興奮すると分泌されるのは「アドレナリン」。テンションが上がったり、パフォーマンスが上がったりするイメージがありませんか。
高校の授業では、よく似たもう一つの物質も習います。その名も「ノルアドレナリン」。アドレナリンと似ているようですが、違いは大きく分けて 4つもあります。これらを抑えれば「名前は知ってるけどどんな物質か知らない」状態とはおさらばです!
☆「アドレナリン」「ノルアドレナリン」の違いをざっくり言うと……
アドレナリン | ノルアドレナリン | |
---|---|---|
違い1 : 生成過程 | 先 | 後 |
違い2 : 受容体 | β2 受容体 | α1, α2, β3 受容体 |
違い3 : 働く場所 | 視床下部と末梢神経系 | 脳全体と交感神経 |
違い4 : 心と体 | 各器官への作用が中心 | 脳への作用が中心 |
違いの前に:「アドレナリン」「ノルアドレナリン」って何?
「アドレナリン」も、「ノルアドレナリン」も、「神経伝達物質」や「ホルモン」として体に作用します。
どちらも自動車で言うアクセルの役割を果たすものとブレーキの役割を果たすものがあり、状況によってそのバランスが調整されています。これによって体の「恒常性」(homeostasis)が維持されているのです。
「アドレナリン」も、「ノルアドレナリン」も、「アクセル」として働きます。
「神経伝達物質」とは、神経に対して働くもので、神経の長いネットワークを伝言ゲームのように伝えられていきます。
「ホルモン」とは「内分泌物質」とも呼ばれ、体内で分泌されて様々な器官のはたらきを調整します。たとえば、女性ホルモンが増えると生理が始まります。この場合に、女性ホルモンは生理に対して「アクセル」の役割を果たしていると言えます。
【1】生成過程の違い
「アドレナリン」と「ノルアドレナリン」は、同じ生成過程の異なる段階にあります。
「ドーパミン」→「ノルアドレナリン」→「アドレナリン」という順番で生成されます。「ドーパミン」は、興奮状態に関係する物質というイメージを持つ人が多いでしょう。
- L-チロシン(アミノ酸) + チロシン水酸化酵素
- L-ドーパ + 芳香族アミノ酸水酸化酵素
- ドーパミン + ドーパミン β 水酸化酵素
- ノルアドレナリン + PMNT
- アドレナリン
このように、複雑な過程を経てノルアドレナリンやアドレナリンが生成されているのです。ここで、ノルアドレナリンの前にある物質は、「前駆体」と言います。前駆体が様々な酵素の働きによって次第に形を変えていくのです。
もちろん、「ノルアドレナリン」は「アドレナリンの前駆体」だとも言えます。
ドーパミン自体も神経伝達物質として働き、中枢神経を伝達します。
生成過程での位置づけだけでなく、生成される場所も異なります。ノルアドレナリンは中枢神経系で主に生成されています。一方で、アドレナリンは腎臓の上にある副腎髄質で主に生成されています。
「アドレナリン」と「ノルアドレナリン」の代謝には違いはありません。
どちらも「モノアミン酸化酵素」または「カテコール – O – メチル基移転酵素」によって形を変えられます。
「モノアミン」とは「アミノ基を一つ持つ物質」という意味です。「カテコール」とは、ベンゼンにヒドロキシ基(OH)が 2つついた物質を言います。アドレナリンもノルアドレナリンも、モノアミンでありカテコールでもあるので、「カテコールアミン」に分類されています。
【2】受容体の違い
「アドレナリン」も「ノルアドレナリン」も、受容体は同じです。しかし、ものによってどちらが受容されやすいかが異なります。
「受容体」とは、化学物質を受け取る細胞の一部分です。受容体はすべての物質を受容するわけではありません。選択的に受容しているので、必要な器官にだけ情報がいきわたるのです。
たとえば、神経伝達物質の受容体は神経細胞の端にあるので、バケツリレーのようにして神経系全体に神経伝達物質のメッセージが伝えられていきます。
受容体は大きく分けて 5種類あるので表にまとめました。これらは「アドレナリン受容体」ですが、「ノルアドレナリン」も「アドレナリン」も共通して受容しています。
受容体 | 効きやすい物質 (アドレナリンと ノルアドレナリンを比較して) | 主な作用 |
---|---|---|
α1 | ノルアドレナリン | 平滑筋の収縮 |
α2 | どちらかと言えば ノルアドレナリン | 神経伝達物質の減少 心筋の弛緩 血小板の活発化 |
β1 | 同じくらい | 心筋の収縮 |
β2 | アドレナリン | 平滑筋弛緩 |
β3 | ノルアドレナリン | 脂肪代謝亢進 膀胱排尿筋弛緩 |
[出典:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/]
それぞれの組織によって、またアドレナリンとノルアドレナリンとの違いによって、どの受容体が多いかは異なります。そしてそれらの違いから、作用の違いが生まれるのです。
たとえば、ノルアドレナリンが平滑筋の細胞に受容される場合は、α1 受容体が活発化します。これは、筋収縮を引き起こします。一方で、アドレナリンを受容するのは β1 受容体で、筋弛緩を引き起こします。
【3】作用する場所の違い
「アドレナリン」と「ノルアドレナリン」は伝達する経路にも違いがあります。主要なものを紹介します。
アドレナリンの作用する場所
中枢神経系
- C1, C2:大脳の視床下部(ししょうかぶ:多くのホルモンが出入りする部分)に投射し、内分泌系や循環器系を調節する
- C3:視床下部や青斑核(せいはんかく)に投射する
C1 と C2 は場所が違うために別々に分類されていますが、働きはおおむね同じです。
末梢神経系
末梢神経系では、「節後細胞」(せつごさいぼう : 脊椎を流れる中枢神経から分岐した後の細胞)で働きます。
節後細胞に別の神経伝達物質(アセチルコリン)が伝わると、節後細胞はアドレナリンに変えて各器官に神経伝達物質を流します。それによって、血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加などが起こります。
ノルアドレナリンの働く場所
中枢神経系
- A1, A2:視床下部に投射して内分泌系を調節する
- A5, A7:橋(きょう)から脊髄に投射して、自律神経反射や痛覚を調節する
- A6:青斑核から脳の全体に投射する
自律神経系
ノルアドレナリンは、自律神経系のうち、交感神経系の節後細胞に働きます。アドレナリンと同様、各器官にノルアドレナリンが伝わると血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加などが起こります。
【4】心と体の違い
ここまで「アドレナリン」と「ノルアドレナリン」の違いを説明してきましたが、違いを簡単に述べると、「効くのが心か体か」です。
「アドレナリン」は主に体に、「ノルアドレナリン」は主に心に効くと言えるでしょう。
たとえば、末梢神経系に伝達されるアドレナリンが増えたとしましょう。
すると、「血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加など」が起こります。緊張すると手が冷たくなったり、胸がドキドキしたりしませんか。
これはまさに、手指の、つまり末梢の血管の血流量が減らされたり、心拍数が増えたりしているために起こるのです。アドレナリンの分泌による体の変化だと言えるでしょう。
ノルアドレナリンの場合は、青斑核から脳全体に分泌されているため、脳の活動に対する影響力が強くあります。
たとえば、感覚がするどくなったり、注意力が上がったり、記憶力がよくなったりします。
緊張すると誰しもイライラしたり細かなことが気になったりしますよね。ストレスが高まるとノルアドレナリンが分泌されるのです。適度な緊張は注意力が高まるなどの良い効果をもたらしますが、過度に緊張すると細かなことまで注意してしまっていっそうイライラしてしまいます。
ストレスに長期的にさらされてノルアドレナリンが足りなくなると、やる気が出なくなったり不注意になったり、感情が乏しくなったりします。これが「抑うつ状態」です。
ノルアドレナリンが精神の働きに対してアクセルだとすれば、ブレーキの役割を果たすのは「セロトニン」です。ノルアドレナリンの不足にともなって、セロトニンの減ってしまいます。
抗うつ薬の主成分はセロトニンを増やす物質で、ドーパミンやノルアドレナリンを増やす効果のある物質が入っていることも多いです。
まとめ
以上、この記事では、「アドレナリン」と「ノルアドレナリン」の 4つの違いについて解説しました。
アドレナリン | ノルアドレナリン | |
---|---|---|
違い1 : 生成過程 | 先 | 後 |
違い2 : 受容体 | β2 受容体 | α1, α2, β3 受容体 |
違い3 : 働く場所 | 視床下部と末梢神経系 | 脳全体と交感神経 |
違い4 : 心と体 | 各器官への作用が中心 | 脳への作用が中心 |
どちらも興奮にかかわる物質ですが、大きな違いがあるのですね。