今回ご紹介する言葉は、カタカナ語の「アブダクション」です。
「アブダクション」の意味、「帰納法」「演繹法」との違い、使い方、語源、類義語について分かりやすく解説します。
☆「アブダクション」をざっくり言うと……
英語表記 | アブダクション(abduction) |
---|---|
意味 | 誘拐 |
「アブダクション」「帰納法」「演繹法」の違い | 帰納法:複数の実例から共通点を見つけ出し一般的な法則を導き出すこと 演繹法:既知の前提から論理的に思考して結論を導き出すこと アブダクション:理解できない物事の原因を仮説を立てて推論すること |
語源 | abduction |
類義語 | 仮説的推論 |
このページの目次
「アブダクション」とは?
「アブダクション」の意味を詳しく
「アブダクション」には以下の3つの意味があります。
- 【一般】「誘拐」の意味
- 【法学】「婦女誘拐」の意味
- 【哲学】「仮説的推論」の意味
それぞれの意味について詳しく見ていきましょう。
【一般】「誘拐」の意味
「アブダクション」は一般的には「誘拐」という意味です。
特に宇宙人に誘拐されることを「アブダクション」と呼ぶことが多いです。宇宙人による誘拐は「エイリアン・アブダクション」と区別して呼ぶこともあります。
【法学】「婦女誘拐」の意味
「アブダクション」は法学では「婦女誘拐」の意味を持ちます。
婦女誘拐とは、強制的に結婚させたり、売春させたりするために女性を誘拐することです。
婦女誘拐をした場合、「略取誘拐罪」という罪に問われます。
【哲学】「仮説的推論」の意味
「アブダクション」は哲学では「仮説的推論」という意味です。
「仮説的推論」の意味について、帰納法や演繹法との違いも含めて下で詳しく解説していきます。
「アブダクション」「帰納法」「演繹法」の違い
「アブダクション」「帰納法」「演繹法」のそれぞれの意味は以下のとおりです。
それぞれの意味について詳しく見ていきましょう。
帰納法:複数の実例から共通点を見つけ出し一般的な法則を導き出すこと
帰納法とは、複数の実例から共通点を見つけ出し一般的な法則を導き出すことです。
たとえば、以下の3つのことがわかっていたとします。
- 部屋のホコリを掃除したら鼻の調子が良くなった
- 掃除をサボっていたら鼻の調子が悪くなった
- ホコリが多い部屋に行くと鼻の調子が悪くなる
ここから、「鼻の調子が悪い原因はホコリである」という結論が導き出せます。
ただ、帰納法には「複数の実例から導き出せる一般的な法則が必ずしも正しいとは限らない」という欠点もあります。
たとえば、上の例では鼻の調子が悪い原因はホコリではなく、花粉である可能性もあるのです。
帰納法で導き出された結論は本当に正しいものなのか、確かめる必要があります。たとえば、上の例で言えばホコリによる鼻の不調に効く薬を処方してもらうのが確かめる方法と言えます。
演繹法:既知の前提から論理的に思考して結論を導き出すこと
演繹法とは、すでに知っている結論から論理的に思考して結論を導き出すことです。たとえば、三段論法は有名な演繹法と言えます。
たとえば、以下の2つのことがわかっていたとします。
- 私は背が低い
- 背が低い人はモテない
すると、この2つの前提から、「私はモテない」という結論が導き出せます。
演繹法では、「AはBである」「BはCである」という2つの前提が間違っていなければ、出てくる「AはCである」という結論は必ず正しいものになります。
ただ、前提が間違っていた場合は結論も間違ったものになってしまうので注意が必要です。
アブダクション:理解できない物事の原因を仮説を立てて推論すること
アブダクションとは、理解できない物事の原因を仮説を立てて推論することです。アブダクションはアメリカの哲学者パースが初めて提唱しました。
アブダクションでは、目の前で起きている事象からもっとも妥当だと考えられる推論をします。たとえば、以下のことが起こっていたとします。
ここから考えられる、もっとも妥当な推論は「子供が泣いているのは、自転車から落ちて怪我をしたからだ」というものです。
しかし、アブダクションでは推論は仮説でしかなく、本当に合っているとは限らないので注意が必要です。
たとえば、上の例では本当は子供が泣いているのは「お母さんに置いていかれて不安になったから」かもしれません。
「アブダクション」の使い方
- エイリアン・アブダクションを経験した人の体験談を聞いた。
- アブダクションは犯罪だ。
- 彼はアブダクションが得意なので、仕事が早い。
③の例文のアブダクションは「仮説的推論」という意味です。
「アブダクション」の語源
アブダクションの語源は英語の “abduction” です。
英語の “abduction” の意味は以下のとおりです。
- 誘拐
- 外転
- 仮説形成
カタカナ語のアブダクションとほぼ同じ意味です。ただ、「外転」の意味はカタカナ語にはありません。
「外転」とは、生理学の用語で、体の中心軸から離れるような体の一部分の動きのことです。たとえば、手を横にピンと伸ばす動きが「外転」にあたります。
ちなみに、「仮説的推論」の意味の「アブダクション」の語源はアリストテレスの著書です。
アリストテレスの著書である「分籍論前書」で説明されている「アパゴーゲー(apagōgē)」という言葉をアメリカの哲学者パースが “abduction” と訳したのです。
「アブダクション」の類義語
アブダクションには以下のような類義語があります。
- 仮説的推論
- リトロダクション
まとめ
以上、この記事では「アブダクション」について解説しました。
英語表記 | アブダクション(abduction) |
---|---|
意味 | 誘拐 |
「アブダクション」「帰納法」「演繹法」の違い | 帰納法:複数の実例から共通点を見つけ出し一般的な法則を導き出すこと 演繹法:既知の前提から論理的に思考して結論を導き出すこと アブダクション:理解できない物事の原因を仮説を立てて推論すること |
語源 | abduction |
類義語 | 仮説的推論 |
アブダクションは少し難しい言葉ですが、知っておくと思考の幅が広がります。意味を押さえておきましょう。