「横領罪」と「背任罪」の違いとは?区別までわかりやすく解説

違いのギモン

「横領罪」と「背任罪」という言葉を聞いたことがありますか。どちらも刑法に定められている犯罪の1つです。窃盗罪や強盗罪、詐欺罪や殺人罪といった、ニュースやドラマでよく出る犯罪に比べると、「横領罪」と「背任罪」は知らない人も多いでしょう。

しかし、実はどちらも私たちの生活に非常に身近な犯罪です。今回は、そんな「横領罪」と「背任罪」のそれぞれの解説、さらに両者の違いを詳しく解説します。

結論:「横領罪」は人の物、「背任罪」は事務処理

「横領罪」とは、自分が管理している他人のものを、無断で自分のものにすることです。

「背任罪」とは、本来期待される任務に背く行為をし、財産上の損害を加えることです。

「横領罪」をもっと詳しく

「横領罪」とは、自己の占有する他人のものを、不法に得る意識を持って、自分のものにすることに対する罪です。ここでいう占有とは、「自分の支配下にある」という意味です。

最も一般的な「横領罪」は252条1項に規定されています。「自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。」という条文です。

 

「横領罪」の保護の対象となるのは「他人のもの」、すなわち他人の財産です。他人の財産を保護する規定、という点では、窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪と同じです。

「横領罪」とこれらの罪との一番大きな違いは、占有侵害がないことにあります。

 

窃盗罪・強盗罪・詐欺罪・恐喝罪は、相手が持っているものを、相手の意思に反して奪い取るケースを想定しています。詐欺罪は客観的には進んで財産を差し出しているようにも見えますが、被害者が加害者の企みを知っていた場合にしたであろう判断を考えれば、意思に反していると言えます。

一方、「横領罪」は、相手が同意の上で財産を自分に手渡し、管理を委ねているケースを想定しています。この点で、相手の占有(手元におくということ)に対する侵害はありません。

 

刑法における「横領罪」の規定は、次の3つです。

  1. 横領罪(252条)
  2. 業務上横領罪(253条)
  3. 遺失物等横領罪(254条)

➀の「横領罪」は、最もオーソドックスな横領罪です。誰かに信頼して預けられたものを、自分のものにしてしまうときに成立します。

例えば、同窓会で会計担当になり、参加者の全参加費を預かったとします。その時、自分の手元にあるものは、自分の所有物ではないですが、自分の支配下にある占有物です。これを無断で持ち去り、パチンコに全額つぎ込んだ場合、252条の「横領罪」が成立します。

 

➁の「業務上横領罪」は、主に人の物や金銭の保管自体を職業としている人による横領の罪です。例えば、チェーン展開している飲食店の店長が、本部に売り上げを低めに報告し、売り上げの一部を自分の財布にいれた場合、253条の「業務上横領罪」が成立します。

➂の「遺失物等横領罪」は、人の占有を離れた物を自分の物にする罪です。店員さんが誤ってお釣りを多く渡したのを「ラッキー」と思いながら受け取ることや、誰かの落とし物を拾って自分の物にすることで成立します。

➀と➁は、狭い意味での「横領罪」に該当し、「他人の信頼を裏切る」という点において、「背任罪」と共通しています。一方、➂は私たちの生活に身近ではありますが、「横領罪」というグループで見ると、例外的な立ち位置にあります。

「背任罪」をもっと詳しく

「背任罪」とは、期待された任務に背く行為をし、損害を与えることに対する罪です。信頼を裏切るという点においては、「横領罪」と共通しています。

刑法247条に規定されており、条文には「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」とあります。

 

ここでいう「他人のためにその事務を処理する者」とは、典型的には会社のために働く労働者を指します。例えば、雇用されている人が、お金を受け取る(自己の利益)代わりに企業秘密をライバル企業に漏らす(財産上の損害)場合に「背任罪」が成立します。

また、国家公務員が上司の知り合いの学校経営者に、国有地を安く売ることも「背任罪」に当たります。

 

「背任罪」の特徴は、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」という内面的な要件が細かく規定されていることです。このことを略して「図利加害目的(とりかがいもくてき)」といいます。

「背任罪」が成立するためには、財産的損害が必要です。仮に損害を与える意図で、損害を与える可能性が高い任務に背く行為をしたとしても、結果的にうまくいけば、「背任罪」にはなりません。

 

また、「横領罪」の対象となる行為は「任務に背く行為」ですが、この中には横領罪の「物を領得」する行為も含まれます。

つまり、「背任罪」という大きな処罰範囲の中の、「物を領得」するという限られた事例に「横領罪」が該当します。簡単にいうと、「横領罪」は、「背任罪」の一部なのです。

そのため、実務では、「横領罪」が成立しているか否かを確認した後、「背任罪」の成立を審査します。

まとめ

以上、この記事では、「横領罪」と「背任罪」の違いについて解説しました。

  • 横領罪:自分が管理している他人のものを、無断で自分のものにすること
  • 背任罪:本来期待される任務に背く行為をし、財産上の損害を加えること

「横領罪」や「背任罪」は、他人から物を奪う、という過程がないため、ある意味ではやりやすい犯罪であるといえます。落ちていた一万円札を財布にしまいたくなる欲求は誰にでもありますし、おそらく真面目そうに会社に勤める会社員の何人かは、「背任罪」に手を染めているのでしょう。

犯罪が明るみに出て、逮捕されるリスクを常に頭の片隅に入れながら、健全な生活をしていきましょう。