なぜ大人は、怒ったり、イライラしたりしても、簡単に暴力を振るわないのでしょうか。気に入らない人を殺さないのでしょうか。
様々な理由が考えられますが、主なものとしては2つあります。1つは教育により常識・社会のルールが体に染みついていること。もう1つが法律です。
法律、特に刑法は社会秩序を乱す行動が明らかになった場合、公権力により加害者に一定の刑を与えます。刑は、行動の危険性・深刻さに応じて重くなり、それは全国民に対する強力な抑止力となります。
さて、日本の現行刑法において最も重い刑罰とは「死刑」です。では、その次は何でしょうか。「無期懲役」でしょうか。それとも「終身刑」でしょうか。この2つのは非常に紛らわしく、どちらが重く、どのような違いがあるのか、分からない人も多いと思います。
今回は、強力な刑罰である「無期懲役」と「終身刑」の違いについて解説していきます。
結論:日本にあるのは「無期懲役」。「仮釈放」の可能性アリ。
一方「終身刑」は日本にはなく、「仮釈放」は許されません。しかし、「終身刑」は多義的であり、「無期懲役」と同様の意味で使用する時もあります。
「無期懲役」をもっと詳しく
懲役刑とは、受刑者を刑務所などの刑事施設に留置する刑罰です。このような受刑者の身体の自由を奪う刑罰のことを「自由刑」と言います。「自由刑」には、禁固刑や拘留刑も含まれます。懲役刑は、刑事施設において長期間身柄拘束をされると同時に、労働も科されることが特徴です。
懲役刑には「有期懲役」と「無期懲役」があります。「無期懲役」とは、懲役刑の中で解放される期限がない刑のことです。刑期通りにいけば、受刑者はいつまでも刑事施設に留置されます。現行の日本刑法においては、「死刑」に次いで重い刑罰です。
平成29年11月の法務省のデータによると、平成28年時点で「無期懲役」を執行中の受刑者が1815人、1年間での新受刑者数が14人、仮釈放者数が9人、死亡した受刑者数が27人でした。「無期懲役」の受刑者の平均年齢は57.4歳でした。
仮釈放とは?
仮釈放とは懲役・禁錮刑の受刑者が、刑期を残した状態で、仮に釈放される制度です。刑法28条に定められています。釈放されたからといって刑が終了したわけではないため、遵守事項を破れば、再び収監されます。
仮釈放の制度により、次の条件が満たされた場合に、「無期懲役」の受刑者があっても仮に釈放される場合があります。
- 改悛(かいしゅん)の情があること
- 刑の執行開始後10年が経過すること
「改悛」とは、自分が犯した罪を悔い、深く反省した上で、心を入れ替えることです。つまり「改悛の情がある」とは、受刑者が再び犯罪を犯す心配がないと、客観的に認められる程度にまで深く反省していることを指します。
これは被害者に対する謝罪の気持ちの有無、刑事施設における生活態度、釈放後の生活の計画、検察官の意見などから判断されます。
また、現在の有期刑の上限は30年です。つまり、「29年の懲役に処する」とすることはできても、「31年の懲役に処する」とすることはできません。
刑法28条の条文では10年の経過が、仮釈放の条件の1つとなっていますが、有期刑との平等性の観点から、通常30年以上の懲役の後、仮釈放されます。
「無期懲役」が科される犯罪
- 外患援助罪(刑法82条)
- 現住建造物等放火(刑法108条)
- 激発物破裂罪(刑法117条1項前段)
- 現住建造物等浸害(刑法119条)
- 殺人罪(刑法199条)
- 強盗致死罪(刑法240条)
- 強盗強姦致死(刑法241条後段)
- 通貨偽造・変造・行使罪(刑法148条)
- 爆発物使用罪(爆発物取締罰則1条)
- 航空機強取等致死(航空機の強取等の処罰に関する法律2条)
- 航空機墜落致死(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律2条3項)
- 人質殺害罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律4条)
- 組織的な殺人(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条7号)
「無期懲役」になり得る犯罪としては、非常に多くの種類があります。しかし、現実に起こる頻度では、大きな差があります。現実に「無期懲役」が科されている人は、多くが殺人罪・強盗致死罪・強盗強姦致死を行っています。
またこれらの罪をおこなったら即「無期懲役」が科されるわけではなく、事件の様々な状況を考慮して刑が決定します。例えば、殺人罪の刑法199条の条文は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」となっています。
つまり、殺人を犯したという事実は同じであっても、殺した人数・動機・殺害方法・自首の有無など、様々な要素を総合的に考え、軽ければ懲役5年、重ければ死刑になるということです。
「終身刑」をもっと詳しく
「終身刑」とは、死ぬまで刑事施設で収監される刑罰のことです。「無期懲役」と似ていますが、日本の刑事法には存在しません。アメリカの一部の州、ヨーロッパなど死刑がない国・地域においては、最も重い刑罰となっています。
「終身刑」には、「絶対的終身刑」と「相対的終身刑」の2つがあります。「絶対的終身刑」とは、「仮釈放」のない無期限の懲役刑のことです。「終身刑」というとき、これだけを意味している時もあります。
一方「相対的終身刑」とは、「仮釈放」のある無期限の懲役刑のことです。「相対的終身刑」は「無期懲役」とほぼ同じ意味です。
「終身刑」がある国の例
- 中国
- アメリカ合衆国
- イギリス
- オーストラリア
- デンマーク
まとめ
以上、この記事では、「無期懲役」と「終身刑」の違いについて解説しました。
- 無期懲役:「仮釈放」の可能性あり
- 終身刑:「仮釈放」の可能性なし
現在、世界全体、特に先進国において「死刑」を行う国は少数派となっています。「死刑」の是非は非常に難しい問題ですが、他国からの圧力次第では、日本でも「死刑」が廃止される未来もあるかもしれません。
そうなったら代わりとして「終身刑」が導入される可能性はあります。正直「終身刑」という言葉は定義が曖昧な部分はありますが、「無期懲役」との違いは覚えておいて損はないでしょう。