傍観者効果とは「集団でいるほど、事態に対処する行動が抑制される心理現象」です。
心理学用語であるため、意味を知らない人が多いと思います。
しかし、傍観者効果は誰でも実体験がある身近な心理現象です。
☆「傍観者効果」をざっくり言うと……
読み方 | 傍観者効果(ぼうかんしゃこうか) |
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意味 | 集団でいるほど、事態に対処する行動が抑制される心理現象 |
提唱者 | ビブ・ラタネとジョン・ダーリー |
英語訳 | bystander effect(傍観者効果) |
「傍観者効果」の意味
集団でいるほど、事態に対処する行動が抑制される心理現象
例:あの状況で誰も救急車を呼ばなかったのは、傍観者効果のせいだ。
助けや介入が必要であろう事態が起こっている時に、その事態を目撃している人の数が増えるほど、行動を起こしにくくなるという心理現象が傍観者効果です。
事態を目撃している人の数が多ければ多いほど、傍観者効果は高まると言われています。
「傍観者効果」の原因
傍観者効果は、以下の3つの心理によって引き起こされます。
- 多元的無知(たげんてきむち)
- 責任分散
- 評価懸念
原因➀:多元的無知
多元的無知とは、他者が行動しないことによって、状況が緊急事態ではないと考えてしまう心理のことです。
「周りの人が誰も助けていないのだから、今すぐに助けが必要な状況ではないのだろう」と考えてしまうことを表します。
自分が事態に介入しないのは過剰反応して恥をかくことを恐れているからなのに、他人が介入しないのは「事態が介入を必要としていない状態だからだ」と都合よく判断してしまうのです。
多元的無知は、「多数の無知」と呼ばれることもあります。
原因➁:責任分散
責任分散とは、他者がいることで責任や非難が分散されると考える心理のことです。
ある事態に対して責任を負う人数が増えるほど、各自が感じる責任が軽くなります。
そのため、周囲に人が多くいることを認識すると、その事態に介入した、または介入しなかった結果の責任を軽く感じてしまうのです。
この結果、事態に対処するという行動が抑制されます。
原因➂:評価懸念
評価懸念とは、他者の評価を気にしてしまう心理現象です。
傍観者効果においては、自分の行動が、他者からネガティブな評価を受けるのではないかという心理が働いて介入が抑制されます。
周りの行動していない他者を押しのけて行動することが過剰であると評価されはしないかと考えてしまうのです。
「傍観者効果」の具体例
傍観者効果は、非常に想像しやすい心理現象です。
その場に、自分一人しかいない場合、何もせずに素通りする人はほとんどいないと思います。
しかし、その男性が街中で倒れており、自分の他に10人以上の人が取り囲んで何もせず眺めていたとします。
この状態で10人をかき分けて男性に声をかけ、救急車を呼んだり救護活動をしたりするのはかなり勇気が必要な行動です。
また、傍観者効果の説明の際に、必ず引用される有名な事件があります。
キティ・ジェノヴィーズ事件
キティ・ジェノヴィーズ事件とは、1964年にニューヨークで起こった婦女殺人事件です。
1964年、深夜に自宅アパート前でキティ・ジェノヴィーズが暴漢に襲われました。
近隣住民38人がキティの悲鳴を聞いたり、事件を目撃していたにもかかわらず、誰一人事件に介入しませんでした。
暴漢が二度現場に戻り、傷害と強姦を繰り返す間に、誰も警察へ通報せず助けにも入らなかったため、キティは死亡しました。
コロンビア大学の実験
コロンビア大学で行われた次の実験も、傍観者効果という心理現象をよく表しています。
学生が「社会問題に関するアンケートに答えてほしい」と呼び出され、部屋の中で質問用紙に回答を書き込みます。
その間に、学生のいる部屋に通風口から大量の煙を流し込み、事態への対処を見る実験です。
実験は、以下の3パターンで行われ、結果は傍観者効果をよく表すものでした。
条件 | 被験者 | 報告した人数 | 報告しなかった人数 |
---|---|---|---|
被験者1人 | 24 | 18 | 6 |
被験者1人+サクラ2人 | 10 | 1 | 9 |
被験者3人 | 24 | 3 | 21 |
明らかに、人数が多くなるにしたがって、行動する人が少なくなっていることがわかります。
「傍観者効果」の提唱者
傍観者効果を提唱したのは、アメリカの社会心理学者であるビブ・ラタネとジョン・ダーリーです。
2人は、上記のキティ・ジェノヴィーズ事件に興味を持ちました。
彼らは、当時マスコミで報道されていた「都会人の冷酷さが原因でキティ・ジェノヴィーズ事件が起こった」という説を疑問視します。
彼らは「キティ・ジェノヴィーズ事件では、多くの人が事件を目撃したからこそ、誰も行動を起こさなかったのではないか」という仮説を立てて、以下の実験を行いました。
学生は2名・3名・6名の3つのグループに分けられ、それぞれ1人ずつ個室に通されます。
学生は、部屋のマイクとインターフォンを使って順番に発言をして討論を行います。
学生には他の参加者の様子は見えず、音声のみが聞こえる状態です。
討論の最中に、参加者の1人が突然苦しむ声が流れるものの、発言の持ち時間が終了して音声が切れてしまう事態になります。
この状況で被験者が、廊下にいる実験者に状況を知らせるのかどうか、また、知らせた場合には、どの程度の時間がかかるのかが検証されました。
実験の結果、2名のグループでは、全員が迅速に報告する傾向が見られました。
2人のグループの被験者は、「この緊急事態を目撃したのが自分しかいない」と思っているため、素早く助けを求めたのです。
しかし、6名グループのように、他にも多くの参加者がいると思っていた場合は報告率が低く、報告した場合でも時間がかかりました。
つまり、傍観者数が多いほど、緊急事態での行動を抑制するということが確認されたのです。
「傍観者効果」の英語訳
傍観者効果を英語に訳すと、次のような表現になります。
- bystander effect
(傍観者効果)
「傍観者効果」を防ぐ方法
ラタネとダーリーは、傍観者効果を防ぐためには以下のような条件や対応が必要だと述べています。
- 援助者が適切な援助方法を知っていること
- 援助者に緊急性を理解させること
方法➀:援助者が適切な援助方法を知っている
まず、緊急事態が起きた際に、周りにいる人が適切な対処方法や援助方法を知っている必要があります。
そのためには、日ごろから緊急時の介助方法やいじめへの対処法などを知識として取り込んでおくとよいでしょう。
方法➁:援助者に緊急性を理解させる
傍観者効果が発動する条件は、自分以外に動かない傍観者が多数いることです。
その状況で、現場に対応するためには、自分自身が最悪を想定して動くことに加え、他の援助者に異常事態が発生していることを認識させてる必要があります。
また、周りの手を借りるためには、人を指名して具体的に指示を出す方法も有効です。
「傍観者効果」のまとめ
以上、この記事では傍観者効果について解説しました。
読み方 | 傍観者効果(ぼうかんしゃこうか) |
---|---|
意味 | 集団でいるほど、事態に対処する行動が抑制される心理現象 |
提唱者 | ビブ・ラタネとジョン・ダーリー |
英語訳 | bystander effect(傍観者効果) |
一見難しそうに聞こえる傍観者効果ですが、日常に多く潜んでいる心理現象であることがわかりました。