「心肺停止」と「死亡」の違いとは?ニュースで使われる言葉を解説

違いのギモン

ニュースなどを見ていると、「心肺停止」という単語が出てくる時がありますよね。

そして、大きな災害に巻き込まれて、「心肺停止」になっている人がいる、などという報道が流れると、「そんな災害に巻き込まれたなら死亡しているに決まってるじゃん!」とツッコミを入れたくなることもあるのではないでしょうか。

しかし、これにはきちんとワケがあったのです。

そこで、今回は「心肺停止」と「死亡」の違いについて解説していきたいと思います。

結論:蘇生の可能性があるかどうかの違い

「心肺停止」とは、心臓が止まり、呼吸もない状態のことです。これには蘇生の可能性があります。

一方、「死亡」とは心臓、肺、脳のすべてが不可逆的な機能停止となった状態のことです。これには蘇生の可能性がありません。

「心肺停止」をもっと詳しく

心肺停止とは、心臓が止まり、呼吸もない状態のことです。さまざまな病気や大怪我などの最終局面で起こります。これは心音と呼吸の有無で確認することができるので、誰でも判断することができます。

そして、すばやく心臓マッサージやAED(自動体外式除細動器)を使った処置、人工呼吸などを行えば蘇生する可能性があります。ただし、心臓が停止すると血液が脳に回らなくなくなってしまいます。

そうすると脳の細胞に酸素が供給されなくなり、細胞が壊れてしまい、4~5分で回復不能な障害を受けてしまい、蘇生できたとしても脳死の状態になってしまいます。

そのため、心肺停止になったらすばやい救命措置が必要になります。

 

ちなみに、心肺停止とは心停止と呼吸停止を組み合わせたものですが、心停止が先に起こる時もあれば、呼吸停止が先に起こることもあります。しかし、どちらの場合でも放置してしまうともう片方も起こってしまいます。

「死亡」をもっと詳しく

死亡とは、心臓、肺、脳のすべてが不可逆的な機能停止となった状態のことです。つまり、もう身体の機能が戻らない状態です。この状態になってしまうと蘇生の可能性はありません。

そして、日本では心停止、呼吸停止、脈拍停止、瞳孔散大(どうこうさんだい)の4つの判断基準をもとに、医師のみが宣言することができます。つまり、明らかに死亡しているような状態でも、警察や救急隊などでは判断できないのです。

これは、蘇生の状態があるのに死亡と判断してしまうと、救うことができた命を見捨てることになってしまうからです。

 

ちなみに、瞳孔散大とは、目の瞳の部分、つまり黒目が過度に大きくなった状態のことです。

通常、黒目は光が多い環境だと小さくなり、暗闇だと大きくなります。しかし、この状態では光を当てても黒目が広がったままになります。ドラマなどでも、医者が倒れている人の目に光を当てた後、死亡を宣言していることがありますよね。

 

このように、日本では医師でないと死亡を宣言できませんが、救急隊などはできるだけ多くの人を救うため、死亡者と生存者の判断をしなければならない場合もあります。

そこで使えるのが「社会死」という仕組みです。

社会死とは、医師の判断を仰ぐまでもなく、体の状態から誰が見ても判断することができる死のことです。そして、「社会死」と判断した場合、救急隊は蘇生処置を行う必要はなく、救急搬送を行う必要もありません。

しかし、これは不正確な判断になることもあり、本当は生きている人を社会死と判断し、搬送しなかったケースもあります。そのため、現在では心電図での確認を徹底するなど、社会死の判断は慎重に行われています。

 

ちなみに、社会死の判断材料としてはミイラ化、頭部が取れている、胴体が切断されている、死後硬直、死斑、腐敗、炭化などがあげられます。

このうち、死後硬直とは、人間が死亡した後、関節がかたくなり、動かなくなる状態のことです。特に、下あご、手の指などがわかりやすいでしょう。しかし、死亡してから時間が経つとだんだんかたさがなくなってくるので注意が必要です。

また、死斑とは体のうち、地面などと接触している部分が紫や青などに変色している状態のことです。

そして、社会死はこれらの判断材料のうち、複数が認められる場合に判断します。なぜなら、1つの材料だけだと、死亡以外の理由で発生した可能性があるからです。

例えば、死斑は本当はあざかもしれませんし、寝たきりの状態の人は、関節が固まっていて動かない場合もあります。

 

ちなみに、死亡は医師しか判断できないため、ニュースなどでの「心肺停止の状態」は死亡しているだろうが、医師の診断ができていない場合がほとんどです。

しかし、海外では死亡の判断基準が異なる場合があるため、日本では「心肺停止の状態」と報道される場合でも、「死亡」と報道する場合があります。

例えば、欧米では死の判断基準が微妙に異なり、「三兆候説」を採用しています。三兆候説とは、心停止、呼吸停止、瞳孔散大の3つの状態が起こっていれば、死亡と判断できるという説です。

つまり、日本と違って、脈をはからなくても死亡の判断ができるのです。

 

ところで、人が病院ではなく、自宅など医師がいないところで死亡した場合、少々困ったことが起こります。医者は通常は病院にいますし、大きな病院では往診を行ってくれない場合もあります。

すると、死亡の判断を行えなくなってしまうのです。さらに、「社会死」に該当する状態になっていると、消防も搬送ができなくなります。

つまり、救急車で搬送することはできないのです。

ちなみに、このような場合には、救急車を呼ぶと代わりに警察が来ます。

そして、事件性がないことを確認した上で、医者の立会いのもと検死が行われ、死亡理由を調査します。

まとめ

以上、この記事では、「心肺停止」と「死亡」の違いについて解説しました。

  • 心肺停止:心臓が止まり、呼吸もない状態のこと。蘇生の可能性がある。
  • 死亡:心臓、肺、脳のすべてが不可逆的に機能停止となった状態のこと。

このように、心肺停止と死亡とではまったく違います。そして、もし間違えてしまったら大変なのです。

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和佐 崇史
文章を書くこと、読むことが大好きな大学生です。中学2年生で漢検2級を取得するなど、言葉については詳しい自信があります。Webライターとしてはこれまで累計1,000記事以上を執筆してきました。