「乱用」と「濫用」の 違いとは?意味から使い分けまで解説

違いのギモン

「薬物乱用防止を目的とした会議を行う。」
「警察は、自らの権利を濫用してはいけない。」

1 つ目の文章には「乱用」、2 つ目の文章には「濫用」という言葉が使用されています。日常生活の中で、時折目にする言葉ですね。どちらもおなじく「らんよう」と読み、同じような意味があります。

しかし、この 2 語には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。今回は、日本に長く住んでいても、なかなか知らない「乱用」と「濫用」の違いについて解説していきます。

結論:元々は「濫用」、その後「乱用」という表現が生まれた

どちらも「ある限度を超えて、みだりに使用する」という意味です。

元々は「濫用」が使われていましたが、「濫」という漢字が日常生活で使う漢字から外される候補となったことで、「乱用」という表現が広まりました。

「乱用」をもっと詳しく


「乱用」とは、「ある限度を超えて、みだりに使用する」という意味です。特に「定められた一定の社会規範を超えて使用する」という意味で使用されます。意味上は「濫用」と同じです。

元々はこの意味の言葉は「濫用」と表記していました。「乱用」という言葉の誕生には、日本の漢字の歴史が密接に関連しています。

 

現在、一般社会において使用する漢字のことを「常用漢字」といいます。これは 1981 年に発表されて以来、2010 年の内容の改定を経て、現在に至ります。

しかし、1981 年以前にも、「当用漢字」というものが定められていました。当用とは「日常生活において指しあたって用いる」という意味です。1946 年に発表されて以降、漢字学習の参考となっていました。

1954 年には国語審議会が、当用漢字から削除する候補となる 28 字を公表しました。その中には、「濫用」の「濫」の漢字がありました。

 

このことがきっかけとなり、新聞業界や放送業界では、「濫用」の代わりに「乱用」と表記するようになりました。結局「濫」は当用漢字から削除されることはなく、常用漢字にも含まれていますが、未だに新聞業界や放送業界では「乱用」と表記することが多いです。

しかし、法律の世界では特有の言い回しを重視する傾向があるため、あまり「乱用」という表記はされません。法文の中では、唯一「銃砲刀剣類所持等取締法 第 24 条の 2,4 項」に「乱用」という言葉が使用されています。

「乱用」の使い方の例

・ 警察官の権限は(中略)いやしくもその乱用にわたるようなことがあつてはならない。

→銃砲刀剣類所持等取締法第 24 条の 2,4 項の条文です。警察官の職権の「乱用」が禁止されています。

「濫用」をもっと詳しく

「濫用」とは、「ある限度を超えて、みだりに使用する」という意味です。特に「定められた一定の社会規範を超えて使用する」という意味で使用されます。意味上は「乱用」と同じです。

「濫」が当用漢字から削除される候補になって以来、新聞業界や放送業界では、「濫用」の代わりに「乱用」と表記するようになりました。その名残りとして、未だに新聞業界や放送業界では「濫用」と表記することが少ないです。

しかし、法律の世界では特有の言い回しを重視する傾向があるため、「濫用」という言葉が多く使用されます。現在 49 もの法令で「濫用」という言い回しがなされています。

「濫用」の使い方の例

・ 権利の濫用は、これを許さない

→民法第 1 条 3 項です。ルール上は合法でも、不正な目的をもって行使される権利は無効になり得ます。

まとめ

以上、この記事では、「乱用」と「濫用」の違いについて解説しました。

  • 乱用:「濫用」の代わりとして生まれた言葉。
  • 濫用:元々あった言葉。意味は「乱用」と同じ。

ちなみに「順守」という言葉も「遵守」の「遵」が当用漢字から削られる候補となったために生まれました。出来た流れとしては、「乱用」「濫用」と同じであると言えます。

「乱用」と「濫用」は、同音同義語別漢字の熟語です。通常 1 つの概念に対しては 1 つの言葉で事足りるため、読み方と意味まで同じ熟語というのはなかなかありません。その意味で、非常に面白い 2 語であるといえるでしょう。