「業務妨害罪」と「公務執行妨害罪」の違いとは?わかりやすく解説

違いのギモン

刑法には、「業務妨害罪」と「公務執行妨害罪」という規定があります。どちらも、新聞やテレビニュース、刑事ドラマなどで時折耳にします。

「仕事を邪魔する」という意味では、両者とも共通していますが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。

今回は、なかなか知らない「業務妨害罪」と「公務執行妨害罪」の違いをわかりやすく解説します。

結論:妨害したのが、公務員の業務か否か

最も大きな違いは、妨害した業務が、公務であるか否かです。

「業務妨害罪」は、社会生活において反復・継続して行う幅広い活動を妨害した罪です。

「公務執行妨害罪」は、公務員の業務を妨害した罪です。

「業務妨害罪」をもっと詳しく


「業務妨害罪」は、刑法233条・234条に規定されています。刑法233条のことを「信用毀損(しんようきそん)及び業務妨害罪」、刑法234条のことを「威力業務妨害罪」といいます。

第233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

刑法234条の「信用毀損及び業務妨害罪」は、簡単に言うと、嘘の噂を流す犯罪行為です。例えば、Twitterで「A店のバナナジュースは、腐ったバナナを使っている」という真実とは異なる情報を流し、売り上げを不当に減少させた場合に適用されます。

「公務執行妨害罪」とより類似しているのは、「威力業務妨害罪」なので、今回はこちらを中心に解説します。

 

刑法234条にある「威力」とは、人の意思に影響を与えるような行為を指します。典型的には「暴行」や「脅迫」が当たりますが、その他間接的な行為も広く該当します。

例えば、スーパーでゴキブリを放つ行為や、駅の構内で行うデモ行進、しつこいクレーム電話などです。

 

また、刑法234条にある「業務」とは、個々人が社会生活において行う継続的な行為のことです。会社員の職務やフリーランスの仕事の他、NPO法人や宗教団体の活動も含まれます。

つまり、「業務」に当たるか否かに、金銭的要素は関係ありません。

まとめると、「威力業務妨害罪」は、幅広い活動に対する、幅広い妨害行為について、禁止する規定であるといえます。

「公務執行妨害罪」をもっと詳しく


「公務執行妨害罪」は、刑法95条1項に規定されています。

第95条
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

「公務執行妨害罪」の目的は、国・地方公共団体の業務を円滑な遂行を保護することです。

「威力業務妨害罪」との違いは、大きく3つあります。

 

1つ目は、保護される対象が公務員に限定されていることです。公務員には、国会議員や省庁の職員、地方公共団体の職員、国公立大学の講師などが該当します。

2つ目は、妨害行為が「暴行又は脅迫」に限定されていることです。つまり、「威力業務妨害罪」よりも、適用される行為が少ないことになります。

 

しかし、ここで言う「暴行又は脅迫」は、一般的な意味とは異なります。「公務執行妨害」の暴行は、公務員自身に向けられたものである必要はありません。

例えば、昭和26年の最高裁判所の判例では、「公務員が押収したタバコを、道に投げ捨てた」ことが、「公務執行妨害」として認められています。このような行為を、「間接暴行」といいます。

 

3つ目は、刑罰です。「威力業務妨害罪」が「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となるのに対し、「公務執行妨害罪」は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」となります。

つまり、「公務執行妨害罪」は、禁錮刑の可能性があります。

簡単に言うと、「公務執行妨害罪」は「威力業務妨害罪」の限定的な場合に適用される罪であり、適用されうる刑罰が増えたものです。

 

ちなみに、刑法95条の「職務を執行するに当たり」とは、現実に職務を行っていることを意味します。つまり、休憩中や移動中の公務員に対しては、「公務執行妨害罪」は成立しません。

さらに、この場合の「職務」は、適法なものに限定されます。つまり、イライラして民間人を殴った(暴行罪成立)警察官の手足を一時的に縛り、拘束する行為は、「公務執行妨害罪」にはなりません。

理由は、この規定の趣旨である「業務の円滑な遂行の保護」を、違法行為にまで認める必要はないからです

 

また、「公務執行妨害罪」は、現実に「公務執行」を「妨害」する必要はなく、その危険が生じただけで成立します。つまり、警察官に向かって石を投げれば、仮に外れたとしても、罪が成立します。

このような犯罪を、抽象的危険犯といいます。

「懲役」と「禁錮」の違い

「懲役」とは、身柄を拘束され、かつ仕事を行わせる刑罰です。仕事の内容としては、工場労働、炊事、掃除、商品制作などがあります。働いた分に応じて、刑期終了後に一定の金額が支払われます。

一方「禁錮」とは、身柄を拘束される刑罰です。強制的な仕事がないため、一般的には「懲役」よりも軽い刑罰であると言われています。

まとめ

以上、この記事では、「業務妨害罪」と「公務執行妨害罪」の違いについて解説しました。

  • 業務妨害罪:社会生活において反復・継続して行う幅広い活動を妨害した罪
  • 公務執行妨害罪:公務員の業務を妨害した罪

「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」と聞いて、意外と刑が軽いと思った人もいるでしょう。

しかし、妨害方法によっては、「暴行罪」や「傷害罪」なども同時に成立し、3年以上の懲役になる可能性もあります。気をつけて生活しましょう。