日本の地域区分の名前として定着しているのは「県」。明治時代に行われた廃藩置県以来、定着した名前です。
しかし、まわりの国を見てみると、「県」が使われている国は意外と少ないことに気づくでしょう。
アメリカやロシアでは「州」、中国では「省」、韓国では「道」というように、国によって地域区分の名前は全く異なります。
「州」「県」「省」それぞれの違いは何でしょうか。
結論:権限の大きさによって訳しわけている
国によって地域区分の呼び方はまちまちです。名前の違いは、日本語に訳すときに生まれるものです。
「州」は「県」に比べて範囲が大きく、自治の権限も多く与えられている傾向があります。
「省」は中国とベトナムでのみ使われている呼び名です。
いくつかの国の地域区分の呼び名を、3つの訳語に分けて紹介します。
「州」をもっと詳しく
「州」は、「県」に比べて範囲が広く、強い自治権を与えられている場合に使われる訳語です。
アメリカ合衆国などの「連邦制」を導入している国の地域区分として使われる場合がほとんどです。
「州」は「県」に比べて自治権が強いとはどういうことでしょうか。
たとえば、アメリカでは、州ごとに憲法と軍隊を持ち、かなり独立した権限を持っています。このため、学校で教えられる内容や自動車免許を持てる条件など、日本では全国で統一されていることが州ごとに異なっています。
死刑やマリファナなどの、意見の分かれる事がらも、州ごとに認められているかどうか異なります。
訳語としての「州」の成り立ち
日本でも「信州」「九州」などと「州」をつけて地域を呼ぶことがありますよね。
地域区分を表す名前として「州」が使われ始めたのは、古代中国にさかのぼれます。今からおよそ 2500年ほど前にあった周王朝の時代に既に「州」の名前が使われています。
唐王朝でもそれが続けられ、州都に政府から役人が派遣されました。「広州」「福州」などの都市名は、その名残なのですね。
唐王朝が州の名前を使い続けたため、唐を見習っていた日本でも州の呼び名が使われるようになりました。「信濃国」「武蔵国」などの旧国を、国のかわりに州と呼ぶことがありました。
二文字の地名が多い中国にならって、日本でも「○州」という旧国名の呼び方が広まります。「信州」の他にも、「上州」(上野国:今の群馬県)や「遠州」(遠江国:今の静岡県西部)など、今も全国で「○州」の呼び方は定着しています。
世界の「州」
アメリカだけではなく、連邦制をとる多くの国の地域区分が州と訳されています。
主要なものを表にしてみました。
国 | 現地語の呼び名 | 数 | 州の平均人口 |
---|---|---|---|
アメリカ合衆国 | State | 50 | 約 650万人 |
カナダ連邦 | Province | 13 (10の州と3つの準州) | 約 280万人 |
オーストラリア連邦 | State | 8 (6つの州と2つの特別地域) | 約 300万人 |
ロシア連邦 | о́бласть (oblast) | 46 (地方、共和国などの州と同等な 地域区分と合わせて83) | 約 180万人 |
ドイツ連邦共和国 | Bundesland (「連邦州」と訳す) | 16 | 約 520万人 |
日本国【比較用】 | 県 (Prefecture) | 47 | 約 270万人 |
「県」をもっと詳しく
「県」は地方自治の単位の訳語です。一つの国の単位のままでは様々な不便がある上に、地域ごとのニーズにこたえきれないため、「基礎行政単位」として県に分割し、それぞれが地方自治を行っています。
州と違って、県は国に準じるほどの権限はありません。しかし、日本では県が高校や病院などを置いたり条例を制定できたりするように、県は地域の行政を担っています。
「県」の成り立ち
地域区分としての「県」という言葉は、中国を初めて統一した秦の始皇帝が始めた「郡県制」で初めて使われました。
全国を郡に分けて、その下に県を置くというものです。現在の日本では「○○県△△郡××町」と住所を書くので、郡の下に県があるのは不思議に感じるかもしれません。実は、県の扱いはその後も王朝によってまちまちでした。
現在の中国でも「県」は使われていますが、省とあわせて説明します。
日本の都道府県
日本の地域区分は、1都1道2府43県の「47都道府県」が基本になっています。それぞれの呼び名の違いは何でしょうか。
「都」をもっと詳しく
東京だけが名乗る「都(と)」は、戦時中に首都東京の管理をしやすくするために、東京市(現在の東京23区)を府が直轄する「特別区」に変えて、それに合わせて東京府から東京都に名前も変わりました。
世論をにぎわせた「大阪都構想」は記憶に新しいでしょう。都構想が目指したものは、府から都に名前を変えることだけでなく、大阪市にあたる部分を東京特別区(23区)のように都が直轄することを目指したものでした。
「道」をもっと詳しく
「道」は北海道だけで使われている呼び名ですよね。
明治時代に、「東海道」「南海道」などの昔の地方区分に合わせて「蝦夷地」を「北海道」と呼ぶことにしたのが「北海道」の始まりです。その後、府県と同じ権限を北海道に与えるにあたって、「道」を府県と同列に扱うようにしたので北海道だけ「道」のままなのです。
「北海道」が府県と同格のものとして置かれる前の数年間、北海道が3つの県に分かかれていました。東側の「根室県」にいたっては人口2万人足らずで、県に分ける必要がないと判断されて県は廃止され、「北海道」に統一されます。
「府」をもっと詳しく
「府」は大阪と京都だけが使っていますが、戦前は東京も府でした。この3つは江戸時代以来政治的・経済的に大事な地域だったので、役所を意味する「府」と意識的に呼び分けられました。
世界の「県」
一番大きな地域区分に「県」を使っている主な国を表にしてみました。イタリアやスペインなど、州の下に県を置いている国もたくさんあります。
国 | 現地語の呼び名 | 数 | 県の平均人口 |
---|---|---|---|
日本国 | 県 (Prefecture) | 47 | 約 270万人 |
フランス共和国 | département (デパルトマン) | 101 (本土96県と5つの海外県) | 約 60万人 |
タイ王国 | จังหวัด (チャンワット:Province) | 77 (バンコクを含む) | 約 90万人 |
「省」「道」をもっと詳しく
地域区分を表す漢字は、県だけではなく州、省、道、郡などたくさんあります。漢字文化圏では、昔から中国の制度にならった区分が行われていたため、今も様々な呼び名が混在しています。
「州」「県」以外を詳しく見ていきます。
複雑怪奇?中国の「省」
「省」は、日本では総務省や厚生労働省などの役所の名前で使われているように、もともと「役所」を意味する言葉です。
中国の地域区分が「省」と呼ばれているのは、役所が置かれたためです。元王朝の時代に「行中書省」という「中書省」の出張所が各地に置かれるようになったのが地域区分としての「省」の由来です。
現在の中国では、「省」-「地」-「県」-「郷」の4段階の地域区分が置かれています。
「省級行政区」(省と同格の行政区分)として、自治区、直轄市、特別行政区が置かれています。たとえば、「新疆ウイグル自治区」は、名前に「省」とつかないものの省と同格に扱われています。
4段階の区分にはそれぞれ「副○級行政区」があります。たとえば、「省」に準じるほど大きな市は「副省級市」として扱われます。「県」に準じる大きさなら「副県級市」となるのですが、「地級」「副地級」「県級」の市もあります。
同じ「○○市」でも、省級から副県級まで様々な段階にあるので、注意が必要です。
このため、中国の行政区分は名前だけではわかりにくくなっています。
「省」を地域区分に使っているのは中国以外ではベトナム(tỉnh)だけです。
朝鮮半島の「道」
韓国と北朝鮮で使われている地域区分は「道」です。
「道」の名前は高麗王朝から使われ始め、朝鮮王朝の時代に8つの道が置かれました。現在の13道は19世紀末の朝鮮王朝の改革のときの区分が受け継がれています。
現在、韓国ではソウルなどの特別市・広域市、北朝鮮ではピョンヤンなどの直轄市が道から分割されて置かれています。しかし、「道」の区分は健在です。
まとめ
以上、この記事では、「州」「県」「省」の違いについて解説しました。
- 州:連邦制の国を中心に使われていて、権限が強い
- 県:州に比べて規模が小さく権限も弱い
- 省:中国とベトナムで使われている
外国の地域の呼び名は一筋縄ではいかないのですね。