「わびさび」という言葉を聞いたことがありますか。日本の美意識として有名ですが、ちゃんとしたニュアンスは分からない人も多いと思います。
「わびさび」とは、実は1つの言葉ではなく、「わび」と「さび」の2語を組み合わせたものです。そのため、「わび」と「さび」のニュアンスを知ることで、初めて「わびさび」という言葉の意味を理解することができます。
東京オリンピックが近づくにつれて、多くの外国人が日本に来るでしょう。今回は、初めて日本に来た海外の人に日本文化を紹介する上で欠かせない、「わび」と「さび」の概念について解説していきます。
結論:「わび」は質素さの中の趣。「さび」は古さと寂しさの中の趣。
「さび」は「寂ぶ」の名詞形。古びた空間の寂しさの先にある日本の美意識。
「わび」をもっと詳しく
「わび」は、日本語の古語である「侘ぶ」という動詞に由来します。「侘ぶ」は「気落ちする、落ちぶれる、貧乏になる、困る」という意味を持っていました。つまり、劣った状態を表す否定的な意味の言葉でした。そこから転じて「質素で簡素な暮らしをする」という意味になりました。
現在の「わび」は、質素で簡素な状況の中に美しさを見出す日本の美意識を表す言葉です。不足・欠如・欠乏・不自由といった足りない状況下で、静寂で閑静な中から生まれる趣を楽しむ、というニュアンスです。
「わび」は千利休や松尾芭蕉と深く関わっています。
茶道の一つの形式に「わび茶(侘茶、侘び茶)」というものがあります。「わび茶」は村田珠光(むらたじゅこう)から始まり、千利休が完成させました。これは豪華できらびやかな茶道とは異なり、簡素で「わび」を重要視したものでした。世俗的な価値観から外れたものとして評価されました。
「わび茶」は安土桃山時代に流行りました。千利休のように簡素で閑静な茶の湯を好む茶人のことを「侘び数寄(わびすき)」といいました。
さらに江戸時代前期に俳句を発展させた松尾芭蕉(ばしょう)も「わび」という概念を重視しました。実際に松尾芭蕉の句にも「わび」という言葉が登場しています。
「さび」をもっと詳しく
「さび」は、日本語の古語である「寂ぶ(荒ぶ)」という言葉に由来します。「寂ぶ」は「荒れた気持ちになる、色褪せる、さびる、古くなる」といった意味を持っていました。つまり、時間がたち、生命力がなくなっていく様子を表す否定的な意味の言葉でした。
現在ではそこから転じて、静寂さ、寂しさの内にある美しさを表すようになりました。「わび」と同様に日本の美意識を表す言葉です。古くなることで出てくる味わい、枯れた空間の中に感じられる趣が「さび」という言葉の中に込められています。
「わび」と同じく、松尾芭蕉が重要視した概念です。芭蕉により主導され、影響された俳句の作風のことを蕉風俳諧(しょうふうはいかい)といいますが、その理念の中心の1つとして「さび」があります。
まとめ
以上、この記事では、「わび」と「さび」の違いについて解説しました。
- わび:無駄な装飾を排除した先にある、質素さの中の美
- さび:古く、寂しい空間の中にある美
海外、特にヨーロッパの観光名所としては、豪華絢爛な建造物や、荘厳な建物などが多いでしょう。モン-サン-ミシェル修道院やヴェルサイユの宮殿などは美しく、圧倒的な存在感を感じさせる建物です。
日本の「わび」「さび」の概念は、それらとは対照的に「質素さ」「古さ」「静けさ」を重要視するものです。例えば、京都の銀閣寺や茶室などは「わび・さび」を体現した歴史的建造物であるといえるでしょう。
どちらが優れているということはありませんが、「わび・さび」が非常に日本的で独自の美意識であることは間違いないでしょう。日本人としてしっかりと理解しておきましょう。