初詣などで神社に参拝する時、入口によく「狛犬(こまいぬ)」や「獅子(しし)」を見かけますよね。
また、似ているものとして、沖縄には「シーサー」があります。
どれもライオンをモチーフにした像のように見えます。それでは、なぜ日本に存在しない動物が、ここまで一般的に守り神のように用いられるようになったのでしょうか?
そこで、この記事では「狛犬」「獅子」「シーサー」の由来と違いについて解説します。
結論:左側が「狛犬」、右側が「獅子」、沖縄独自のものが「シーサー」
「狛犬」は、神社・寺院を守る左右一対の像で、元は右側の口を閉じた方の像のことです。
「獅子」は、元は狛犬の左側の口を開いた方の像を指していました。
「シーサー」は、沖縄の家庭で魔除けのために置かれる像です。
守護獣としてのライオンとは
日本には、ライオンは生息していません。それにもかかわらず、ライオンが守り神として登場するのは、海外からその考え方が入ってきたためです。
守護獣としてのライオンの起源は、紀元前3000年頃の古代エジプト・メソポタミア文明にまでさかのぼります。その当時、ライオンは強さや権力のシンボルとして扱われていました。
有名な例としては、古代エジプトにおいて神殿を守るために置かれたスフィンクスが挙げられます。スフィンクスは頭は人間で、体はライオンでかたどられた像です。
その後、ライオンを守り神とする思想は、シルクロードを通って、インド・中国に渡ります。インドにおいて、仏様を左右一対の二体で守る形ができました。また、龍などの様々な幻獣を生み出してきた中国において、ライオンはより派手な「唐獅子(からじし)」となります。
このように、守護獣としてのライオンはそれぞれの地域で多様な変化を遂げ、後に日本に伝わりました。
次章では、左右一対で寺院を守る左右同じの唐獅子が、日本でどのように変化してきたのかを解説します。
「狛犬」と「獅子」をもっと詳しく
守護獣としてのライオンは、これまでそれぞれの地域で祭られ方やその姿が変わってきました。同じように日本でも独自の変化を遂げます。
日本に伝来した当初は、左右同じ「唐獅子」が一対並んでいるという形を取っていました。
しかし、ここに日本風のアレンジがなされ、左に「狛犬」、右に「獅子」というスタイルに変化したのです。
狛犬 | 獅子 | |
---|---|---|
左右 | 左側 | 右側 |
口 | 閉じている | 開いている |
角の有無 | 角がある(時代と共に角がないもの主流となった。) | 角はない |
別名 | 吽形(うんぎょう) | 阿形(あぎょう) |
この左右の違いは、「阿吽(あうん)」という考え方を基に変化したと言われています。
古代インドの言葉であるサンスクリット語において「阿」は初め、「吽」は最後の文字を表しています。ここから、「阿吽」は「物事の始めから終わりまで」を意味します。これは、仏教でも大事な概念として扱われています。
また、「阿」の発音は口を開いて、「吽」は口を閉じて行います。
この仏教の影響を受けて、寺院や、さらには神社の守り神として入ってきた一対の唐獅子を、阿形の「獅子」と吽形の「狛犬」に分けたのです。
[出典:https://azizifitness.com/kongourikisizou/]
同じような例として、「阿形像」と「吽形像」からなる「仁王像(におうぞう)」があります。これにも「阿吽」の意味が込められています。東大寺にある金剛力士像が有名ですね。
ちなみに、鎌倉時代頃から「狛犬」の角がなくなり、「狛犬」と「獅子」の違いは少なくなりました。現在では、左右合わせて「狛犬」と呼ぶことが多いです。
「シーサー」をもっと詳しく
沖縄でよく見られる「シーサー」も、「狛犬」と「獅子」と同じく古代エジプト・メソポタミア文明をルーツにしています。しかし、その意味合いや祭られ方は、大きく異なっています。
「シーサー」の名前は、沖縄の言葉において獅子を意味する「しーしー」から来ているという説があります。
「シーサー」は、寺院のような宗教施設でなく、家庭に置かれます。主に家の屋根の上や、玄関前に置くのが一般的です。これには、魔除けや福を呼ぶ効果があると信じられています。
左右一対で置かれることの多い「シーサー」ですが、左右の違いを以下の表にまとめています。
メス | オス | |
---|---|---|
左右 | 左側 | 右側 |
口 | 閉じている | 開いている |
効果 | 守り神として、福を招く | 魔除けとして、災難から守る |
このように「狛犬」と違う形ではありますが、「阿吽」の思想は「シーサー」にも取り入れられています。
「シーサー」はオスとメスで結界を張って、家を邪気から守ります。そのため、2体を少し離して斜めに置くと、さらに効果があると言われています。
まとめ
以上、この記事では、「狛犬」「獅子」「シーサー」について解説しました。
- 狛犬:日本の神社・寺院の守護獣のうち、左側に置かれ、口を閉じている方の像。
- 獅子:日本の神社・寺院の守護獣のうち、右側に置かれ、口を開いている方の像。
- シーサー:沖縄において、家庭の魔除けのために置かれる像。
「狛犬」「獅子」「シーサー」は、長い歴史の中で、それぞれの地域で変化を繰り返してきました。ですので、造られた時代や地域で少しずつ異なった姿を持っています。
国内を旅行する時、神社や寺院を訪れることも多いと思います。由来の違いを理解していれば、「狛犬」や「シーサー」から歴史や文化を見ることができるでしょう。