「信用できる証言」や「彼を信頼している」などのように、何かを信じる時に使う言葉である「信用」と「信頼」。同じ意味だと思って混同してしまいがちかもしれませんが、両者の意味は実は違うのです。
たとえば、「信頼関係」とは言っても「信用関係」とは言わなかったり、「信用取引」とは言っても「信頼取引」とは言わなかったりします。ニュアンスの違いは、どこから来るのでしょうか。
今回は「信用」と「信頼」の違いについて解説します。
結論:過去を「信用」し、未来を「信頼」する。
一方、「信頼」とはある人物に対して、未来の行動を信じて期待することを指します。
「信用」をもっと詳しく
「信用」とは、成果物や過去の行動実績などを評価して、確かな出来栄えであると信じて受け入れることを指します。目に見える形のものに基づいて行われるため、「信用」は客観的なもの・実体のある何かに基づいているものと言えます。
たとえば、商品のクオリティやある人物の成績などに関して「信用」が使われることが多いです。点数などで基準を設けて、品質や成績がある一定の水準を超えた場合に、その商品や人物は「信用」されることになります。
また、「信用」は過去の成果や行動に対しての評価であるため、後に解説する「信頼」と違って、一方的な気持ちの働きかけであると言えます。また、「信用」は積極的な心の働きかけではなく、成果といった客観的な材料から自然に導かれるものが「信用」だと言えます。
「信用」の使い方の例
- 彼の証言にはきちんとした裏付けがあり、信用できる。
- 電話応対が悪いことは、店の信用を落とすことに繋がる。
- 期限内に提出しないと信用を失う。
- クレジット会社は、顧客の信用情報を管理している。
②での「信用を落とす」とは、それまでの実績から築いてきた「信用」が、「電話応対が悪い」という負の実績によって損なわれてしまう可能性を言ったものです。
③の「信用を失う」は、「期限以内に提出しない」という悪い行いが、他者からの自身に対する評価を下げるということを言っています。
④の「信用情報」とは、クレジットカードを使用する(現金決済をしない)顧客が、過去にきちんとお金を返済してきたか同課に関する情報のことを指します。過去の実績が「信用」となり、クレジット会社が一時的にお金を支払うのです。
ちなみに、クレジットカードは英語の credit から来ています。「信用」によって購入する際に利用するカードということです。
「信頼」をもっと詳しく
「信頼」とは、人に対して未来の行動を期待して、この人には任せても大丈夫だと頼りにすることを指します。英語では trust(トラスト) と言います。未来のことは予測出来ないことから、信用に比べて「信頼」は主観的なものです。
「信頼」は、多くの場合は、その人が過去にどれだけの成果を出してきたかを評価した上で論理的に行われます。これは、「信用に基づいた信頼」と言えます。ただ、「信頼」は、無条件に相手の行動を信じることもその意味に含んでいます。
例として、企業等における採用面接の場面について考えてみましょう。面接官は、学歴や仕事歴など、「応募者がやってきたこと」についてのデータを集め、そこから「信用」の度合いを測るでしょう。
一方で、応募者の話し口調や性格など、パーソナルな部分も同時に見ているでしょう。パーソナルな部分に関しては明確な保証はどこにもなく、直感に近い形で応募者を信じるか信じないかのどちらかになります。このように、裏付けのないことについて、相手を信じることも「信頼」なのです。
また、「信用」は成果物や行動に対する評価という一方的なものであるのに対し、「信頼」には人に期待を寄せる気持ちとその期待に応えようとする気持ちによる双方向のやり取りがあります。
アドラー心理学における「信頼」
「信頼」は、期待とそれに応えようとする気持ちの双方向のやり取りがあると述べました。そこで、もし期待通りに相手が行動しなかった時、「裏切られた」といった気持ちになったことはないでしょうか。
アドラー心理学は、「信頼」と裏切りという感情を切り離しています。アドラー心理学とは、オーストリアに生まれたアフレッド・アドラーが築き上げた心理学であり、現在の自分の意識や行動が未来を形作るという目的論がその特徴です。
アドラー心理学において、「信頼」とは、他者を信じるにあたり、条件を付けないことを言います。信用できるだけの客観的な材料がなくとも、相手をとにかく信じ切ることが「信頼」と定義されるのです。
とはいえ、もし信じ切った相手に、騙されたり良いように利用されたりしたらどうするのかと感じる方もいらっしゃるでしょう。そんな疑問に対して、アドラー心理学は次のように答えます。以下は、アドラー心理学がテーマとなっている著作『嫌われる勇気』の一節です。
あなたから裏切られてもなお、無条件に信じ続けてくれる人がいる。どんな仕打ちを受けても、信頼してくれる人がいる。そんな人に対して、あなたは何度も背信行為を働くことができますか?
[出典:『嫌われる勇気』p232]
どんなことがあっても、まずは信じてみることが深い人間関係を築くことにつながると、アドラーは説いているのです。逆に疑いの気持ちから人間関係を始めると、その不信感が相手にも伝わり、築けたかもしれない良好な関係を損なうことにつながるという考え方でもあります。
アドラー心理学における「信頼」についても、ひとつの考え方として頭に入れておくのも良いでしょう。
「信頼」の使い方の例
- 彼はいつも良い結果を残してくれるので信頼できる。
- 彼には何も実績はないが、失敗を恐れずに挑戦しようとする姿勢を見て、信頼したくなった。
- 信用なくして信頼なし。
- 信頼しても信用するな。
②では、実績はない、つまり「信用」はないものの、「失敗を恐れずに挑戦する姿勢」に胸を打たれ、未来に期待することを「信頼」と言っています。
③は、過去の成果や行動が高く評価できない限り、未来に期待を寄せることは出来ないという意味です。すべてがこのケースではないですが、一理ありますよね。
④は、未来の行動に期待をしたとしても、未来は予測できないため、結果を保証するのはまだ早いという戒めです。
使い分けが顕著な例
「信用」と「信頼」は似ていますが、具体的な用語における使い方を見るとその違いがわかりやすくなります。以下では、「信用」と「信頼」のそれぞれを用いた固有の用語について解説します。
①信用取引
「信用取引」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「信用取引」は、株式の運用に関する金融用語です。
株式を運用しようとする場合、証券会社にお金を払い、株式を購入します。この時、入金した額以内で株式の売買をすることを「現物取引」と言います。
それに対して、証券会社に入れたお金と証券会社から借りたお金でもって株式を購入することを「信用取引」と言います。ここでは、顧客にお金を貸すという部分に「信用」が存在しています。
ただ、「信用」は過去の成果や実績をもとに行うものであるため、無条件ではありません。「信用取引」では、お金を借りることに関して、委託保証金を証券会社に支払うます。委託保証金とは、お金を借りることについての「信用」を得るための担保金です。
つまり、担保としてのお金を払っているということが顧客としての「信用」になっているのです。
もし、「信頼取引」という表現があったとしたら、意味がまったく変わってしまいます。「信頼」は、実績がない人に対しても未来に期待することを指す言葉です。そのため、「信頼取引」だと、何の担保もなしにお金を貸すという意味になりかねませんし、それではそもそも取引ではありません。
「信用」と「信頼」の違いが、見えてきたでしょうか。
②信頼関係
「信頼関係」という表現は、目にすることが多いのではないでしょうか。この言葉は、「信用関係」とは言いませんよね。ここにも、「信用」と「信頼」のニュアンスの違いが顕著に現れています。
「信用」が相手の過去に対する一方的な評価であるのに対して、「信頼」には相手の未来に期待を寄せる気持ちと、それに応えようとする気持ちの2つが存在します。つまり、「信頼」には双方向の感情が存在するのです。
「関係」とは人と人との間柄を指す言葉であるため、「信頼」と相性がよいのです。
まとめ
以上、この記事では、「信用」と「信頼」の違いについて解説しました。
- 信用:過去の成果や行動を確かなものと信じて受け入れる。
- 信頼:未来の行動に期待して頼りにする。
過去に対する「信用」と未来に対する「信頼」という明確な時間軸の違いがありますが、この 2つは連なっているものです。信用が信頼へとつながり、信頼の気持ちに応えることが更なる信用へとつながります。信用も信頼もされる人になりたいですね。
⦿参考文献
岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(2013) ダイヤモンド社