年金は人生において大切とはわかっていても、仕組みがよくわからないと感じる方が多いのではないでしょうか。
特にわかりづらいのは、「国民年金(こくみんねんきん)」と「厚生年金(こうせいねんきん)」の相違点です。そこでこの記事では、両者の違いを詳しく解説します。
結論:加入の条件と保険料の払い方が異なる
「国民年金」は、20歳になったら強制的に加入する年金で、保険料は自分で負担します。一方、「厚生年金」は会社は学校などに勤めるようになったら加入する年金で、保険料は自分と勤務先で半分ずつ負担するのです。
はじめに:「国民年金」と「厚生年金」の位置づけ
年金には、次の3つの種類があります。
①公的年金
次のような場合に、国からお金が出る仕組みです。
- 年を取ったとき
- 障がい状態になったとき
- 本人が亡くなったとき
公的年金には、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。
②企業年金
公的年金を補うため、勤務先が福利厚生として出す年金です。運営は国ではなく、保険会社が行っています。
公的年金と同じく、次の場合に給付されます。
- 年を取ったとき
- 障害状態になったとき
- 本人が亡くなったとき
③個人年金
公的年金と企業年金では将来が不安だという人は、任意で個人で行う年金に加入することもできます。これが個人年金です。
しかし、個人年金は国のプログラムではありません。保険会社などが運営します。
このように、「国民年金」と「厚生年金」は “公的年金” に属することがわかりますね。以下、両者について詳しく解説します。
「国民年金」について詳しく解説
国民年金に加入する条件
「国民年金」には、20歳になったら強制的に加入することになります。
年金に入って保険料を納める人のことを “被保険者” といいます。国民年金の被保険者は以下の3種類に分けられます。
- 第1号被保険者:自営業、自由業、学生、フリーター
- 第2号被保険者:民間の会社に勤める人、公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者から扶養を受けていて、自身は働いていない人
第1号被保険者に分類されている人たちのなかで、「学生で働いていないため、国民年金の保険料を払うだけのお金がない」「働いているが所得が不十分で、国民年金の保険料を払えない」という人には、保険料を払うのを一時的に猶予したり、免除したりする制度も用意されています。
なお、被保険者としての種類が変わる場合には、速やかに手続きをする必要があります。
たとえば、民間企業で働くAさんという人物がいるとしましょう。上の分類を確認すると、Aさんは “第2号被保険者” に属していることがわかります。
しかし、Aさんが定年退職をして、働かない生活に入るのならば、 “第1号被保険者” に変わりますね。Aさんは、退職した日の翌日から2週間以内に、 “第1号被保険者” になるための手続きをしなくてはなりません。
また、Aさんの配偶者が働いていない人物だとします。Aさんが民間企業に勤めていた頃は、この配偶者はAさんから扶養を受けていたので “第3号被保険者” に属していました。
しかし、Aさんが退職して働かなくなったら、この配偶者の立場も変わります。この人も “第1号被保険者” になるのです。
このように、自身の被保険者としての立場は、人生の転機とともに変わっていくのです。
国民年金の保険料
平成30年度現在の「国民年金」の保険料は、月額16,340円です。「国民年金」の保険料は毎年変わるため、注意が必要です。
国民年金からもらえるお金
「国民年金」からもらえるお金のことを “基礎年金” といいます。
ですから、「国民年金を受給する」という表現は誤っています。正しくは、「基礎年金を受給する」という言い方になるのです。
基礎年金には以下の3種類があります。
(1)老齢基礎年金
65歳から生涯、受け取り続けることができる基礎年金です。
老齢基礎年金を受け取るには、「国民年金」に25年以上加入していなくてはなりません。つまり、「国民年金」には20歳から入るのですから、65歳になるまできちんと保険料を払い続けていれば、老齢基礎年金を受け取ることができるということです。
(2)障害基礎年金
「国民年金」に加入しているときにけがや病気で障害状態になったときに受け取ることのできる基礎年金です。受給の条件は以下の通りです。
- 公的年金に加入している期間に初診を受けた
- 初診から1年6か月経過した
- 保険料の支払いをきちんとしている
- 障害認定を受けた
(3)遺族基礎年金
亡くなった人物が、死亡時に以下の条件を満たしていた場合、遺族が受け取ることのできる基礎年金です。
- 国民年金に加入している最中だった、または国民年金に入っていた過去があり、60~65歳のときに日本に住んでいた
- 老齢基礎年金を受給していた、または、老齢基礎年金をもらう条件を満たしていた
「厚生年金」について詳しく解説
「厚生年金」に加入する条件
企業や学校などに務めて給料をもらうという働き方をしていて、かつ70歳未満の人たちは、強制的に「厚生年金」に入ることになります。
自営業の人は加入しません。あくまでも、勤務先から雇われている人が加入の対象なのです。
厚生年金に入っている人は下記の4種類に分けられます。
- 第1号被保険者:会社員
- 第2号被保険者:国家公務員
- 第3号被保険者:地方公務員
- 第4号被保険者:私立の学校で働く教職員
企業では、「厚生年金」に加入する人は正社員に限りません。
アルバイトやパート、見習いであっても、勤務時間が正社員の4分の3以上であれば、「厚生年金」に加入する条件を満たしているのです。ですから、条件さえ満たしていれば、年齢に関係なく「厚生年金」に入ることになります。
つまり、「国民年金」は20歳以降に加入するものである一方、「厚生年金」は20歳以下の人が入る可能性もあるのです。
なお、以前は、公務員や教職員は「厚生年金」ではなく、「共済年金(きょうさいねんきん)」という年金に加入していました。
しかし、平成27年度から、「厚生年金」と「共済年金」の2つが「厚生年金」に一本化されたため、彼らは「厚生年金」の第3,4号被保険者に位置づけられているのです。
「厚生年金」の保険料
厚生年金にも保険料が必要です。
厚生年金の保険料は、 “標準報酬月額×保険料率18.3%” という式で算出された値段を、企業と本人が半分ずつ負担します。
「厚生年金」からもらえるお金
「国民年金」と同じく、「厚生年金」からも、年を取ったとき、障害をもったとき、自身が亡くなったときの3つの場合にお金が出ます。
(1)老齢厚生年金
従来、 “老齢厚生年金” では、「厚生年金」に加入している人が60歳からもらうことができていました。しかし、受給開始年齢は引き上げが検討されており、男性は平成37年度から、女性は平成42年度から、65歳からの受給になります。
“老齢厚生年金” では、平均給与が高かった人がより多くの老齢厚生年金を受け取ることができます。すでに解説した通り、厚生年金の保険料は、 “標準報酬月額×保険料率18.3%” の計算式で算出される値段だからです。
(2)障害厚生年金
障害状態になったとき、「厚生年金」から出るお金のことです。支給の条件は、「国民年金」から出る “障害基礎年金と” 同じです。
- 公的年金に加入している期間に初診を受けた
- 初診から1年6か月経過した
- 保険料の支払いをきちんとしている
- 障害認定を受けた
(3)遺族厚生年金
「厚生年金」に入っている本人が亡くなったとき、遺族に支給される厚生年金です。受給の条件は以下の通りです。
- 死亡した時点で厚生年金に加入していた
- 厚生年金に加入しているあいだに病気やけがで初診を受け、その初診日から5年以内に亡くなった
- 障害の程度が重いと診断されていて、かつ障害厚生年金を受ける条件を満たしていた
- 老年厚生年金の受給権者として亡くなった
まとめ
以上、この記事では、「国民年金」と「厚生年金」の違いについて解説しました。最後に、両者の違いをおさらいしましょう。
- 国民年金:20歳になったら加入。保険料は自分で負担する。
- 厚生年金:会社などに勤め始めたら加入。保険料は自分と勤務先で半分ずつ負担する。
自分の年齢や勤務形態を整理して、あらためて「国民年金」や「厚生年金」について理解を深めましょう。
◉参考文献:中尾幸村・中尾孝子(2017)『図解 わかる年金』新星出版社.