今回ご紹介する言葉は、故事成語の「演繹(えんえき)」です。
意味、由来、対義語、英語訳についてわかりやすく解説します。
☆「演繹」をざっくり言うと……
読みかた | 演繹(えんえき) |
---|---|
意味 | 一般的事実から、個別の事例を導くこと。また、ある事柄を他にあてはめて話を広げること |
由来 | 中国の儒学者・朱熹が書いた文章の一節から |
対義語 | 帰納 |
英語訳 | deduction |
「演繹」の意味をスッキリ理解!
「演繹」の意味を詳しく
実は「演繹」には、2つの意味があるのです。
よく使われている意味は、先ほど紹介した通り「一般的な事実から、より具体的な個別の事例を導くこと」です。しかし、この言葉が使われはじめたときの意味は、「一つの事柄を、他の事柄にもあてはめて話を広げること」でした。
現在よく使われている演繹の意味について、具体例をあげておさらいしておきましょう。
一般的な事実:「人はいつか死ぬ」
↓演繹
個別の事例:「私はいつか死ぬ」
この例では、人間全体という広い対象にあてはまる事実を前提としています。「私」も「人」に含まれるので、「人」全員にあてはまる事実は、「私」にも当然あてはまるという考え方です。
「演繹」という言葉を聞いたことはありましたか。聞いたことがあるとしても、故事成語だということを知っていた人はほとんどいないでしょう。
「演繹」は、現在では数学などの論理関係を示す言葉として使われていますが、もともとは、古代中国の文章の中に出てくる言葉なのです。
演繹の「繹」は難しい漢字ですよね。そこには、古代中国で使われはじめた言葉が由来になっているという事情があったのです。そして、ヨーロッパで発展した数学や論理学の用語の翻訳として演繹があてはめられて、現在使われています。
科学や数学などの自然科学系の論理は、この「演繹」を使います。また、例をあげて説明しましょう。
上の図で、「?」がついている部分の角度は何度でしょうか。
分度器ではからなくても、角度を求めることができます。答えは30°です。
考え方を整理してみましょう。
一般的な事実:「三角形の内角(角の内側の大きさ)を足すと180°になる」
↓演繹
個別の事例:「この三角形の内角を足すと180°になる」
このように、算数や数学の問題を解くときにも、無意識のうちに演繹が使われています。「三角形の内角を足すと180°になるかもしれないし、ならないかもしれない」というように、例外があると演繹ができなくなってしまいます。
だからこそ、自然科学系の学問では、全部にあてはまる普遍的な事実を見つけ出そうと研究が行われているのです。
「演繹」の使い方
ここでは、元々の意味「一つの事柄を、他の事柄にもあてはめて話を広げること」で使われている例文を紹介します。
- そんなに少ない出来事から「こういうものだ」と演繹するのは、気が早い。
- 幼稚園児をあやして上手くいっても、中学生に演繹するのはおかしい。
- 「お前はO型だからマイペースだ」と血液型から性格を演繹されるのは心外だ。
「演繹」の由来
「演繹」は、中国の思想家・朱熹(しゅき)が書いた文章から使われるようになった言葉です。朱熹は、中国独自の思想「儒教」を研究し、儒教で特に大事だとされている古典4冊(四書)に注をつけて読みやすくしました。
その中の一つ『中庸』の解説書につけた序文で、朱熹はこのように書いています。
ここににおいて堯(ぎょう)・舜(しゅん)以来相伝の意に推(お)しもとづき、ただするに平日聞く所の父師の言を以てし、更互演繹してこの書を作為して、以て後の学者に詔(つ)ぐ。
「ここでは伝統に従って、ふだんから聞いている親や師匠の言葉にもとづいている。それを互いに演繹してこの本を作り、後世の学者に引き継ぐ」という意味です。
「演繹」の対義語
演繹の対義語は、「帰納(きのう)」です。この言葉は、明治時代の日本で、英語の訳語として作り出された言葉です。
帰納の意味は、「具体的な事例を合わせて、一般的な事実を導き出すこと」です。演繹とは逆向きの考え方をしています。
ここでも、例をあげて説明しましょう。
一般的な事実:「人はいつか死ぬ」
↑帰納
個別の事例:「聖徳太子も死んだ」「織田信長も死んだ」「伊藤博文も死んだ」……
帰納では、例外がある恐れがあります。先ほどの例では、実は不死身の人が世界のどこかにいる可能性を否定できません。自分の知っている人が全員いつか死ぬ運命にあっても、「(すべての)人はいつか死ぬ」と結論づけるのは慎重でなければいけません。
「演繹」の英語訳
「演繹」を英語に訳すと、 “deduction” となります。ちなみに、帰納の英語訳は “induction” です。
英語にすると、演繹と帰納という言葉のペアが、たがいによく似ていることに気づくでしょう。どちらもラテン語が由来となった言葉です。”deduction” は「下に導く」、”induction” は「内に導く」という意味からきています。
まとめ
以上、この記事では「演繹」について解説しました。
読みかた | 演繹(えんえき) |
---|---|
意味 | 一般的事実から、個別の事例を導くこと。また、ある事柄を他にあてはめて話を広げること |
由来 | 中国の儒学者・朱熹が書いた文章の一節から |
対義語 | 帰納 |
英語訳 | deduction |
演繹は、もともとは中国で生まれた言葉だったのです。演繹は抽象的な言葉で、意味がわかりにくいかもしれません。しかし、由来や具体例を知ることで、理解が深まるでしょう。