員の業務の状況や、権限行使の状況をしっかり観察する
  • 不安や不満などがあるようであれば面談をする
  • それでも難しそうであれば一旦停止し、また様子を見る

デメリット③:個人と組織で方向性がずれることがある

デメリットの3つめは、「従業員が失敗することによる損失発生のリスクがある」です。

「従業員が失敗することによる損失発生のリスクがある」への対処法

対処法としては、「損失は発生するものだと捉(とら)え、対応を予め考えておく」が挙げられます。

完全にリスクをゼロにするのは困難です。またリスクゼロが目標であれば、エンパワーメント経営を取り入れる意味がありません。

逆に「損失は発生するもの」と割り切り、最悪の事態を避けることが、エンパワーメント経営にとっては重要です。

「エンパワーメント経営」の事例


エンパワーメント経営では、以下の3つの事例が有名です。

  1. リッツ・カールトン(ホテル)
    スタッフ個人に、顧客の要望に自由に応える権限を与えるなど
  2. 星野リゾート(ホテル)
    支配人やディレクターを従業員の選出で選ぶなど
  3. スターバックス(飲食店)
    事前に徹底的な教育を行い、現場に出たあとのマニュアルはなしにするなど
それぞれ詳しく説明していきます。

事例①:リッツ・カールトン

リッツ・カールトンでは、現場のスタッフに以下の裁量権を与えています。

  1. 上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
  2. セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
  3. 1日2000ドル(約20万円)までの決裁権。

[出典:TUNAG]
これらの裁量権がスタッフに与えられていることで、スタッフはその場の判断で顧客にとって最善のサービスを提供することができます。

結果として、さまざまな感動エピソードが生まれたり、リッツ・カールトンのファンやヘビーユーザーを多く増やすことにつながりました。

事例②:星野リゾート

星野リゾートでは、エンパワーメント経営の実践に重要なことを3つ掲げています。

  1. 全社員と正確な、そして重要な情報を共有すること
  2. 境界線を明確にして、自律的な働き方を促すこと
  3. 階層的組織特有の思考をセルフマネジメント・チーム側思考に置き換えること

[出典:『社員の力で最高のチームを作る 1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著)]
これらを踏まえた上で、星野リゾートでは、総支配人やユニット・ディレクターといった重要な役職を経営者が任命するのではなく、誰でも立候補でき従業員が皆で協議して選出する仕組みに変えました。

星野リゾートがエンパワーメント経営に転じた理由

星野リゾートがエンパワーメント経営に転じた理由は、星野リゾートの社長である星野佳路さんが上記の『社員の力で最高のチームを作る 1分間エンパワーメント』という本を監訳したことがきっかけでした。

星野社長は本の内容に感銘を受け、経営方針を180度転換させて、今のエンパワーメント経営というスタイルに至りました。

事例③:スターバックス

スターバックスには、接客マニュアルは「お客様が何をして欲しいかを考えてサービスしよう」のたった1行しかありません。

その代わり、最初の1週間は研修期間としてしっかりと教育を受けます。

この教育内容は、基本理念や実務、シフト体制、衛生面など、多岐に渡ります。

スターバックスも現場の対応の良さが顧客満足度の高さにつながっている会社として有名ですが、その裏にはこのような経営方針があります。

「エンパワーメント経営」のアプローチの種類


近年の研究では、エンパワーメント経営には、以下の2種類のアプローチがあると言われています。

  1. 構造的アプローチ
    構造上の権限を移譲することそのもののこと
  2. 心理的アプローチ
    (権限委譲などの仕組みにより)社員が自己効力感を高めること
それぞれ詳しく見ていきましょう。

アプローチ①:構造的アプローチ

構造的アプローチとは、「構造上の権限を移譲することそのもののこと」を指します。

以下のようなものは、構造的アプローチにあたります。

  • スタッフの顧客対応に関する権限を大幅に譲渡する
  • 現場のリーダーを従業員が選出する仕組みにする
経営者から現場に権限を与えることによって、より迅速な決定や顧客のニーズを汲み取った決定に繋がる可能性が高いです。

この点を重視しているアプローチを総称して「構造的アプローチ」と呼びます。

アプローチ②:心理的アプローチ

心理的アプローチとは、「(権限委譲などの仕組みにより)社員が自己効力感を高めること」を指します。

以下のようなものは、心理的アプローチにあたります。

  • (スタッフの顧客対応に関する権限を大幅に譲渡し、)
    スタッフに「自分が顧客を幸せにした」という気持ちを持ってもらう
  • (現場のリーダーを従業員が選出する仕組みにし、)
    従業員に「自分の選んだリーダーについていく」という気持ちを持ってもらう
このように、前述した構造的アプローチと同じことを実施していても、その主眼が従業員の心理的な側面に当てられているのが「心理的アプローチ」の特徴です。

心理的アプローチには、以下の4項目が重要だとされています。

  1. コンピテンス(自己効力感)
    自分はやればできるという思い
  2. 影響感
    目的の達成に関われているかの度合い
  3. 有意味感
    各個人にとって仕事の目標や目的が持っている価値
  4. 自己決定感
    どの程度自分で決定できたと感じるか
構造面で現場に権利を委譲するだけではなく、上記の4項目を念頭に置いた制度設計にすることで、心理面でのエンパワーメント経営が充実します。

逆に、心理的なアプローチを重視する場合、必ずしも権限の委譲だけがその手段ではないため、目指している組織の像によって構造的なアプローチと心理的なアプローチを使い分けると良いでしょう。

「エンパワーメント経営」を導入する手順


エンパワーメント経営は、一般的には以下のような流れで導入することが多いです。

  1. 企業としてエンパワーメントを推進していくことを周知する
  2. エンパワーメントに関する目標や組織目標について合意と共感を得る
  3. 情報を可能な範囲で広く公開し、権限を委譲する
  4. 定期的に状況を確認し、評価と改善を行う
特に情報公開は各個人が自分に与えられた権限をフルで使うために大切なことであり、企業の方針から経理状況に至るまで、なるべく多くの情報を公開する必要があります。

ただし、情報漏えいのリスクは常にあるため、何をどこまで公開するかは慎重に決めましょう。

「エンパワーメント経営」の注意点

エンパワーメント経営には、以下の点に注意する必要があります。

  • 責任放棄にはつながらないようにする
  • 権限委譲だけが目的にならないようにする
  • 従業員のためらいや不安を取り除く工夫をする
  • 従業員にしっかり学習してもらう
  • 権限委譲に伴って発生するリスクや損失をきちんと想定する
  • 従業員が自分で動きたいと思えるような動機づけをする
  • 報連相を徹底する
  • 判断基準を明確化する
このような点に注意しないと、エンパワーメントによる効果が十分に引き出されないおそれがあります。

「エンパワーメント」のまとめ

以上、この記事ではエンパワーメントについて解説しました。

読み方エンパワーメント
意味人の潜在能力を最大限に発揮させること
提唱者パウロ・フレイレとバーバラ・ソロモン
英語訳empowerment(エンパワーメント)

さまざまな分野で出てくる用語ですが、基本の意味をしっかり押さえると意味のイメージがつきやすいです。

ABOUT US

Rie
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日英バイリンガル東大生。 10年間小説を書き続けているため、文章力には自信があります。 いくつかの小説投稿サイトで掲載/連載している他、教育系NPOでもライターをしています。