今回ご紹介する言葉は、熟語の「彼岸(ひがん)」です。
言葉の意味・使い方・類義語・英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「彼岸」をざっくり言うと……
読み方 | 彼岸(ひがん) |
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意味 | 仏教の言葉で、理想の境地のこと。また、春分と秋分の日のそれぞれをはさんだ 7日間のこと。 |
語源 | サンスクリット語の「パーラミター」 |
対義語 | 此岸 |
英語訳 | Buddhist services held during the week of the equinox.(お彼岸) |
「彼岸」の意味をスッキリ理解!
「彼岸」の意味を詳しく
「彼岸」はもともと仏教の言葉で、苦しみが全くないとされる境地を意味します。
仏教における「彼岸」は、生死の間を川で喩(たと)えた時に、その向こう岸を意味します。岸の向こうには、苦しみのない悟りの世界があるとされています。「彼岸」は、仏教の中でも浄土系の宗派が用いる考え方です。
浄土宗では、死者は阿弥陀如来(あみだにょらい)の導きによって、彼岸に渡ることができるとされています。阿弥陀如来とは、仏教において、悟りを開いた人のことです。
「彼岸」に対して、人間が住む苦悩にあふれた世界を「此岸(しがん)」と言います。「此岸」から「彼岸」に行くには、以下の 6つの修行「六波羅蜜(ろくはらみつ)」をする必要があるとされています。
- 布施(ふせ):見返りを求めず、他人に恵みを与えること
- 持戒(じかい):常識を持って、自らを抑制すること
- 忍辱(にんにく):恥を耐え忍び、心を平静に保つこと
- 精進(しょうじん):努力を惜しまないこと
- 禅定(ぜんじょう):心を落ち着かせ、邪念を捨てること
- 智慧(ちえ):道理を見極めること
季節の区切り目としての「彼岸」
「彼岸」は、春分の日と秋分の日を挟んだ 1週間を指す表現としても使われます。この時期を「彼岸」と言う理由は、西方浄土(さいほうじょうど)という考え方から来ているとされています。
西方浄土とは、仏が住んでいる極楽浄土の西の世界、つまり「彼岸」のことです。
春分の日と秋分の日には、太陽が真西に沈みます。その時に、「此岸」と「彼岸」の世界が通じ合っているのではないかと考えられていたのです。そのため、真西に向かって念仏を唱えれば、「彼岸」までたどり着くことが出来ると信じられていました。
このことから、春分の日と秋分の日を含む前後 3日間を「彼岸」と言うようになったとされています。春分の日と秋分の日は「彼岸の中日(なかび)」、前後の 3日間をそれぞれ「彼岸の入り」「彼岸の明け」と言います。
「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉を聞いたことはないでしょうか。これは、「彼岸」の時期の気候をもとに作られた慣用句です。春分の日には冬の寒さもなくなり、秋分の日には夏の暑さもなくなってくるということです。
「彼岸」の行事
「彼岸」の時期は、春分の日と秋分の日を挟んだ 1週間です。「春のお彼岸」と「秋のお彼岸」の 2つがあります。一般的に、行事において、「彼岸」は「お彼岸」と呼ばれることが多いです。
人々は、この「お彼岸」を供養(くよう)の節目(ふしめ)として、墓参りをします。これは、「此岸」と「彼岸」が通じ合っている時こそ、死者を供養することがふさわしいと考えられてきたためです。
家庭によっては、「春のお彼岸」に、ぼたんの花に見立てたぼたもちを食べる習慣があります。そして、「秋のお彼岸」には、萩(はぎ)の月に見立てたおはぎを食べます。
「お彼岸」の歴史
この「お彼岸」の習慣は、どのようにして人々に広まったのでしょうか。
「お彼岸」の習慣は、日本独自のものです。日本と同じく仏教の国である、インドや中国にはありません。
「お彼岸」のはじまりは、桓武天皇(かんむてんのう)が亡くなった日とされています。
桓武天皇は、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)を征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)にしたり、奈良の平城京から京都の平安京に都を移したことで有名な人物です。
桓武天皇は806年に亡くなり、「彼岸会(ひがんえ)」という法要が営まれました。「彼岸会」の習慣はその後も続き、平安時代中頃の『蜻蛉(かげろう)日記』や『源氏(げんじ)物語』の作中にも書かれています。
お葬式(そうしき)が盛んに行われた室町時代からは、先祖を供養するための仏教行事として、「彼岸会」は人々の習慣となりました。やがて、「彼岸会」をする時期のことを「お彼岸」と言うようになったのです。
「お彼岸」の歴史は、1200年以上あるのです。
「彼岸」の使い方
- もうすぐお彼岸なので、墓参りに出かけよう。
- 近所のお寺で彼岸会の行事を行った。
- 仏道(ぶつどう)修行をし、悟りを開いた者だけが彼岸に渡れる。
③では、仏教において、修行を重ねた後に行ける理想の境地という意味で「彼岸」が使われています。
「彼岸」の語源
「彼岸」は、サンスクリット語のパーラミターが語源とされています。
パーラミターとは、苦悩や悩みを乗り越えて到達する境地のことを言います。パーラミターは「到彼岸(とうひがん)」と訳され、それが省略されて「彼岸」となりました。
「到彼岸」とは、「彼岸」にたどり着くことを意味します。仏道修行を通して、「彼岸」へと到達することを指します。
「彼岸」の対義語
「彼岸」には以下のような対義語があります。
- 此岸(しがん):人間の世界
「彼岸」の英語訳
「彼岸」を英語に訳すと、次のような表現になります。
- The week of the equinox
(お彼岸) - Buddhist services held during the week of the equinox
(お彼岸)
また、「春分の日」は “Spring Equinox Day”、「秋分の日」は “Autumnal Equinox Day” と言います。
まとめ
以上、この記事では「彼岸」について解説しました。
読み方 | 彼岸(ひがん) |
---|---|
意味 | 仏教の言葉で、理想の境地のこと。また、春分と秋分の日のそれぞれをはさんだ 7日間のこと。 |
語源 | サンスクリット語の「パーラミター」 |
対義語 | 此岸 |
英語訳 | Buddhist services held during the week of the equinox.(お彼岸) |
現代の日本では、「お彼岸」の習慣が失われつつあります。ご先祖様がいなければ私たちは存在していないのであり、いつもご先祖様に感謝する心を忘れてはいけません。
「お盆(ぼん)」だけでなく、「お彼岸」にも、ご先祖様に会いに行ってはいかかでしょうか。そして、普段はなかなか食べる機会がない和菓子である、ぼたもちやおはぎを食べましょう。
他の国にはない、日本独自の文化を大切に受け継いでいきましょう。